聖なる夜に御伽噺より、祝福を込めて讃美歌を
葉月めまい|本格ミステリ&頭脳戦
二◯二四
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「小説家になんて、なるわけないでしょ」
いつも部屋に引き籠もって読書ばかりしている、本の虫の言葉とは思えない。
「じゃあ、
僕が尋ねると、彼女はぷいっと顔を
「お
関係ないことはないと思うのだが、そうはっきり言われると、これ以上は
クリスマスは愛の日だ。
そんな中、サンタクロースから
「お
「別に。良くも悪くもないよ」
「へえ」
興味がないなら、最初から
「ねえ、お
「あるね」
「
「そりゃ道理だ。で、それが何」
「現実は途切れないから、現実なんだよ。物語も夢と同じで、いつか終わっちゃう」
「それには同意しかねるな。物語自体は終わっても、物語の
小さい頃に楽しんだ戦隊ヒーロー作品は、僕の
「物語の価値は、そんなちっぽけなものじゃないよ。お
ずいぶんと、思想が強い。
だが、否定する気にはならなかった。
「あたしは本が好きだよ。物語のためなら、命も尊厳も捨てられるくらい愛してる。だからこそ、作家にならない。究極の物語には、始まりも終わりもあっちゃいけないんだから」
気づけば、時計の針は零時を指していた。
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深夜、妹にすら相手をしてもらえなくなった僕は自室で独り静かに、
今、執筆している小説は、モキュメンタリーホラーである。
物語は、現実をより良く生きるための道具なんかじゃない。
僕たちは物語のために、この
だから、僕は
モキュメンタリーという手法は、それに最適だった。
「おい、
突然、背後から僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。
振り返ると、僕の
「ありがとう、エル。助かるよ」
僕が創作にのめり込みすぎているとき、エルはいつも現実に引き戻して、身体を気遣ってくれるのだった。
エルは元々、僕の
一度、現実に
今ではすっかり、
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息抜きに動画を楽しんでいると、お勧め欄に見知らぬ
個人活動をしている新人のようで、同時接続数は僅か三人だけだった。
なんとなく、配信を覗いてみる。
容姿も声もいわゆる“萌え”に特化しているわけではなく、正直なところ、さほど魅力的とは言えない。話運びもあまり上手ではなかった。
だが、どこか安心感のある、聞き馴染んだ声のように感じる。
「ねえ、みんな。
彼女がそう言ったとき、僕は高評価ボタンを押してから、動画をそっと閉じた。
二度と見ることはないだろうな、と思うと少しだけ寂しい。
ふと窓の外に視線を移すと、雪が降っている。
サンタクロースが来なくなった日、両親は僕たちに何も説明しなかった。
僕たちも問わなかった。語らない価値を知っていたからだ。
そのお陰で、僕と
それはどんな形のある物よりも、価値が高い
「自分自身がサンタクロースになろうってのは、かなり
僕は独り言のように呟く。
「サンタクロースを無から創り出そうってのも、同じくらい無謀だと思うぜ」
エルは笑って答えた。
「うん。違いない」
僕は再び、小説の執筆を再開する。
彼女が終わりのない物語を紡ぐように、僕は始まりのない物語を紡ぐ。
聖なる夜に御伽噺より、祝福を込めて讃美歌を 葉月めまい|本格ミステリ&頭脳戦 @Clown_au
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