第25話.交流・終了




『え〜〜〜!?そんな面白そうなイベントあったなら私もみたかったなぁ』


 3日目夜。合流したキタマリちゃんといちごさんに今日の午前中にあったことを教えると、キタマリちゃんは意外にもゴーストの話に興味を示した。


『あれ、キタマリちゃんって意外とホラー平気なタイプ?』


『ドッキリ系じゃなかったら割とグロ目でもいけるよ!』


『そうなんだ。僕はグロいほうが嫌かな』


 血が飛ばって出たり内臓が出たりとかって見てて痛そうだから、僕はそっちのほうが苦手だ。いっそ骨になってくれてたら割り切れるから、今回のゴーストは平気だったけど。

 イシュタルの休日をプレイしてる人は穏やかな人が多いから怖いものが苦手な人が多いのかと思って1人でイベントを進めてしまったけど、余計なことをしてしまっただろうか。


『あたしは幽霊はあんま得意じゃないっすね』


 けれど幽霊に興味津々のキタマリちゃんは対照的に、いちごさんは幽霊に存在に対して嫌悪を示す。


『あれ、いちごちゃんはお化け苦手なんだ。意外だね』


『幽霊って大体が物理でなんとかできる相手じゃないんで』


『倒す前提?』


 一瞬幽霊が怖いのかなと思ったけど、全然思っていた理由と違った。幽霊を倒せるか倒せないかで考えるなんて、いちごさんは結構好戦的な人みたいだ。

 いちごさんって、イシュタルではお嬢様っぽいアバターをしているけど、普段の話し方からして現実だったら運動部に所属してそうだよね。勝手なイメージだけど。


『ーーーと、そんな感じで今は畑を様子見してるところ』


『そうなんだ。1人で色々してくれてありがとう、お疲れ様』


『ウッス!…………』


じっ……


 今日の出来事の話は程々に、それより先程からいちごさんが僕のことを穴が開きそうなほど熱い視線で見ているのが気になる。まぁ、理由は分からなくもない。


『……この格好、気になる?』


『っ!はい、気になるっす!そのワンピースめっちゃ可愛い!新作っすか?』


 やはりいちごさんは僕の衣装に興味があったようだ。分かる分かる、この衣装可愛いもん。流石僕は師匠と仰ぐ可愛い衣装好き、目の付け所がいいね。


『新作ではないけど、これは僕が畑イベントのをモチベーションを下げずに乗り切るための秘策、“ガーデニングスタイル”です!』


クルッ


『おおっ!!!』


パチパチパチ


 僕が調子に乗ってそのままその場で一回転してみせると、いちごさんは大げさに手を叩いて喜んでくれた。

 うん、このゲームの人はみんなノリが良くて助かる。男がスカート履いて可愛い子ぶってるなんて、他のゲームならブーイングものなのに。やっぱりこのゲームを始めてよかった!


『アリスみたいで可愛いっすね!』


『確かに。アリスもエプロンドレスのイメージが強いですよね』


『あたしもそれ着たいっす!どうやって作ってるんすか?』


『これは【暴れウサギの毛皮】と【赤いバラ】と【鏡面の水】で作るんです』


 いちごさんも衣装を作りたいみたいなので、僕は簡単に材料を教える。衣装のレシピは既に攻略サイトにも載っているし、【暴れウサギの毛皮】も【赤いバラ】も村の近くで簡単に作れるものなので、作成難易度の高いアイテムではない。ただ一つだけ、【鏡面の水】だけは採集難易度が高く、イシュタルを初めたばかりの人には作成が難しいアイテムだ。


『【鏡面の水】って南のネームドエリアの【鏡面の湖】の水っすか?』


『そうだね』


 【鏡面の水】。名前のとおり、南のネームドエリアである【鏡面の湖】の水を採集することで確定で手に入るアイテムだが、移動アイテムの乏しい初心者には地道に歩いて取りに行かないといけないため、そこがネックになってくる。


