帰省のこと
西しまこ
「帰る場所」
先日、「家庭を持った子どもが、家族を連れて帰省してくると大変だ」という文章を読みました。
そうだろうなあ、大変だろうなあ、と思います。
将来、もし息子たちが結婚して、お正月に泊りがけで来られたら、かなり嫌ですよ。
大変過ぎる。泊まりは勘弁して欲しい。
でもね、帰省する方も大変だったんですよ。
うちは、わたしの実家も夫の実家も遠方だから、帰省となると、かなり大掛かりになる。子どもが小さいうちは車で遠距離を走って帰っていました。正直、行くだけでくたくたです。新幹線や飛行機を使うと、とんでもないお金がかかるし。
そういう事情と、コロナ禍のごたごたとで、帰省することは止めました。
お互い、いいよね。
以前、夫の実家にお正月休みに帰省したとき、ぎりぎりまで幼稚園があったりしたので、日常的な片付けや掃除や年賀状書いたりするので精一杯で、とても大掃除なんて出来なかったのです。そもそも、子どもが小さいから、日常的な家事をするのも一苦労なんですよ。そうですよね? 窓なんて開けていたら、脱走されます。
「え? 大掃除、していないんですか? 信じられない」
わたしは夫の妹にそう言われて、とりあえず曖昧に微笑んでおきました。
どこにそんな時間が? 帰省しなかったら出来たかもしれないけど、そもそも、幼稚園児と未就園児抱えていては、いろいろ難しいんですよ。
夫の妹二人は、一人は結婚していて一人は離婚して実家にいて、そして子どもがいない。子どもがいる大変さは分からないのだろう、と思いました。
別にいいけれど。
子どもが小さいときは顔を見せた方がいいと思って帰省しておりましたが、実家はどちらも危険がいっぱいで、ずっと見張っていなくてはいけないので、ほんとうに気づかれしました。
食事が三食出てくるのは大変ありがたかったです。そこはとても感謝しています。
でも、ハサミとか口に入れると危ないものが、手の届く範囲にあるし、油断していると、離乳食始めたばかりの子にプリン食べさせようとするし、ほんと、神経すり減りました。「わたしは離乳食に刺身をあげていたのよ」とか、あなたはよくても、わたしは嫌なんです。離乳食に刺身!? 震えてしまいました。神経質だと思われても結構です。何かあっては後悔してもしきれません。そもそも、わざわざプリンをあげなくちゃいけない理由もないです。
正直、幼稚園に入る前の子を、祖父母(わたしのも、夫のも)に預けることなんて絶対に出来ませんでした。一緒にいないと、危険すぎて。
次男が幼稚園の年中さんくらいになったら、自分でいろいろ出来るので、預けることが出来るようになりましたけれど。あ、うちはおむつは1歳になる前に外れていたから、おむつ替えなきゃ、とかもなかったんですよ、小さくても。
でも、とても預けられませんでした。恐ろしくて。
だって、そもそも「見ているから大丈夫」が嘘だから。
目を離すし、あり得ないものを食べさせようとするし(1歳前の子にはちみつとかケーキとかプリンとか炭酸とか)、子育てを忘れてしまっている方々に預けるのは不可能だと悟っておりました。そもそも、年に数日会うだけだしね。
(食べ物に気を配った結果、うちの子たちは今でも虫歯はほぼありません。)
ただ、帰省したとき、わたしは確かに何も手伝いしませんでした。
でも、わたしは言いたいのです。
そもそも、移動だけで大変なんだと。移動のためのやりくりも(自営業の調整とか金銭的なこととか)大変なんだと。
それに、わたしの場合、日常的にワンオペで、しかも二人とも夜泣きくんでした。四歳まで、夜泣き。つまり、夜眠れない期間が、妊娠中から含めて八年くらいあったのです。脳内幸せホルモンが出ていたから、気持ちは元気に乗り越えられましたが、身体の方はついてこれなかったので、倒れましたとも。
夜泣きの大変さは、経験した人でないと分からないんじゃないかなあ。
わたしの母は「三時間ごとに起こされて大変だった」と言いましたが、次男くんは一時間ごとに泣きました。つまり、最大睡眠時間は45分です。そういう期間が何か月か続いておりました。
夜泣きはだんだんマシになり、7時くらいに寝かせて、10時、12時、3時、5時に起きる程度になりましたが、夜泣きがなくなってもわたしは夜中に目が覚めてしまって、まとめて眠ることが出来なくなったのです。
そのような中の帰省はかなりハードです。
昼間眠らないともたないので、帰省先でも昼間寝ていたりしたけれど、そういうのも駄目だったようです。
何が言いたいかと言うと、帰省はお互いのためにしない方がいいわねえってことです!
何しろ、日常的に疲れていて、必死の思いで帰省しても「あの嫁はどうしようもない」とか「娘は何もしない」とか思われるくらいなら、帰省しない方がずっとまし。
帰省すると、お金も時間もなくなるしね。
確かに、子どもたちが幼稚園より大きくなってからの、自分の家への帰省は、友だちに会いに行けて、とても嬉しかったです。わたしは地元の友だちに、もっと頻繁に会いたいなあ、といつも思っています。今身近にいる友だちはどうしても、ママつながりの友だちだから、色々微妙だし、心の底から大切に思っていた友だちはみんな地元にいるのです。年に一回の休息だと思っておりました。年に一回ですよ!?
ああ、だから、当然旦那さんの実家に行くのは嫌でした。やることないし。
食べられない量を出され、食べるのを強要されるのが一番しんどかった。人のうちの手伝いも、何していいのか分からないし。そもそも、他人と一緒にいるのが苦手なんです。義務だ、と思って帰っていたんだけど、いろいろあり、もう二度と行かないと決めています。
「帰る」
いい言葉ですねえ。
でも、わたしには帰る場所はないのです。
「帰る場所はない」という決意に似た意識は、もうずっと前から持っていました。
でも、結婚して子どもを産んだとき、わたしはこの子の基地になりたいと思ったんです。強く。この子たちの帰る場所でありたいと。
その思いは今でも変わっていません。
わたしには、ここから逃げ出して帰る場所はありません。そんなものはとうの昔にないのだし、そもそもなかったのだとも思っています。
でもわたしは、彼らの「帰る場所」でありたい。
全然いい親じゃないけれど。
全然うまく子育て出来ないけれど。
でも、ずっとそう願っています。
了
帰省のこと 西しまこ @nishi-shima
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