ダンジョンあるばいと

げこすけ

ダンジョンあるばいと

「欲しいけど、高いなあ…今の僕の小遣いじゃとても買えないや」と僕はスマホを見ながらベッドの上でため息をつく。


 僕の名前は 椿一郎 16歳 大拓山高校一年生。

クラスでもそんなに目立つ方でも目立たない方でもないゲーム好きのどこにでもいる高校生。

どーしても!新しいゲーム機『ジョイステーション5』が欲しいんだけど、とても高くて買えない。

パパやママにお小遣い前借りを頼んでも、ダメの一点張り。

コンビニバイトもやってみたけど、なーんか違うなあと思って5日で辞めた。

なんか楽してお金儲かるバイトってないかなあ…


「ピーン♪」

スマホで『ジョイステーション5』の画面を見ているとショートメールが届いた。

『簡単なアルバイト募集中!必要なのは携帯電話だけ!指定された作業をするだけで1日5万〜10万!』だって!?

 すごいじゃん!!10万円あったらジョイステとゲームも楽勝買えるじゃん!!

僕はすぐに飛びつく様に応募入力をした。


 次の日曜日の朝、依頼先の方からメールが届き、僕は待ち合わせ場所に向かった。

どんな仕事だろう?ジョイステの為なら命も賭けるぜ♪なんてウキウキしながら待ち合わせ場所に着くと…


大沢山の旧トンネル…

の奥…


これってオバケが出るって有名なトンネルじゃん…

いや!ジョイステの為だ!!

僕は意を決してスマホのライトを頼りに真っ暗なトンネル内を進んで行く。


 すると奥で薄暗い灯りの中、テーブルの横に椅子に腰掛けてる茶髪の20代半ぐらいの男の人がいる。

「おー!君が椿一郎君?待ってたんだよー!!」

「ど、ども…」

「お!お菓子食う?それともコーヒー飲む?」と明るく懸命に僕をもてなそうとする彼。でも…なんか普通と違うんだよね?

「お、お構いなく…」と愛想笑いしながら僕は椅子に座る。

「いやあ!君、健康そうだね!!うん!採用!!」と満面の笑みで彼はコーヒーとお菓子を僕に差し出す。

「ええ!?採用!?ちょっと待って!!仕事の内容も聞いてないのに!?」

「いや?大丈夫!簡単な仕事だから!俺達と一緒に物を運ぶ仕事だから!」


僕はピーンと来た!


ヤバイ…これ、闇バイトだ…


「さあ!椿一郎君!仕事に入ろう!」と彼は満面の笑みで僕の肩に腕を掛け、僕を引き寄せて薄暗いトンネルの中に進もうとする。

 いや!これヤバいよ!!闇バイトだ!!絶対おかしいバイトだ!!

何がおかしいって彼がまずおかしい!!


だって…

腰に長剣ぶら下げて、マント羽織って革の鎧着てるんだもんッッッ!!


何これ!?コスプレ!?新手のコスプレ闇バイトですか!?


「ちょ!ちょっと待ってくださいよぉ!!」と僕は懸命に抗うけど、肩をがっしり掴まれた彼の進むままトンネルの奥に進むと…眩い光が?


強烈な光に、目をゆっくり開けると…

目の前にはRPGゲームの様な街並みの世界が!?

「ヘリオスへようこそ!椿一郎君!

俺の名はリオン!よろしくな」と茶髪の元気の良い気の良さそうなお兄さんに握手された。

「へ…

へえええ!?

何コレ?なんなのコレッッッ!?新手の闇バイトってこんなに手が込んでるの!?」

「何言ってんだよ?椿一郎君?あ、一郎で良いか?」

「いきなり呼び捨て!?フランクすぎる!」

「まあ、良いじゃん?早速だけど、仕事に行くよ?仲間が待ってんだ!」とニカっと笑うリオンさん。

「え?もう仕事!?展開早やッッッ!!」

いきなり手を握られて足早にどっかの森に連れ込まれる!


 なんなんだよ?この人!無駄に元気にテンション高いし!!意味わかんないよ!!


「ゼエッゼエッ…ハアハア…」

目的地に着くと、僕は下を向きながら呼吸を整えるのに必死だ…


「ねえ?ちょっと大丈夫?君?」

いきなり綺麗な声が聞こえてきて思わず「え?」と間抜けな声を出して顔を上げるとめちゃくちゃスタイルが良くて綺麗なお姉さんがいる♡

「あ、あ、ありがとうございます!」顔が赤くなってるのがわかってるけど僕はニヤニヤが止まらない。

ん?あれ?このお姉さん。

「エルフだ!?

うわっ!ヤバっ!初めて見たよ生エルフ!!」

「何よ?生エルフって?面白いね?君」とケラケラと笑うお姉さん。すげえ!エルフって本当に綺麗な種族なんだ。感動!


「フッ 初めて見るエルフに感動か?そのピュアな心は美しいな?」と、少しクセ毛の髪の毛をかきあげる背の高い金髪のお兄さんが僕を見て微笑む。

「俺の仲間のエルフのアローラ。そして俺の相棒のヒューマンのナルシスだ」とリオンさんが紹介してくれた。

「椿一郎君だっけ?よろしくね?」

「フッ 一郎君よろしくだ」

アローラさんとナルシスさんと握手をする。

それにしても、この二人…恐ろしい程超美形だ!ファンタジーの世界恐ろしや!

思わず二人を見惚れてしまう(特にアローラさん♡)

そんな僕を見てリオンさんはコソッと僕に囁いた。

「水を差して悪いんだけどよ?エルフの寿命って知ってっか?

あー見えてアローラは200歳は軽く超えてる。君らの世界じゃ婆さんも通り越してるんじゃないの?」といたずらっぽくニヤリと笑う。


「200歳…」ゴクリと僕の喉が鳴った。



***


今、僕の目の前にゲームでしか見た事のないダンジョンの入り口がある…

「すっげえッッッ!これってダンジョンってやつですよね!うわあ!生ダンジョンだ!!」僕のテンション爆上がり!


「ははは♪生ダンジョンって。ホントに一郎は面白いな。で、今から仕事なんだけどよ?」

「ハイ!なんでもやります!!任せてくださいよー!!」と思わず目がキラキラしてしまう♪


「なんでも?と、言ったね…」

と、ちょっと気味悪い微笑みがリオンさんから?

「え?」ちょっと早まったかな?と焦っていると…


気がつくと…ヒヨコの着ぐるみを着せられてるーッッッ!!


「ちょっとなんですか!これえッッッ!?」僕は慌ててリオンさんに詰め寄る!!


「まあ、まて。一旦落ち着こう一郎」

「なんですか!どーいう事ですか!?」


「ヒヨコがピヨピヨ言ってるみたいで可愛い〜♡」

「茶化さないで下さい!アローラさんッッッ!!」


「フッ まあ、早い話が囮だ。ダンジョンの奥に俺達が探している鶏が迷い込んだ。君がヒヨコの格好をして、その迷い込んだ鶏をダンジョンの外に誘い出して欲しいわけだ」


「お、囮って…」

このナルシスさん、歯に衣を着せずにストレートに物を言う人なんだ…


「あのね?一郎君。ダンジョンの中で戦うわけじゃないのよ。ただ…ちょっとヒヨコの真似をして親鳥を出口に誘い出して欲しいの。あとは、私達が狩るから…ね?お願い一郎君♡」

「ア、ア、アローラさんの為ならッ!ぼ、僕やりますよーッッッ!!♡」

手を握られたよ?生エルフの美人のアローラさんに!セクシーボイスで!!


「さすが一郎!そう言うと思ったよ!

じゃ、早速やってみよー♪」とニコニコ顔のリオンさんに背中を押されてダンジョン入り口に入ってしまった…



***



 ゲームじゃ何回も一人でダンジョンに入った事あるけど、一人で生ダンジョンに入るのはちょっと…いや…めっちゃ怖いんですけど??