『それは採りに行くの大変すね』


『いちごちゃんはまだ【鏡面の湖】は行ったことないの?』


『そうなんすよ。まずは手元に入るものを集めきってから遠くに行こうかなと思ってて』


 いちごさん、なかなか手堅い慎重プレイをしているようだ。僕も攻略サイトが充実する前はとにかく広大なマップを巡り歩いて手当たり次第にモンスターを倒して、装備の材料を探したものだ。攻略サイトに載っている装備の作り方も僕が見つけたものもいくつかあるしね。いつも着ている月の精霊イメージの装備も僕が見つけたものだし。


『そっか。パラグライダーは作った?』


『いや、妖精の粉が手に入らなくって』


『よかったら【鏡面の水】、分けましょうか?』


 妖精の粉は普通のエリアで探そうと思ったら入手が相当難しいレアアイテムだ。入手のために時間をかけていたら、その間にイベントが終わってしまう。それは大変惜しい。だってこのイベントはエプロンドレスがとても映えるイベントだから!


『いいんすか?』


 僕の申し出に、いちごさんは驚く。けれど口調は遠慮がちだったが、新しい衣装を作れるからか彼女の目は心なしかキラキラしている。

 

『いいですよ。キタマリちゃんもどう?』


『え!あたしにもくれるの?』


『もちろん!だってキタマリちゃんも絶対に合うし、むしろ着て欲しい』


『えへへ、そうかな?みんなでお揃いだね!』

 

 衣装は染料を使えば色を変えられるので、僕の今着ている水色の色違いでいちごさんのイメージカラーの赤色もキタマリちゃんのイメージカラーの黄色も作れる。だからみんなそれぞれ違った着こなしが出来るのだ。


『でもあたし、代わりにあげられるもんないっすよ。師匠が持っててあたしが持ってるもんなんてないでしょうし』


『別に何もいらないよ』


 【鏡面の水】なら少しストックがあるので、衣装の二つ分くらい分けても問題ない。というか、僕がエプロンドレスを着ているいちごさんを見たいだけだから、むしろ貰って欲しいくらいだ。


『いやいや、タダより怖いもんはないっすよ』


『そう?うーん…………』


 そうは言っても、いちごさんから何かを貰いたいという気持ちも、貰いたいものも特にない。本当に僕のエゴだからな……。


 ……あ。そうだ。


『じゃあ、いちごさんのこと、“いちごちゃん”って呼んでもいいですか?』


 僕はこの際に、もう少しいちごさんとの交流を深められないかと思いついた。前々から、ほぼ毎日会ってるのに“いちごさん”と呼ぶのはなんか距離が遠いなと思っていたのだ。ただ、男プレイヤーが女性プレイヤーを気安くちゃん付けで呼ぶのは軽くハラスメント行為になるかもと遠慮していたのだ。キタマリちゃんだって、ちゃん付けで呼べたのはだいぶ経ってからだったし。


