第22話 世界一分かりやすい女の子の扱い方と女心


 パタンと扉を閉めてミーアは唯舞いぶの部屋を後にする。

 元々体調が悪かった唯舞はすぐに泣き疲れて眠ってしまった。

 

 とりあえず次に唯舞が目を覚ました時に食べられそうなものでも買いに行くかとミーアが階段を降りれば、壁にもたれるように待ってたエドヴァルトと遭遇する。



 「……悪かったな、唯舞ちゃんを任せて」


 「ほんとよね。カイリでもいれば話は別かもしれないけど、残りのアルプトラオムは気の利かない男ばっかで嫌になるわ。あ、ちょっとエド、外寒いからあたしの代わりにコンビニ行ってきて。えっと、とりあえずこれね。ついでにあたしの分も買って。もちろんアンタの金でよ?」


 「Yes Ma’am。……彼女の調子は?」


 「あーちゃんにはもう連絡してて明日は休ませるから。色々とギリギリだったわよ、あの子」


 

 バングルを操作して浮き上がったホログラムからミーアはエドヴァルトに買い物リストを送信する。

 

 実のところ、ミーアかのじょに唯舞の様子を見てきて欲しいと頼んだのはエドヴァルトだった。

 唯舞の体調不良の件は分かっていたので、異性の自分達よりも同性のミーアのほうが気を抜けるだろうとそれとなく終業後に顔を出してやってくれと馴染みの同僚に声を掛けたのだが、自分の予想以上の対応を彼女はしてくれたようだ。

 

 苦笑いを浮かべたエドヴァルトはミーアに言われるままにリストを確認してぎょっとする。



 「ちょっと待って、ミーア。これはさすがに多くない?」

 

 「は?どこが?大佐なんだから金ならたんまりあるでしょーが。つべこべ言わずに買ってきて」

 

 「えぇぇぇぇ?俺一人で?」

 

 「その無駄についてる筋肉を有効活用する時!さっさと行った行った!私の分を買い忘れたら承知しないから!」


 

 そう言って背中を押すようにエドヴァルトを追い立てて、ミーアはバタンと思い切り玄関扉を閉める。

 

 彼女も本来であればエドヴァルトと同じく実戦部隊に配属予定の士官候補生だった。

 しかし、士官学校の卒業試験で胸部に致命的な損傷を負った彼女の現場配属は絶望的になり、最終的にミーアが選んだ仕事が趣味でもあった服飾系の制服管理庫の仕事だ。


 ばふんとラウンジのソファーに体を沈めて、誰もいないホールをぼーっと眺めながらミーアは唯舞の姿を思い出す。

 あの表情の薄さに似合わず、そのじつ、意外とおっとりした異界人の女の子はミーアのように話すのが得意じゃなさそうだ。



(定期的にガス抜きしてやらないと、ありゃ潰れちゃうわね)


 

 今いるアルプトラオムの連中がそれを出来るとは思わない。

 可能性があるとしたらリアムか、一万歩譲ってエドヴァルトだろうが、それでも今回のように異性同僚相手だと年頃の女の子的には難しい部分もあるだろう。


 

 (あーちゃんも……うーん、彼女がいなかったわけでもないんだけど)


 

 六学年離れてるとはいえお姉さんのネットワークを甘く見てもらっては困る、とばかりにミーアは白銀のクールビューティーな後輩の姿を思い浮かべた。

 断るのも面倒だったか、断っても付きまとわれたの二択だったが、それでもアヤセには一応恋人と呼べる存在はいたはずだ。


 まぁ一カ月以上長続きした事はなかったし、大体は女の子のほうが先にキレて別れていたけれど、それでも一応恋人はいたはずなのにどうしてこうも女の子の扱いが分からないまま成長してしまったのか。



 「ほんと、みんな図体ばっかり男になっちゃって。全員、まとめて世界一分かりやすい女の子の扱い方と女心の講義でもしたほうがいいのかしら?」


 

 大の大人が並んで女心の授業を受ける。

 そう考えたらあまりのアホさ加減になんとなくミーアの溜飲も下がった。

 もちろん高額な受講料で講師を務めるのはやぶさかではないので必要ならばいつでもミーアお姉さんに言って欲しい。

 

 ご機嫌になったミーアは口元に笑みを浮かべ、鼻歌を歌いながら勝手知ったるようにキッチンを漁ってエドヴァルトのワインとつまみを遠慮なくぶんどって彼の帰りを待つことにした。


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悪夢はイブに溺れる~冷酷無慈悲なクーデレ中佐の面倒な溺愛 熾音 @shion27

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