おかえり
藤泉都理
おかえり
「『ああくそわりいな上司から緊急招集がかかっちまった。すぐに。超特急で帰ってくっから、ぜってえ、今日中には帰ってくっから。待っていてくれ』。主人である
「帰る」
仕事の相談があるんだ少し時間をくれないか。
エスパーである
相談事を持ちかけられたのは、星の数ほど。
加えて、そう持ちかけておきながら対面できないのは、山の数ほど。
今回も対面できないパターンだ、上司が関わると特にその確率は高くなる。
慧がそう判断して、雅俊に仕える女性メイド型AIロボット、
「ESPジャマーか?」
ESP(超能力)の行使を妨げる効果を持つ機械の事であり、琉伽に組み込まれていた。
主人である雅俊の許可がある時と緊急時のみ、使用は可能であった。
「ああ。慧様が帰ろうとしたら使っていいと雅俊から許可は貰っている」
「私の超能力を妨害するほどのESPジャマーがあるとは驚きだな。そして、それを君に組み込める技術がある事も」
「雅俊は刑事だからな。伝手は山ほどある」
「そこまで私の力が必要、というわけか。君が居れば解決しそうなものだが?」
両手を小さく上げて降参のポーズを取った慧は、福寿草色の革張りソファに座り直した。
「わたくしだけではダメだってよ。悪いな。手間をかける」
「いや」
「メイドらしからぬ口調が気になるか?」
「いや。どうせ雅俊が頼んだんだろう? かたっくるしい口調だと全身がガチコチになるから止めてくれとか何とか」
「ああ。その通りだ。だが、客人を不快にさせてはメイドとしての矜持に関わる。改めてほしいなら言ってくれ。雅俊が帰って来るまでだが、言われた通りにする」
「ああ。いい。そのままで。私もあまり堅苦しいのは好きじゃない。待っている間、暇なので、仕事の資料など貰えると助かるのだが」
「ああ。これを」
「助かる」
琉伽はテーブルに置いていた封筒を慧に手渡した。
慧は受け取ると中身を引き出した。
店屋物のメニュー表だった。
「………」
「『好きなものを出前してくれ』だそうだ。ワープ装置を使って出前されるからすぐだ。何にする? つっても、寿司と鰻とカツ丼と蕎麦・うどんとラーメンの五択だけどな」
「………」
「『慧は律儀なやつだから俺を差し置いて食事を取ろうとはしないが、絶対に食べさせてやってくれ。常備している野菜ジュースも忘れないようにな』。雅俊からの伝言だ」
「………」
「年明けうどんっつーもんが最近流行りらしい。特に、紅に染めたあんこもちとうどんがピカイチだとか。どうする?」
「………助六を頼む」
「おう。わかった」
じぃ~~ころろじぃころろじぃ。
店屋物のメニュー表を慧から受け取った琉伽は颯爽と隣室へと向かうと、黒電話のダイヤルを回して寿司屋へと電話をかけたのであった。
「おいおいおい。慧。そこは眠っとくところだろうがよお。ソファで寝こけて、琉伽に毛布をかけてもらっとくところだろうがよお」
「私が君不在の家で眠るわけがないだろうが」
ただいまあっと大きな声を出しながら玄関の扉を開けて短い廊下を歩き、ひょっこりと居間へと顔を出した雅俊は、福寿草色の革張りソファから下りて、琉伽と腕相撲をして遊んでいる慧に近づこうとしたが。
「おい。雅俊。帰ったらまず何をするんだったんだっけか?」
「おう。うがい手洗い」
「さっさとやってこい」
「おう」
背後から琉伽に扇子をうなじに突き付けられた雅俊は、元気よく返事をすると手洗い場へと向かったのであった。
「ついでに着替えて来い」
「おう」
「はは。尻に敷かれた旦那としっかり者の女房だな」
「雅俊はやる時はやるぞ」
「ああ。知っているさ」
「だろうな」
琉伽と慧は笑みを交わし合ったのち、黒スーツから普段着へと着替えて戻って来た雅俊に、お帰りと言ったのであった。
「ところで、仕事の話だが」
「ああ。あれ。嘘。慰労会。おまえ、慰労会っつったら無視するだろ。だから、仕事だって嘘ついた」
「帰る」
「「そうはさせないぜ。慧/慧様」」
「ドヤ顔を止めろ。雅俊。琉伽」
(2024.1.6)
おかえり 藤泉都理 @fujitori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます