サムライ、異世界配信で頂点を掴む 〜この刀、バズらせます〜

ぽんにゃっぷ

第1話 異世界召喚と配信の始まり

 焼けるような熱気と鉄の臭いが充満する戦場。

 真田宗介――かつて戦場で名を轟かせた剣士として、幾人もの敵を斬り伏せた彼も、五十を過ぎた今ではその腕も衰えていた。


「……かつての剣は、どこへ消えたのか……」


 血を流しながら膝をつき、ぼやける視界の向こうに立ち塞がる敵兵たちを睨む。

 全盛期の彼ならば、これほどの数に囲まれても恐れず、己の技量で全てをねじ伏せたことだろう。


「修練を誤った……いや、老いには抗えぬということか……」


 自嘲気味に呟きながら、刀を地面に突き立てた。

 膝を折り、静かに目を閉じる。


「ここまでか……」


 覚悟を決めたその瞬間――眩い光が全身を包み込んだ。


 次に目を開けると、そこは戦場ではなかった。

 無限の闇が広がる空間に、身体が漂っているのを感じた。


「……何だ、ここは……」


 宗介は手を伸ばそうとするが、肉体の感覚が薄い。

 手がまるで薄い霧のように透けて見えた。


 その時、闇を裂くように光る小さな物体が現れる。

 滑らかな金属の光沢を持つその正中には、光が瞬いている。


「何者だ、貴様は……?」

{剣士、真田宗介さなだそうすけ。私はグリモア……本来ならば、ただ召喚を行う存在。しかし……}


 光の声は冷たくも優しく、直接頭の中に流れ込むようだった。


{説明する時間がない。その姿も無理をしたが、この形を選ばざるを得なかった……}

「待て、何が何だか……」


 説明を求める暇もなく、次の瞬間、足元から光が湧き上がる。

 視界が揺らぎ、反転するような感覚に襲われた。


 目を開けたとき、宗介は湿った空気に包まれていた。

 周囲は薄暗い洞窟。

 彼は周りを見回し、近くに水たまりのような池を見つけた。

 ふと覗き込むと、そこに映る自分の姿を見て言葉を失う。


「これは……?」


 若い。 

 麻の衣をまとう、元服したばかりの頃の自分そのものだった。

 髪には艶が戻り、皺一つない肌。

 血管が浮かぶ腕に触れると、漲る力を感じる。


「いったいなにが……」


 だが、驚いている間もなく、声が響く。


{準備はいいですか?}


 声の主が姿を現した――宙に浮かぶ小さな金属の塊。

 宗介は思わず眉をひそめ、刀の柄に手をかけた。


「お前、先ほどの……ぐりもあといったか……」


 点状の光が一瞬大きく広がり、次に細く絞られる。

 それは、何かを考えているような仕草だった。


{初めまして、宗介様。さっそくですが、配信をスタートします}


 その冷静な声に、宗介の目が鋭く光る。


「初めましてだと……? だが、先ほど――」


 宗介が言葉を継ごうとすると、グリモアの目が光り輝いた。


 突然、空中に文字が浮かび上がる。

 それは、動いている――いや、流れている。


《初見!》

《へんな服に変な武器!》

《これ俺知ってるぞ、サムライってやつだよ》

《でたよ、知ったか勢》

《この剣士はなんか強そうな雰囲気ある》


「なんだこれは……」


 宗介は困惑し、浮かぶ文字を手で払おうとしたが、当然触れられない。


{彼らは視聴者、あなたを見守る存在。ですが、今は目の前に集中してください}


 グリモアの声が響くと同時に、奥から低い唸り声が聞こえてきた。


 暗がりの中から現れたのは、背丈が子供ほどの醜悪な生物が数匹。

 薄緑色の肌、ギラギラと光る目、そして手には錆びた短剣を握りしめている。


「獣でも人でもない……何だ、この異形は……」


《うわ、ゴブリンだ!》

《これ、弱モンスター枠だろw》

《いやいや、序盤はこれが普通だって》


「ごぶりんだと……? 面妖な……」


 宗介がつぶやく間もなく、ゴブリンが唸り声を上げながら突進してきた。


 刀を抜くと同時に、身体が自然と動いた。

 軽やかに横へ一歩避けると、宗介の刀が鋭く閃いた。


 一閃目でゴブリンの手首を切り落とし、続けざまに横薙ぎの二閃目で胴を両断する。


 その刃が止まることなく、三閃目で後続のゴブリンの喉元を断ち切った。

 ずばずばと断ち切られる音が響き、薄暗い洞窟に血飛沫が舞う。


 ゴブリンたちは抵抗する間もなく、次々と崩れ落ちる。

 宗介は静かに刀を構え直し、わずかな血の滴が刀身から床へ落ちる音だけが響いた。


「……むっ」


 刀を握る手に、微かな違和感が残っている。


「重みが……いや、剣筋が若さに追いついていないか……」


 宗介は立ち止まり、目の前の倒れたゴブリンたちを見据えた。

 間合いを測り、技を繰り出す感覚は確かだが、どこか足りない――それが、身体に染みついていた。


「技がまだ、この身体に馴染んでいない……」


 全力で繰り出した斬撃が的確であるほど、自分の技術がまだ十分ではないことを宗介は悟った。

 宗介がゴブリンを斬り伏せた直後、視界に溢れる文字列が急速に増える。


《いまの動き見た!?》

《え、めっちゃ強くね?》

《これ新規だろ?》

《身体が馴染んでないとか、どういうこと?》

《知らんがなww》


 宗介は目を細め、視界の端に浮かぶ数字に気づいた。


「……この数字は何だ?」

{現在の同時接続数を示しています。1,000人を突破しました。視聴者が続々と参加しています}


《新規配信で!?》

《バグ?》

《いや、あの一閃はマジでスゴかった》

《これ絶対切り抜きでバズるやつw》

《スパチャしろー!》

《いいだしっぺがしろ!》


 視界の一角に音と共に表示が現れる。


『〇〇〇さんから5ルースのスーパーチャットです!』

『〇〇〇さんから10ルースのスーパーチャットです!』

『〇〇〇さんから1ルースのスーパーチャットです!』

『〇〇〇さんから3ルースのスーパーチャットです!』

『〇〇〇さんから2ルースのスーパーチャットです!』

『〇〇〇さんから4ルースのスーパーチャットです!』

 ……

 …… 

《初スパチャ、わたしもするわん♪》


 視界の端で小さな通知音が響くと、金色の文字が浮かび上がる。


『ニーチェさんから100ルースのスーパーチャットです!』


《ナイス!》

《さすが富豪ニーチェwww赤スパ!!ww》

《スパチャ止まらねえ!》

《はよ、次のゴブリン倒せ!》


 文字の羅列の勢いは止まらない。

 次々と表示される通知に、視界が埋め尽くされた。


「……何だ、これは……?」

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