「薄暗いけど…前は見える…松明とかいらない系なんだココ。」

ヒタヒタとゆっくり恐る恐る歩いてると、思い出した。

「そうだ、あれやんなきゃ」

僕は「ピヨピヨピヨピヨーッッッ!」って、手をバタバタしながら大きな声で叫びながら奥に進む。


すると…なんか奥から聞こえてきた。ニワトリの鳴き声かな?


「コ、コ、コ、…コケーッッッ!!」と叫びながらニワトリがこちらの出口に向かって走ってくる?


「あ、ニワトリだ。良かった〜 もっとヤバいのが出てくるのかと思った…よ…? 

え?

エエ?

ええーっっ!!

で、デカイ!!何コレ!!!

こんな大っきなニワトリっているの!?」

大きなニワトリがヒヨコの僕に向かって、スゴイ勢いで走ってくる!!


僕は叫びながら出口に駆け出す!

大きい!ってもんじゃない!しかもなんか蛇の「シャーッッッ!!」って声もする!?

わ、わかった…!

これ、ニワトリじゃない!!


コカトリスだ!!


鶏の姿に蛇の尻尾を持つモンスター!!


「コケーッッッッ!シャーッッッ!!」とコカトリスが僕をその口ばしで突こうとする時、僕はダンジョンから飛び出し、ゴロゴロとヒヨコ姿で転がりまわる!


「上出来だ!」


へ?その声に振り向くと、僕の前に立っているリオンさんがコカトリスに向けて剣を振る!!


「コケーッ!!」

素早く飛び上がり、その剣を交わすと尻尾の蛇がナルシスさんに襲いかかる!

「フッ そんなアタックが俺に通じるわけないだろう!?」


ザクッ!尻尾の蛇のクチが縦に切れ、苦し紛れに空に飛び立とうとするコカトリス!


「お借りします!炎の力!ファイアーバレット!!」

アローラさんが持っている30cm程の短いスティックの様な杖から炎の弾丸コカトリスに向かって無数に撃ち込まれる!


…が、当たらない。


「もーっ!!ちょこまかチョコマカと!!」と、イライラとヤケクソ気味に連弾を撃ち込むアローラさん…あれ?なんか思っていたアローラさんのイメージと違う…


「バ、バカ!!アローラ!!やりすぎるな!!依頼は生け取りか生肉だぞ!?」とリオンさんが慌てて叫んでるけど…


ボォーンッッッ!!と見事にコカトリスに炎の連弾が命中し、

「コゲーッッッ!!…」と、火だるまになったコカトリスが空から落ちた。


「あちゃー…やっちまったよ…」と顔に手を当てガックリきてるリオンさん。

「ご、ごめん…ちょ…ちょっとやり過ぎちゃった♡てへ♪ペロ♡」と可愛く舌を出しながら頭をグーでコツンと叩くアローラさん。可愛い♡


「何がテヘ♪ペロ♡だよ!!もう少し手加減を考えろよ!!」と詰め寄るリオンさんに「うっさいわね!当たんないものは当たんないのよ!!火加減なんてやってる暇あると思う!?文句は鶏に言ってよ!鶏に!!それとも?アンタやってみる?あ、ごめーんリオンは魔法使えないんだっけ♪」と言い争いをする二人。


ナルシスさんは大きな炎で燃え上がるコカトリスを呆然と見つめてる。


 だけど、僕はリオンさん達の口喧嘩を聞きながら思わず吹き出した。

「ふふっふふふっ♪ブハハハハハッ♪」


「な、なんだ?だ、大丈夫か?一郎?」

「ご、ごめんね?喧嘩なんかして。い、いつもは仲良いのよ?一応」

二人は僕の突然の笑い声に喧嘩をやめて心配してくれた。本当良い人達。


「アハッあははっ…アハッ…はあはあ。

ごめんなさい、僕こそ突然笑ったりなんかして… あ〜面白かった♪」

 

「ハハ♪悪いな?一郎。みっともないとこ見せちまった」と頭の後ろに右手を回して謝るリオンさん。

「怖くなかった?ごめんね?危険な事やらせて」と心配するアローラさん。


「いえ、全然平気です!むしろ生で本物のモンスターを目の前で見れて、しかもやっつけるところを特等席で見れて、僕の方こそありがとうございます!」


「そう言ってもらえると、助かるけどよ。その…なんだ…ヒヨコの格好でそう言う事言われてもピンとこないというか…」

「アンタが着せたんでしょーがッ!!」

僕のリオンさんへのツッコミで僕たち3人はまた笑い出した。

ナルシスさんはまだ呆然だけどね。



***



 コカトリスの炎はアローラさんの魔法で消され、コカトリスは良い具合に焼き鳥になった。


「うまいッ!!やはり塩にして良かった!!」とコカトリス焼き鳥を頬張るナルシスさん。

実は炎に包まれるコカトリスを見て呆然としていたのは、この後塩で食べるかタレで食べるか悩んでいたらしい。


豪快に焼き鳥を食べるナルシスさんを唖然と見ていると、座っている僕の隣にリオンさんが座った。

「美味そうに食うだろ?ナルシスの奴♪美味い物と甘い物には目がないからなアイツは」とニカっと笑いながら焼き鳥を僕に渡す。


「あ、ありがとうございます。

…ん! おいしい! 

これ、すごく美味しいです!!リオンさん!」

「おう!コカの焼き鳥は最高だろ?

でも、油断して尻尾の方は食うなよ?尻尾は毒蛇だからお尻の方からは毒袋もあって、食ったらイチコロだ。コカのぼんじりは残念ながら食えねえ」と特大焼き鳥をかぶりつき「うめえ〜ッ!!」と声をあげる。

豪快に焼き鳥をかぶりつくリオンさんを見てると羨ましく思えてくる。


ああ、良いなあ…ここの人達は何も悩み事も無く、楽しく暮らしてるんだろうな…


「ん?どうした?一郎?ムネ肉の方が良かったか?」

しんみりしている僕を心配してリオンさんが話しかける。


「僕…今…学校の友達らと喧嘩して一人なんです…

ゲームの話で言い合いになって…

気まずくなって、もう2週間口聞いてなくて…

なんか、リオンさん達を見てると…羨ましくなっちゃって…

さっき突然笑い出したのも、みんなでわちゃわちゃするのが久しぶりで、すごく楽しくなっちゃって…

ごめんなさい。こんな話しちゃって」

僕は少し照れ笑いを浮かべ、次に涙を浮かべた。


「あ〜…まあ、その、なんだ?人間生きてりゃなんだってあらあな。」気まずそうに笑いながらリオンさんは続けた。

「そんなに考えなくたってよ?ほっときゃ仲直りできるって♪」とニカっと笑うリオンさん。


そのあっけらかんとしたリオンさんの物言いに、僕はなぜかカチンと来た。


「なんですか、それ? いい加減なこと言って…

どうせ、リオンさんには僕の話なんて笑い話でしょうよ!?

強くて、カッコよくて、コカトリスだって簡単に倒せちゃうアンタらとは僕は違うんだ!!

良いよね?人間関係なんて関係無くて、モンスターを倒して、宝物探しに行ってさ?まるでゲームの世界じゃん!?

僕らの世界と全然違うよ!!

不公平だよ!!」

僕は顔を真っ赤にしてリオンさんに怒り出す。でも、わかってるんだ。八つ当たりだって事。本当に情けなくなって来て、黙って僕の話を聞いてくれているリオンさんの顔をまともに見れない…


「リオンー!注文されてたお肉と砂肝は取れたよー。

表面は焼けちゃってるけど、中の肉は大丈夫みたい。」

アローラさんが素材を取る為のコカトリスの解体を終えて戻って来た。


僕は恥ずかしくなって、立ち上がってその場を離れた。


「あーお腹すいたー!」と焼き鳥にかぶりつくと、口元に手を当て黙っているリオンさんに気づくアローラさん。

「ん?どったの?リオン」

「ふー… いや?何も?」ちょっと寂しそうに笑うリオンさん。

酷い事言っちゃったよ僕…


「フッ 八つ当たりは思春期の特権だな?」と焼き鳥にかぶりつくナルシスさん。一体何本目だ⁇


「へへ♪違いないな?

