第2話 前世からの因縁
***
――時は平成。
場所は地方都市の総合病院の産婦人科病棟。
「赤ん坊が生まれたというから来てみたら……」
見舞い客の1人である俺の祖母は、生まれたばかりの赤ん坊から目を背けた。嫌悪の表情を浮かべると、
「双子やないか。しかも男と女の双子や。なんちゅう縁起悪いんや」
「ちょっと、お母さん、そういうことは嫁の前で言わんといてください」
「そうや、ばあちゃん、何が気に入らんのや? ひ孫の誕生やで」
出産を終えたばかりの俺の妻は、双子の横で静かに眠っている。なかなか子供を授からなかった自分たち夫婦にとって双子の誕生は神様からのご褒美ではないかとさえ思えた。
――しかも、『男女の双子』である。
祖母は一体何が気にいらないというのだろう。病室からぷいっと出て行ってしまった。慌てて母親がその後を追う。
「――これは?」
ふと、俺は生まれたばかりの双子の手首を見やった。なんだろう、と小さなその手首をよく見ると――。
――女児の右手首と男児と左手首に、薄い腕輪のような痣があるのだ。随分変わった形の痣だ。二人の手首を縛った跡のように見えない事もない。
――ぞわり。
一瞬、鳥肌が立った。双子の痣が何かとても不吉な象徴のように思えたが、慌てて頭を振った。ただの痣だ。レーザー治療などで綺麗に消せるだろう。あとで主治医に相談してみよう。
俺は眠っている妻と双子の元を去り、廊下に出た。廊下では母親が祖母を必死になだめている。
「まだ、ばあちゃん何か言っているの?」
「そうよ、おばあちゃん考えすぎよね。今時『生まれ代わり』なんてあるわけないのに」
「あれは『縁起の悪い赤ん坊』と言っているんじゃ」
「確かに昔は『双子は縁起悪い』とか言われたこともありましたが、それは村の飢饉とか食べ物が少ない時代のことですよ。口減らしとかもあったらしいですけど大昔の話です。今は双子や三つ子はたくさんいますよ」
現代では双子や三つ子など多胎児は多く、実際に街中で多胎児を見かけることもよくある。
祖母は2人をじっと見つめると――。
「ただの双子やない。『男女の双子』は心中した者の生まれ代わりじゃ。必ず2人の体のどこかに前世からの因縁があるはずじゃ――」
祖母は深いため息をつくと、
「2人を繋ぐホクロや、――痣があるはずじゃ」
了
満月の夜の願いと呪いの痣 山野小雪 @touri2005
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます