第24話.修繕・巫女
ーーーヒュウウウ……
スタッ
『ただいま、っと』
無事に神霊樹を採集出来た僕は、寄り道をすることなく自分の村へと帰ってきた。まだ出発してから数時間しか経っていないため、いつものメンバーは誰もログインしていないようだ。
『まだ皆は来てないのか。多分祠を直したら何かしらイベントが発生するんじゃないかと思うんだけど……進めちゃっていいかな?』
とはいえ、イベント発生を皆に見せるためにイベントの参加メンバー全員を待っていたらキリがない。誰かしらはイベントを見逃すことにはなるのだろうし、それならいっそ僕一人が見ることになる方が争いがないかもしれない。
『そもそもそういうイベントストーリーを好きな人が、こんな分かりやすいイベント装置を見逃してるとも考えづらいし』
と、誰に言うわけでもない言い訳をしつつ僕は祠へ向かい修理を始める。
『うっ!自動修繕には20分か』
ただし、自動な上にクラフト技能が低いせいで、素材はあっても修理自体は大変に時間がかかるみたいだ。待つのは正直面倒だが、だからといって手動でしようなんて思わないので、僕は大人しく畑仕事をして時間を潰すことにした。
『今日のみちるはいつもとひと味違うぞ』
いつもなら「みちるに農作業なんて似合わないよ〜」と泣いているところだが、本格的にイベントを進めて行くために、僕は秘策を用意している。
『じゃーん!イベントのためにエプロンドレスを用意しました!』
『『『おー!』』』
パチパチパチ
『うん、みんなさんありがとうございます』
その場にいた同じ村のプレイヤーたちが僕のノリに乗って、パチパチと拍手してくれる。まだ全然交流したことがない者同士だというのに優しい住民たちだ。まばらながらも人がいる場所で、「誰も見てないだろうから、多少独り言を言っててもいいだろう」と満月の頃のノリで調子に乗っていた自分が恥ずかしい。
けれど可愛い服を着たのならば、解説せねばならぬと思うのが己が性。野菜を収穫するふりをしながら、心の中でひっそり解説させてもらう。
このエプロンドレスはドレスと名がつく通り、完全にスカートタイプの女性向けの衣装になる。まぁその点においてはみちるというアバター自体には性別の概念はないので女の子の衣装を着ても問題はないし、顔も中性的(やや少女顔寄り)なので可愛い服が似合わないわけもなく、満月でフリフリの衣装を着慣れている僕にとってもスカートに違和感はそうない。1番の問題である“男プレイヤーが着ている”という点を除けば、完璧な“可愛い”だ。
色は満月の髪の色に合わせてパステルカラーの水色。テーマはそのまま、“ガーデニングスタイル”なので、フリルを追加するようなアレンジはせず、ちょっと装飾は少なめ。そのかわり持ち物に大きめのラタンのカゴを持つことで全体の物足りなさをカバー。
そして何より!今回のみちるの髪型はポニーテールにしている!これは「畑のお手伝いをするために髪の毛が邪魔になるから」というみちるの真面目さと、外で活動する活発さを演出するための仕様だ。ただ、特に髪留めなどをつけていないので一見すると頭周りが淋しく感じるかもしれないが、これはイベント報酬で手に入る麦わら帽子を被ることによって解消する、いわば伏線……。僕はみちるのこの欠けた姿を見るたびに、「絶対に麦わら帽子を手に入れよう」と意気込めるわけだ。※ここまでノンストップ思考
『くく、怖い、怖いよ、己の才能が……』
今やトマトを採っている姿でさえ、様になっている。白い陶器のような手に握られたのなら、ただの野菜も宝石のように輝きみちるを引き立てるアイテムへと早変わりだ。
……ぴえ丸さんにそんなこと言ったら怒られそうだけど。
『みちるさん、また1人でぶつぶつ言ってる……』
『いや、配信なのかもよ?』
『そう思うじゃん?みちるちゃんの配信、どれだけ探しても見つからないんだよね』
『え?お前探してるの?』
『いやだって、その……みたいじゃん』
『分かるけどさぁ』
『?』
チラッ
サッ
『『『…………』』』
『???』
何やら視線を感じたので振り返ってみたが、周りのプレイヤーたちは黙々と野菜を採集しており、誰とも目が合うことはなかった。
『(気のせいか……)』
確かに少し独り言が大きかったが、そんなプレイヤーはさして珍しくもない。中には配信しながらプレイしてる人もいるしね。確かにみちるはゲーム内1と言っていいほど可愛いとは思うが、有名人でもあるまいに皆がみんな僕に興味があるわけじゃない。いい加減に僕もそれを自覚してきたよ。
……ただ、独り言は確かに恥ずかしいから程々にしておこう。
ピロリン♪
【自動クラフトが完了しました】
そのとき、自動クラフト完了の通知が届く。祠の修復が終わったのだ。
『よし、それじゃあ畑仕事はほどほどにして祠を見に行こう』
後は他のプレイヤーに任せて、僕は自分にしか出来ない作業へと戻らせてもらう。イベントを進めたらきっと畑にもいいことがあるはずなのだから終わり次第早急に進めるに越したことはないだろう。そう、だから決して畑仕事が面倒だから逃げるわけではない。
…………そういうことにしておいて欲しい。
『おぉ、なんか元より豪華になってる気がする』
村はずれにあったボロボロの祠は、神霊樹の木材により白く神秘的な祠へと生まれ変わっていた。とはいえ木で作られているだけの簡易的なものだが、もともと吹きさらしで置かれていた御神体の宝玉も扉で雨風を凌げるようになってるし、自動クラフトのお陰でなんかいい感じの彫りも入っている。クラフト技能が高いプレイヤー……それこそさっき出会った“開拓者”さんみたいな人が手動で修繕していたらもっと凄く立派な祠が出来ていたかもしれない。
『でも僕はこれが限界なんで、我慢してくださいね』
いいながら、僕は持ち物欄から宝玉を取り出し祠へと戻す。
『うーん。このままじゃ何か物寂しいし、お供え物も置いていくか』
お供え物といえば、花や食べ物かな。持ち物欄に素材に使う用だった【キク】とスタミナ回復用の【ドーナツ】があったはず。
『ーーーん?アイテム欄の野菜が光ってる?』
ドーナツを捧げようとアイテム欄を見ていたとき、どういうわけか意味ありげに野菜が光っているのを見つけた。それは昔、何かの役に立つかと思って村の商店で買ってそのままアイテム欄の肥やしになっていたものだ。
『畑イベントだから野菜がキーアイテムなのかな?特に使い道の決まってないものだったから、これを供えよう』
僕は赤くツヤツヤと輝くトマトを祠に供えた。そして頭を2回下げ、パンパンと2回拍手。
パンパン!