…って…

あ、あーっっっ!!やべえぞ!!ゴブリン食堂の親父が、また怒鳴り出すぞ!!」

「もうそんな時間か!?それは美しくない!!」

思い出したかの様に、リオンさんとナルシスさんは急いで後片付けを始める。


「一郎!いつまでしょぼくれてんだ?まだ、次の仕事があるんだよ!て、いうか今からが本命の仕事だ!」


「は…はい…」

僕は少しでも元気を出そうと、必死にリオンさん達の手伝いをし、街に戻った。



***



 リオンさん達と一緒に戻った建物には『トム爺の郵便屋さん』と書いてある看板が掲げてある。

「へ〜、この世界にも郵便屋さんってあるんだ」と、感心して見ていると、ズカズカとリオンさん達が腰の長剣に手を当て、お店の中に入っていく!?

「ちょ…ちょっと!何やってんですか!?」

慌てて僕は引き止めた。

ヤバイ!この人達、今度は郵便局を襲うつもりだ!!

やっぱり、闇バイトだよこの仕事!!

僕はリオンさんの腕を引っ張って必死に止める。

するとリオンさんの口から予想外の言葉が…


「あれ?言ってなかったっけ?俺達郵便屋さんなんだよ」

「うそでしょーッッッ!?」その言葉に僕は驚きを隠せない。


「じゃあ!さっきのコカトリス狩りはなんだったんですか!?とても郵便屋さんの仕事には思えないんですが!?」

「雇い主のトム爺が、『これからは産地直送の食材をお客さんに届けるサービスの時代だ!』って言い出してよ?ダンジョンや森で食材を自分達で調達して届ける事になったんだよ」と腰に下げてる長剣をテーブルに置く。


ナルシスさんは手紙や荷物を籠の中に入れて配達の準備を、アローラさんは窓口でお客さんから手紙や小包を預かっていた。


「俺達冒険者だけどよ。ダンジョンに行って、命懸けでモンスターと戦って、素材や宝石とかを手に入れても冒険だけでメシが食える程甘い世界じゃ無いんだぜ?」

「え?そうなんですか?」

「世知辛い世の中だろ?」とニヤリと笑い、リオンさんはさっきのコカトリスの素材を箱に詰めて、他の荷物と一緒に大きなリュックに詰め込んだ。

なんだか、ファンタジー世界の裏側を見ている気がする…


「よし!配達に行くぞ一郎!後ろに乗れ!」僕は言われるままに大きなリュックを背負ってタンデムシートが付いたスーパーカブの後ろに座ると、配達先に向かって走り出した。


…ん?スーパーカブ!?


「ちょ…ちょっと!ちょっと待って!?リオンさんッ!!

なんでこの世界にスーパーカブがあるんですか!!そもそも、どうやって僕のスマホに求人のショートメールを送れたのか気になってたし!!」


ゴーグルを付けたリオンさんは、お構い無しにスピードを上げる。僕は必死にリオンさんにしがみつく!

「よく分かんねーけど、ヘリオスと異世界が繋がってる場所が幾つかあるんだ。このカブはトム爺のカブ畑から掘り起こされたから「カブ」って名前が付いてる。コイツもな!」と言ってポケットからスマホを出して後ろの僕に見せる。


