第6話
結局、あの3人はDVD(あの引率のおじさんの秘宝だったらしいが)のことをおじさんとそれから僕に謝罪した。
僕は「土下座は別にいいよ、飛び込み面白かったし。またやりたいぐらいだ」と言ってやった。そして会話を録音していたことを告げると3人に「こいつには逆らわないほうが良い」とドン引きされてしまった。
そしておじさんから父親に話が行き、飛び込みの件もバレてしまった。これは龍馬がばらしてしまったらしい。まぁいいけど。
釣りに行って夜中に帰ってきた父が、部屋に入ってきた。
柄にもなく「ちょっと、話をしよう」と真剣なトーンだった。
「あのな、浩太郎。……母さんのことだけどな。父さんは、正直、お前に母親がいなかったらどうなるか、不安なんだ。まだ小学生だし、それに共働きだし。だから、お前にはその、いろいろゆっくりと考えてもらおうと思ってたんだ。だけど、なんかその、放置したみたいになってしまって、申し訳なかった」
あまりの無責任さに僕はさすがにキレた。
「あのさぁ! なんで母さんのこととか将来のこととか、もっと相談してくれないわけ? 意味不明じゃん! だってもう11歳だよ? いろいろ心配にもなるよ。でも何にも話してくれないんなら考えようもないだろ! だいたい父さんは母さんのことどう思ってるのさ。僕のためにって言うけど、僕のためを思うのなら父さんの気持ちをまずは聞かせてよ! ハッキリしろよ、息子に忖度してんじゃねぇ!」
僕は父さんにかつてこれほどまでに大声で怒鳴ったことはない。
父さんはしばらくぽかんと口を開けていたが、次に悲しそうな顔をしてうなだれた。
「悪かった。父さん、お前を、無意識のうちにもっと小さい子のように扱ってしまっていたのかもしれない。全部話すよ。母さんのことも、父さんの気持ちも」
僕は憤っていた気持ちを息とともに吐き出した。
そしてさっきよりも幾分落ち着いた声で父さんに言う。
「僕はさ、母さんが悪いことしたっていうのがハッキリしてるのなら、別にいなくたっていいよ。ただ、母さんにも話を聞いてみたい」
「わかった」
と、父さんが答えたのと同時に、僕のスマホが畳の上で震えた。
通話の着信だった。しかもすごいタイミングで母さんから。
父さんに「母さんから」と断って通話に出ると、向こうから「浩太郎?」という聞き慣れた声が聞こえてきて、そしてその後は嗚咽ばかりが聞こえてきた。
母さん、この状態でちゃんと話できるのかな、と少し心配になってきた頃。
「……ごめんね、浩太郎……私は、あのね……浩太郎のことがね……」
母さんの話を遮って、僕は「いいよ。わかってるって」と言った。
またしばらく嗚咽が続く。
「あのさ、とりあえず話せるようになったらさ、父さんと母さんと3人で話がしたいよ。全部教えてよ。僕もいろいろ考えるからさ。それまでは……」
僕はその続きを一瞬考えてから言った。
「それまでは、そうだな。もう少し、こっちでの夏休みを満喫することにするよ」
僕だってここにいる 園長 @entyo
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