後編
「ちょっと、無駄に飛んでるんじゃないよ。全然降りてこないからそろそろ撃ち落としてやろうかと思った」
開口一番そう言われてイルは肩をすくめた。
「ワリ」
「はぁ。下で待たされるこっちの身にもなってほしいね。──で? 見つかったの?」
その問いに──
「うん!」
アキは笑顔で、大きく頷いた。
♦︎♢♦︎
「なんとか年内にあの子を送り届けることができたし。無事任務しゅーりょー」
「あァ……。間に合ってよかった」
「せっかくだから中心部まで行ってみる? 屋台とかいっぱい出てるよ」
「オマエそンな食いモン興味ねェだろ」
「きみはあるだろ」
「あァ、まあ……」
アキを送り届けたふたりはぶらぶらと大通りを歩いていた。中心部に近づくにつれ人が増え、静かなざわめきが波のように広がっていく。
やがて人々は同じ方向を次々に指差し、胸の前で両手を組んだ。
彼らの視線の先。教会の上空に大きな白い魔法陣が浮かんでいる。
「ああ。全然間に合わなかったね。もう年が開ける」
言いながらアルコルも立ち止まって両手を組み、イルもそれに続く。
「オマエも新年の祈りをするンだな。……異教徒なのに」
「その方が面倒が少ないからね。うちの女神さまもそれくらいは許してくれる」
魔法陣から真っ白な光が立ち上る。それは清く眩く、王都を隅々まで照らしていった。
白い光と静寂に包まれ、人々はただ祈る。
──やがて光は徐々に薄くなり、天へと消えた。
止まっていた人々が動き出し、すぐに喧騒が大きくなる。
「教会の儀式が終わった。ってことは、次は」
今度は王城の上空に大きな魔法陣が浮かび上がった。派手な黄色をしたそれから、轟音とともに
──それを皮切りに、上空へ次々と魔法陣が浮かび空へと魔法を打ち上げていく。
「来たね! 王都新年恒例! 魔法自慢大会!!」
「おま、これを魔法自慢大会って……。精霊様に大きな魔法を捧げて今年1年また加護してもらえるように祈るって、ちゃんと意味が……」
「あーなんでもいいよ! 実際これ、魔法自慢大会だろ! 今日のために練習してたりするんだからさぁ!」
「はぁ、やっぱ異教徒じゃねェか……」
笑いながら歩き出す相棒を追いかける。次々と打ち上げられる魔法の光に照らされ街はカラフルだ。その中でも一目でわかる金髪の横に立ち歩く。
アルコルは真っ青な瞳を右に左に動かしながら、
「んん、これも悪くないけど、やっぱ雪降ってる方がきれいかもねー。光が方々に反射してキラキラしててさ。きみ、雪降らせられないの?」
「雪なら
「魔法って使える属性は人によって違うんだっけ? ちぇっ、誰か降らせてくれたらいいのに」
イルは不意に立ち止まった。右の手のひらを高く掲げる。その上空に緑色の大きな魔法陣がゆっくりと編まれていく。
「お。きみも魔法自慢するの?」
相棒が振り返りイルは頷いた。
(俺の
「
始動語に合わせ魔法陣が濃く輝く。そこから吹雪のように立ち昇るのは──雪のように白い、小さな花びらだった。
勢いよく吹き出した花びらたちが、風に乗ってふわりと舞う。ひらひらと変わる角度に合わせて魔法の光が反射する。イルを中心に、街の一部が幻想的なきらめきに包まれる。
「これは……」
「ねぇ見て、あそこ。すごいきれい……!」
「雪だ! 魔法の雪だ!」
息を呑んだアルコルが何か言うより早く、近くを歩いていた人々が次々に立ち止まって歓声を上げる。その声にアルコルもやっと真っ青な目を細めてイルに近づいた。
「イル、ありがと。最高だよ」
「あァ。メシ奢れよ」
「あはぁ。そのくらいなら、いくらでも」
乱反射する光の中──イルの灰色がかった緑色の瞳は、雪の積もった大樹のように優しかった。
魔法の雪景色 氷室凛 @166P_himurinn
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