「な、何言ってんのリオンさん!?僕らの世界が異世界って!?こっちの世界が異世界でしょ!!」とツッコミを入れると…


「ハハハ♪何言ってんだ?俺達から見たら一郎の世界の方が異世界だぜ?」

「ええーッ⁇」

僕は驚くしかない。確かに、ここの人達から見れば僕達の世界は異世界だ。


「見方を変えれば景色も変わる。考え方は一つじゃないって事さ」

ニヤリと笑うリオンさんの言葉を聞いた時、僕は急に友達と喧嘩した時を思い出した。


 あれは友達らとネットのサッカーゲーム大会に出る為に特訓をしていた時だ。


『一郎のやり方についていけない!もっと俺達のやり方もわかってよ!』


友達の言葉に僕は耳を貸せなかった。


『何言ってるの?君達のやり方じゃ勝てないよ!これじゃあ、大会優勝なんて夢のまた夢だよ!?』


思えば、もっとみんなの意見を聞いて違うアプローチの見方をすれば、喧嘩にもならなかったし、違う戦術も生まれたかもしれない…


 僕らのカブはヘリオスの繁華街の中に入った。周りは飲食店が立ち並び、様々な種族が歩きながら楽しそうにお店を選んだり、店員達は外で呼び込みをしたりで賑わっている。


「ダンジョンに夢を見る者や、冒険者を支える為に店やギルドで働く人。みんな自分の夢や生活の為に働いている。

俺だって、宮廷騎士になる夢がある。

一郎は夢は無いのか?」


「ぼ、僕は…」言いかけて、僕は笑われないだろうか?と不安になった。


「僕は、eスポーツの選手になりたい!」


「良いスポーツの選手?へえ?良いじゃないか!頑張れよ!(なんだ?良いスポーツって?ピンポンかな?)」ニカッと笑うリオンさん。

「ハイ!!」

パパやママには笑われたけど、リオンさんは応援してくれる!話して良かった!


僕らのカブはお店の前に着いた。


 お店には『ゴブリン食堂!漢ならここで喰え!!』って看板が掲げてある。

建物は昭和の居酒屋風だ。


「悪いんだけどよ一郎?俺、ここの親父苦手なんだ。俺の代わりに配達してくれないか?」と、申し訳なさそうに手を合わせて頼み込むリオンさん。

「もーう。仕方ないなあ」と笑いながら僕は引き受けた。大人に頼られるって嬉しいよね?


「じゃあ、これが注文されたコカトリスの食材だ。俺は他の店に配達に行ってくるから」

リオンさんはリュックから木箱を僕に渡すと、そそくさとカブを走らせて立ち去った。


ふーん。この世界の郵便屋さんも忙しいんだなあ。

それにしても…生ゴブリンに会えるぞ!?やったー!

やっぱり息とか臭いのかな?ふふふ♪楽しみだなあ♪


「こんにちは!トム爺の郵便屋さんです!」と元気良く、お店の引き戸を開けると…


「遅ーいッッッ!!イツまで待たせルンダ!!」

まさに鬼の形相で、居酒屋の大将風なゴブリンが怒鳴り散らしてきた!!


「ひ、ひいーっっっ!!!!」僕はその迫力に驚いて、膝がガクガク震え出した…


「なんダお前は!!新入りか!?」大きななたぎり包丁を片手に僕を睨むゴブリン大将。

「は、はい〜…ご注文のコカトリスの食材を…は、配達に来ました〜…」

すっかりビビった僕は、泣き出しそうな愛想笑いで木箱を渡す。


「フンッ!!」と睨みながら箱を受け取り、配達証にサインを書く大将。


お店のカウンター席の常連客風なドワーフのおじさんがニヤニヤと笑いながら僕を見る。

「おい!大将!それくらいにしてやれよ?坊主がビビってんぞ?ガハハハ♪」


「ははは…おかまいなく…」

力の無い愛想笑いを浮かべ、そして生ドワーフにちょっぴり感動しながら、僕は配達証を受け取りゆっくりと、でも足早に店を出ようとする。

そんな僕を大将は呼び止めた。

「おイ!リオンはドうした!?

アイツ、今度キタ時に今まデのツケを払うっテ言ってたクセに…

あのヤロウ…」

ただでさえ、怖い大将さんの顔が更に険しくなっていく〜 怖い!怖い〜!!


「そうダ!ニイちゃんを食材としテ、ツケの代わりにいただくカッ!?」

ニヤリと笑ったゴブリン大将は、大きななたぎり包丁を片手に僕に近づいてきた!!


