ごみ箱は向こうだよ姉さ

呪わしい皺の色

終わらない悪夢

現実同様夢の中でも口下手な僕を差し置いて脇役達が勝手に自己紹介を始め、意気投合し、友達になるのに共に過ごした時間なぞ関係ないとばかりに手をつないでどこかに歩いて行く。僕はジョークの教科書をめくりながら彼らの後ろをつけて行き、遅れを取り戻すためには相当面白いことを言わなければならないぞと焦るが、何歩進んでも挽回の策は浮かばない。やがて彼らはオープンカフェの席につき、胃腸を破裂させるべく大量の注文をした。大量の注文に対応すべく店員が大量に複製され、同じ顔の店員が毎秒二品運んで来るのですぐにテーブルがいっぱいになり、皿が積み上がったかと思えば神の一瞥ももらえない高さで崩壊し、パンケーキが歩道に投げ出された。近くのタイルを歩いていた、前世で徳を積んだ蟻と積んでいない蟻のバディがこの甘い食べ物を発見し、仲間を呼んでいる間に僕は離れた席についた。一つもジョークが浮かばなかったからだ。しかし、まだ諦めていない。彼らの会話に聞き耳を立て、自分に有利な話題が巡って来るのを待つつもりだ。今は幼い頃に死んだ祖父と僕の大学の同学科の男が円周率を十桁ずつ交互に唱えているところだ。他の連中も二人の記憶力に目を丸くしている。一体どちらが勝つのか。そしてパンケーキはいつまで運ばれ続けるのか。グウゥとお腹が鳴り、メニューからおにぎりを注文すると、運んで来たのは弟に数々のトラウマを植え付けた残酷少女期の姿を取る姉で、ギリギリおにぎりと呼べなさそうな何かを突きつけながら邪悪な笑みを浮かべる。彼女は僕に何か言っているのだろうか。わからない。慈悲深い夢の世界の支配者が姉が口を開く寸前に弟の耳に魔法をかけ、カクテルパーティー効果を増幅したのかもしれない。円周率を唱えていた連中は今からしりとりをするらしい。それだったら僕も参加できそうだ。「しりとり」 「りんご」 「ちょっと待って。パンケーキがたくさん落ちてるよ」 いまさら気づいたのかよ馬鹿共が。蟻がたかって食えた物じゃないのに連中拾い始めたぞ。誰も「ご」を言わないのか。だったら僕が言うぞ。「ゴミ箱は向こうだよ姉さ


〇挿絵

https://kakuyomu.jp/users/blackriverver/news/16818093091398672041

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