 そんなことを思いながら内心「キモい!」と言われたらどうしようとビクビクしていたが、いちごちゃんは大きく頷いてドンッと胸を叩く。


『!そんなの当たり前っすよ!むしろ何で今までさんづけだったんすか!』


『いや、出会ったばかりの女の人をちゃん付けするのはおじさんは気持ち悪いかなと思いまして……』


『こっちが馴れ馴れしく話しかけてるんすから、逆に敬語使われると気まずいっすよ』


『そうかな?』


『それに、師匠は全然おじさんじゃないっすよ』


『いや、それは絶対違います』


『え〜?』


 いちごちゃんは、一体僕を幾つくらいだと思っているんだろう?最高で10歳近く違うと思うから、いちごちゃんにとっては十分に僕はおじさんだろう。


『まぁどっちにしろあたしのほうが歳は下なんすから、敬語もいらないっすよ!』


『そっか……じゃあ改めて。よろしく、いちごちゃん』


『ハイっす!』


『良かったね、いちごちゃん!』


 僕らが改めてと握手を交わすのを、キタマリちゃんは嬉しそうに祝ってくれた。


『いちごちゃん、ずっと「師匠ともっと仲良くなるにはどうしたらいいんすかね」ってずっと悩んでたんだよ』


『そうなの?』


 それは初耳だ。僕としては節度を守ろうと気を使っていたつもりだったのだが、逆に気を使わせていたみたいだ。なんだか申し訳ない。


『だってあたしって、勝手に師匠のこと師匠呼びしてるだけで、本当の弟子っ認められてる訳でもないし……』


『いちごちゃん…………』


 確かに、最初の出会いは少し強引だった。初めましてでいきなり「師匠」って呼ばれて、弟子入りを断って、そしたら一緒の村に住むことになって。最初は困惑したけど、今はもういちごちゃんも大事な村の、友人の1人だ。


『ごめんね。これからはもっとたくさん衣装の話しとかしよう』


『ウッス!不肖の弟子っすけど、これからもよろしくお願いします!』


『弟子ではないけどね』


『え〜〜〜!?』


 そうしていちごちゃんと交友を深め、ゲーム内で僕に新しい友人が増えた。


 ハイファンを辞めたときは、もう二度とゲームで友人なんて作らないと思っていたのに、キタマリちゃんやいちごちゃん、同じ村に住む人たちと関わっていくうちに、そんな風に凍りついた僕の心は次第に解けていっていた。今はイシュタルでみんなで遊ぶのが楽しい。この時間を大切だと思っている。


「今度こそ、なくしたくないな」


 全てのものに、関係に、いつか終わりは来る。

 それは突然のことだったり、残酷な別れだったりする。


 けれど今は、今この瞬間は、そんなことを忘れて大切な友人と、大切な時間を過ごしたい。


 そう、願ってしまう。




 その後のイベントなのだが……正直、これ以上特筆すべきような点はなかった。なにせ、イベントが畑の野菜を収穫するだけのイベントなので、単調な作業な繰り返しなのだ。

 ただその単純な作業の間でも、村人同士の交流は上がったと思う。今までは顔を見たことあっただけの同じ村の住民でも、「今日は1人ですか?」や「今日も可愛いですね」と声をかけてもらい、世間話をするようになった。

 そういった意味では、このイベントはユーザー同士の交流を深められるいいイベントだったといえる。


 しかし、


【初イベントがこんなんとか、これ以上面白くなる要素なさすぎwwwこれでもう完全にオワコンでしょw】


【うちの村全然人がいなかったから全然イベントポイント稼げなかったんだけど。村ごとで格差ありすぎじゃね?】


【単調作業が続くだけだったから途中から飽きてた。普通に面白くなかった】



「う〜〜〜ん。やっぱりそういう感想になっちゃうよね……」


 世間の評価は厳しかった。もちろん悪い意見ばかりではなかったが、公式からの初めての大々的なイベントで期待値も大きかったから、どうしても厳しい意見が多かった。


「仕方ないといえば仕方ないかな」


 作業ゲーム、イベントを走るゲームに慣れている僕でも、遊ぶためのモチベーションを保つのが難しかった。キタマリちゃんたちの存在がなければ早々に諦めていた可能性がある。ならば村人の人数の少ない村は相当このイベントが負担だったに違いない。


「運営がこれで心が折れないといいけど」

 今回のイベントは大スベリしてしまったが、イシュタルの休日の魅力はまったりのんびり、好きに遊べるところだ。運営さんには是非ともこれからも楽しいイベントを開催してくれると嬉しい。


「さて、じゃあ僕は念願の麦わら帽子で撮影会に励みますか!」


 僕は無事に手に入れたイベント報酬でどんな撮影をしようか、胸を踊らせながらカプセルの中へと腰をかけた。





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ネカマがバレて大炎上したので、バーチャルアイドルは引退して好きにやらせて貰います! 片原痛子 @katawaraitako

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