作者様の圧倒的な描写と知識から始まる書き出しから、一気に物語に引き込まれました。そこから読了までは短い文字数もあり、あっという間です。
まるで、現実にその人物があたかも存在するかのような、繊細な描写により説得力が増すことで、読了後に更なる納得感を生み出しました。これは仕方ないわ、と。
作者様の各方面への多彩な知識も見所で、思わず「ほうほう」と声に出すことしきり。
昨今の棋界のオマージュめいた小話も、将棋ファンにはにやりとできる部分でしょう。
そして圧倒のクライマックスにはもう脱帽。
皆様も是非、ご一読下さい。絶対に損は致しませんので。
個人的には攻め将棋である「居飛車」と、受け将棋である「振り飛車」を指す両者の攻防が、いつの間にか盤外では……、と言うシチュエーションも良かったです。
やはり大山康晴十五世名人は正しかったんだなぁ……。
この作品は、大変な偶然の果てに、如月美麗という女性棋士、黒田鉄心という男性棋士、二人の天才による対局があり、盤上・盤外の色んな意味でアツい攻防が描かれた物語です。
如月美麗という女性。才色兼備を地で行く女性で、女流棋士ではなく「棋士」として活躍するという時点で只者ではありません。欧米仕込みの大胆不敵さ、苛烈なまでの行動力、そして鋭い分析力を持ち合わせた完璧超人――ただし異性に対しては、少々お盛んなご様子。天才ゆえの偏りも、魅力として描かれています。
黒田鉄心という男性。その名のとおり、鉄の心を持った若き棋士です。容姿についての言及がほとんどないのは、それが語るに及ばないほど将棋に全振りしている証拠――女性への免疫がまるでない、そんな純粋無垢な青年です。
全4話の構成で、第1話、第2話では二人の圧倒的な天才ぶりと、第3話前半は対局における張りつめた空気が描かれます。はっきり申し上げて、これ、実はすべて「前戯」なのです。
格調高い筆致で綴られた文章に、思わず正座をして読み進めたのですが……第3話後半に入った途端、まさかの急転直下。脇腹にダイレクトアタックされるかのごとく、私の腹筋は完全に崩壊しました。
将棋の知識は一切不要。描写の端々から「何かすごいことが起きている」ことさえ感じられればOKです。格式高く始まり、抱腹絶倒で終わるこの作品、ぜひ未読の方はご覚悟の上でお読みください。
将棋がわからない方でも十分おかしみ楽しめる世紀の五番勝負。
高校生棋士・黒田鉄心(17) vs. スナイパー・インテリジェンス・ヴィーナス女流棋士・如月美麗(27)。
最終局の最終盤、まさにクライマックスに差し掛かろうとした時に事故が起きてしまう。
視覚的な色仕掛けが満を持しての発動。この盤外攻撃を真っ向から受けてしまう黒田。思考が、身体が震えているのか、これはかなり効いている様子。これが俗に言う羽生マジックと謳われる「武者震い」なのか。しかし、これを生理現象として肯定的に解釈する視聴者たちには事の重大性が一切伝わらない――もはやシュールを超えたコメディだ。
そして持ち時間が一分を切る一分将棋に突入。黒田が築いてきたこれまでのマージンが悪手緩手でみるみる差が縮まってしまう手に汗握る展開。
なんという濃密な展開なんだ。異なる次元の衝突が盤上と盤外で同時に殴り合っている異様な盛り上がり。
勝利の行方はいかに……閾値MAXの先に見る、劇的ラストに果てようぞ。
将棋は知の格闘技――それは幻想だったようだ。
この物語において、盤面はただの前戯である。
勝負を決するのはAIでも筋読みでもない。
視床下部と桃色の電磁波である。
如月美麗。あまりにも盛られたスペック。
美貌・語学力・量子力学・外交センス・棋力・艶磁力(new!)
それらすべてを武器に、布と肌のあわいで戦局をひっくり返す。
対するは、「鉄の意志」で知られる17歳・黒田鉄心。
だが彼は知らなかった。棋譜には記されない一手があることを。
五番勝負の行方? そんなのはもはや些末な問題だ。
我々読者が見るべきは、〝読み筋〟ではなく別の筋。
差し込む西日、脱ぎ捨てられる体裁、人間たるもの最後に信じられるのは己の肉体と精神のみ。
黒田にはまだ知らない高みがあった。
それが彼の森林限界を超える時、世界は新たな一面を見せる。
それは祝福か、あるいは呪いか――
これは文学か? エンタメか? フィクションか? 公然猥褻か?
気になる人は、ぜひ〝視線を落として〟読んでみてほしい。
詰まされるのは、あなたの心かもしれない。
……次の一手? 知りたい方は『芥』に手を伸ばせとの神の啓示。
嗚呼、啓蒙が高まる。