第28話 光庭園異聞IV 最終話「永遠の美術館」



特別展示室は、もはや地獄絵図と化していた。


壁一面に描かれた肖像画。そこには開廊式の来場者たち、警備員、警察官たち。全員が苦悶の表情を浮かべたまま、永遠に解放されることのない呪縛の中で生きている。


「さあ、完成させましょう」


シャネルのドレスに身を包んだ明美が、最後の一撃のために迫ってくる。その背後には無数の明美。全てが異なるブランドに身を包み、全てが異なる段階の変貌を見せている。


私の体は、既に大半がキャンバスと化していた。

最後の意識で必死に抵抗するが、もう逃げ場はない。


「美しい顔...」

明美が私の頬に触れる。

その指が、生々しい肉の触手となって絡みついてくる。


「永遠の芸術になるのよ」


突然、展示室の照明が消える。

月明かりだけが、ガラス窓から差し込んでくる。


その光の中で、全ての肖像画が動き出した。

額縁から血が溢れ、描かれた人々が這い出してくる。

しかし、彼らの顔は全て明美に変貌していた。


「皆で歓迎しましょう」


無数の明美が、私を取り囲む。

その体が溶け合い、巨大な肉の壁となる。


私は叫ぼうとしたが、もう声も出ない。

体が完全に絵の具と化し、壁に染み込んでいく。


最後の意識で見た光景。


特別展示室の壁に、新たな肖像画が完成する。

私の永遠の苦悶を留めた一枚。


「素晴らしい作品ね」

明美が満足げに微笑む。


彼女の体が再び変貌を始める。

ドレスが裂け、中から無数の顔が生まれ出る。

全て新たな獲物を求める、飢えた表情。


美術館の外では、既に警察の包囲網が敷かれていた。

しかし、それは明美にとって、新たな「材料」が集まってきたことを意味するだけ。


永遠に終わることのない、

狂気の展覧会の幕開けだった。


(終)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『喰う女』美しすぎた殺人鬼の怪談 ソコニ @mi33x

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