『イベントが滞りなく、楽しく終われますように』
僕が心から願うのは、それだけだ。なんたって、イシュタルの休日の初イベントなんだ。バグが起きたりゲームが落ちたり、不具合で炎上しないことを祈るのは、プレイヤーとして当然だろう。お金持ちになりたいとか、可愛くなりたいとか、有名になりたいとか、現実のそういう俗物的な願いはだいたいもう叶ってるから、あとは平和に趣味に没頭できることを祈るだけなのだ。
うーん、僕ってば無用な人間!
『あ、あとゲーム内に可愛い装備が増えますように』
前後撤回。これは絶対に外せない願いごとなので運営には是非頑張ってほしい。僕の欲望は大体そこに集約されているから。
『よし!お祈りも終わったし、畑に何か変化が起きてないか確認に行こう』
僕は最後に一礼して立ち上がる。
そのとき、
パァァァァァァ
『ほっ?』
祠(正確には中の宝玉?)が突然光り始めた。
『え、ええ?ここでイベントが進行するの???』
てっきり夜の畑に現れた亡霊のように、あっちでイベントが起こると思い込んでいたので思わず驚いてしまった。しかし、驚く僕をよそに祠からは着物を着たおじいさんの姿が薄っすらと浮かび上がってくる。
『よくぞ祠を直してくれた。それに瑞々しいお供え物まで……』
『い、いえ。当然のことをしたまでです』
『お陰でワシも力を取り戻した。この地の豊穣を約束しよう』
ピロン
【“豊穣の守り手”のトロフィーをゲットしました】
【“豊穣の巫女”のトロフィーをゲットしました】
おじいさんの言葉とともに、トロフィー……ゲームのやり込み報酬が手に入った。ゲーム内の称号は手に入らないけど、こういうのはちゃんとイベントでも用意されてるんだな。メインストーリーだけかと思ってた。
始めの【豊穣の守り手】は銅のトロフィー、その後の【豊穣の巫女】のトロフィーは金色なので、【豊穣の巫女】はよほど貴重なイベント、つまりこの祠直しイベントをクリアする必要がある貴重なトロフィーっぽいな。祠を直せるのは先着1名だろうし、こんな貴重なものを僕が手にしてしまってなんだか申し訳ない。
だが、
『巫女、か……』
男プレイヤーである、この僕に……?
『くく……!』
僕は思わず笑ってしまう。だって、そうだろう?
『ハハハ!分かってるじゃないか!』
みちるが巫女なんて、そんなの似合わないわけないだろう!
ついにイシュタルも、みちるの性別を超えた可能性に気づいてしまったというわけか。
僕は巫女さん姿のみちるを想像して、ほくそ笑む。
『巫女さんバイト……正直憧れるよね』
現実の僕は男なので絶対に巫女にはなれない。それでも、お正月とかに神社でお守りとか御札を渡すアルバイトには、ぶちゃけかなり興味がある。というか、できるなら今からでもやってみたい。というか、今でもそういうアルバイトあるのかな?アルバイトのページでは全然見ないんだけど……。
『…………はっ!思わずまたトリップしてた!みちるの着物姿は絶対見たいから一考の価値アリだけど、今は眼の前の麦わら
イシュタルの運営は優しいから、多分どこかで浴衣とか着物の装備をくれるだろう(願望)。
僕はひとまず祠を直してどんな変化があったのかを確認しに、畑へと戻った。
『戻りました、調子はどうですか?』
『あ、みちるさん!おかえりなさい!』
『おかえりなさ〜い』
『ただいま。さっき、イベントを進められたみたいなんですが、こっちは何か変わりました?』
『あぁ、何かトロフィーで【豊穣の守り手】っていうのが手に入りましたね。みちるさんのおかげですか』
『なんか畑の土がキラキラするようになりましたよ』
『本当ですか?』
言われて畑を覗いてみると、確かに先程より土がフカフカになっている気がするし、キラキラしている。
『植物の成長速度が早くなったりするのかな?』
『それはまだ検証出来てないっすね』
『まぁ進めたばっかりですしね』
答え合わせはもう少し先になるだろう。今はそれよりも、
『そろそろ日が暮れてきたし、キタマリちゃんといちごさんがログインしてくる頃かな』
夜の亡霊がどうなったのかも気になるし、キタマリちゃんに宝玉のことと祠の修繕のことも報告しないといけないし、たった1日で話すことがたくさんあるな。
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