「嘘でしょッッッ!?冗談だよね!?」


昔、小説で美味しい料理店の材料に最後は主人公がなるって話を読んだ事がある…


ゴクリ


僕の生唾を飲み込む音が店に響く…


「た、たすけてーッッッッ!!」


僕はお店から飛び出し、全速力で暗くなってきた繁華街を走って逃げた!!


「待て!小僧ッッッ!!」

ゴブリン大将もなたぎり包丁を振り回して追いかけて来る〜!?

本気だ!ヤバイ!ヤバイ!!ヤバイーッッッッ!!


ガツンッ!


繁華街の中、死に物狂いに逃げた僕は、足がもつれてグルンと前に転がり、どっかのお店の壁に頭をぶつけた!!


だ、だめだ…


目の前が真っ暗に… このままじゃ…お肉にされ…ちゃ…う



僕は人生初の気絶をした。




*******




「くしゃんッ!!  寒い…」


僕は寒くて目を覚ました。


ん? ここは…


大沢山の旧トンネルの入り口…


僕は頭がボーっとしている。


 僕は大沢山の旧トンネルの入り口の外で横たわっていた。

もう外はすっかり暗い。スマホを見ると19時30分。


なんで僕はここにいるんだろ?


汚れているメガネを拭き、掛け直す。

その時、僕は突然思い出した!


「そうだッッッ!!ゴブリン!!ゴブリンに食べられる!!」

僕は、まるでウルトラマンの様に両腕を縦に構えて360度グルリと辺りを見回した。

…が、周りを見渡しても誰もいない。フクロウの声と虫の音が聞こえるだけだ。


僕はため息をついた。


「なんだよ…何もかも夢オチかよ?あ〜あ。なんだよもう…」


ガッカリしながら旧トンネル入り口の壁に座り込むと、入り口脇に何か置いてあるのを見つけた。


「ん?なんだろう、コレ?」


それは使い込まれた革袋で、中から手紙と封筒が飛び出してる。


『バイトお疲れさん!怖い思いさせて悪かったな?

バイト代の10万だ。また頼むぜ?一郎』


リオンさんからの手紙だ!!

僕は興奮してもう一度読み返した。

「やっぱり夢じゃない!リオンさんも、ヘリオスの街もダンジョンも夢じゃなかったんだ!!」

『また頼むぜ?』って?また会えるって事!?ヘリオスの街にまた行けるって事!?

そして、興奮しながら封筒を覗くと、中にはお札が10枚!!

「やったっ!!10万!!…ブール?

10万ブール?」


え?何これ?

これってヘリオスのお札?


え?


エエーッッッッ!?


「日本円じゃないんかーいッッッ!!」


夜の大沢山に僕のツッコミがこだました………



*******



 あれから三ヶ月ほど経った。

大沢山の旧トンネルに何度か足を運んだけど、あの時以来ヘリオスの街へは繋がらない。いつ行っても旧トンネルのままだ。


僕は友達らと仲直りし、暇さえあればみんなとサッカーゲーム大会の特訓に明け暮れている。


もう会えないのかな…


少しずつヘリオスでの出来事が夢の様に思えてきて、そして記憶も少しずつ消えていく…


そんな日曜日の朝。

朝食を取ると自分の部屋に戻りサッカーゲームの特訓を始める。

規則正しい生活は頭の回転にも良く、ゲームにも活かせると思っている。

これは僕の日曜日のルーティンだ。


「ピーン!」


そんな時ショートメールが入った。

「なんだよ?忙しいのに…」とちょっと不機嫌にスマホを取る。


『一郎!急で悪いが手伝ってくれないか?バイト代は弾むぜ?』


!!!!


う、嘘だろ…!?

もう一度、僕はそのメールを読み返すと、ゲーミングチェアから立ち上がり、あの使い込まれた革袋を机の上に置く。今度の冒険の時に役に立つかな?と思って用意していたギアをその革袋に詰め込む。


「僕の助けが必要だって!?

今度はヒヨコの姿は勘弁だよ?」と革袋を背負い、僕は笑顔で部屋のドアを開けた。



おわり


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