山岸マロニィ

第1話

 玄関を開けると、砂のようなものが散らばっている。

 それは転々と足跡を描くように廊下を進み、娘の部屋に繋がっていた。

 扉越しに声を掛ける。

「帰ったの?」

「うん、ただいま」

「おかえり」

 そう言うと掃除機を持ち出し、廊下の砂を吸っていく。玄関の砂も丁寧に掃き集める。


 次の日。

 玄関を開けると、砂のようなものが散らばっている。

 それは転々と足跡を描いた後、何かを引き摺るような跡を残して、娘の部屋に繋がっていた。

 扉越しに声を掛ける。

「……帰ったの?」

「うん、ただいま」

「おかえり……」

 そう言うと掃除機を持ち出し、廊下の砂を吸っていく。

 今日はいつもより量が多い。

 いっぱいになった中身を出すため、キッチンの隅に行って、棚からクッキーの缶を取り出す。

 蓋を開ければ、そこには半分ほど砂が入っている。

 掃除機の中に溜まった砂を、埃を除けながら慎重に、ピンセットで缶に移す。

 真っ白なそれは、カサッと乾いた音を立てた。

 そうしているうちに、視界は滲み、涙が溢れた。


 ――これは、去年、骨になったあの子の欠片。


 骨だけになった体で、毎日帰ってくる。

 幼い骨は、歩く度に摩耗して、砂粒のような欠片を落としていく。

 そして今日、とうとう脚が擦り切れて、なくなってしまった。

 だから、腰骨を引き摺って進んだのだろう。今までにない大きな欠片をピンセットで摘むと、激しい後悔が私を襲った。


 ――死ぬ直前、「絶対に帰って来なさい」と、私が言ったから。

 体全てが砂になり、この缶がいっぱいになるまで、素直なあの子は帰ってくるのだろう。


 缶を抱き締め慟哭する。

「ごめんね……我儘な母親で、ごめんね……」

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山岸マロニィ @maroney

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