第2話 初めてのタブレット

 チュートリアル?

 なにそれ? どういうこと?


 YesとNo?

 え、なにがYes? 分かんない分かんない。


 聞くところによると、魔道具は取り扱いを間違うと魔力が逆流して爆発するそうだ。

 下手なことして、これが爆発したら……。


 ヤバイヤバイヤバイ。

 金属板を持ったまま固まる。

 そういや、俺さっき落としたよな? どうしよう、爆発したらどうしよう。


 それからしばらく、あたふたしていたが、結局何の解決にもならないので再び金属板に目を向けた。

 う~ん、もう一度しっかり文章を読んでみるか。

 指で一文字ずつなぞりながら意味を確かめてみる。


”『酒場を経営しよう!』”


 これは酒場を経営するってことだよな。

 それは分かる、わかるけど……酒場ってどこ?

 ここから出られないんですけど!?


 次。

”売って儲けて酒場を大きくするんだ”

”設備は売上金で購入できるよ!”

”スキルだって買えちゃうぞ”


 売るも儲けるも分かる。設備を買うのも分かる。

 でも、スキルが買えるって?


”やり方は簡単。ガイドにそってミッションをこなしていこう!”


 これも良く分からん。ガイドってなんだ?

 手伝ってくれるってことか?

 ミッションは? 依頼ってこと?


 さらに問題は次だ。


”チュートリアルを開始しますか?”

”→Yes No”


 チュートリアルってなんだよ。

 Yesを選べば何かが始まるのか?

 でも、よく分からんものを選んで爆発でもしたらなぁ……。


 などと考えながら指で文章を追っていると、ちょうどYesの文字に指が差し掛かったところで『ピロン』と音がした。


 うわ! ちょ、なになになに!?

 爆発するの? 爆発するの?


 サッと頭を抱えて床に伏せた。

 爆発の衝撃を最小限に抑えるためだ。

 だが、しばらく待ってみても、なにも起こらなかった。

 

 思わず投げ捨ててしまった金属板は、床でピカピカ光っている。

 どうやら大丈夫みたいだ。


 なんだよ、ただ音が鳴っただけかよ。

 くそ~、ビビらせやがって。

 そりゃいくら魔道具でも触っただけで爆発はしねえか。


 ――というか、そもそも俺死んでるしな。

 爆発したところで、これ以上死にようがない。


 なんか急に冷静になってきた。

 ここまで来たら、なるようにしかならんだろうと開き直って金属板を見る。

 すると、さきほどとは違う文字が出ていた。


”まずは、あなたの名前を教えて下さい”


 名前?

 ……なんで?

 よく分からんが、名前を教えなきゃいけないみたいだ。

 しょうがない。教えてやろうじゃないか。


「う゛がああぁあ(ディックだ)」


 金属板に向かって語りかけると、相変わらずゾンビ声である。

 非常に不愉快だ。

 だが、どうしようもない。俺はゾンビになってしまったのだから。


 不愉快なまま待つ。だが、金属板はウンともスンとも言わない。

 オイ! なんでだよ!

 ちゃんと、名前教えたろ!


 ……もしかして、やり方が違うのか?

 もう一度金属板を見てみる。

 下のほうに”キーボード入力” ”音声入力”と書かれていた。


 キーボード入力?

 キーボードって何?


 わからん。でも、音声入力。

 これはなんとなく分かる。

 ……で? だから何?


「あ゛あぁああ(音声入力)」


 とりあえず音声入力と言ってみた。

 やっぱり、なにも起こらない。

 なんだよ。どうすればいいんだよ。


 ……いや、待てよ。


 そういや先ほど金属板の表面を指でなぞったな。

 もしかして、文字を指で触ればいいのか?


 おそるおそる『音声入力』の文字を指で触れてみた。

 すると、『ピコ』と音がして小さな絵が出てきた。


 おお当たりだ。

 これで喋っていいのか?

 絵の意味は分からんが、たぶんそれであってる。

 よし、言うぞ。


「う゛がああぁあ(ディックだ)」


 すると、金属板に文字が現れる。


”あなたの名前は う゛がああぁあ さんですね?”


 違う違う違う。

 そうだけど、そうじゃない。ディックだディック。


 クソ~、俺はゾンビだった。

 喋れねぇんだ。でも、じゃあ、どうすりゃいいんだよ。


 あれやらこれやらと試してみると、キーボード入力とやらで入れたい文字を表示させられることに気づいた。

 それで、ようやく入力に取りかかれるのだった。



 チュンチュンチュン。

 気づけば朝になっていた。

 能天気な鳥の鳴き声が憎たらしい。


 だが、質問には全部答えたぞ。これで文句はなかろう。

 いま金属板には、その結果がズラっと並んでいる。


”――プロフィール――”


 名前:ディック

 種族:ゾンビ

 職業:酒場のマスター

 特技:力持ち

 状態:腐りかけ



 ちょっと待てー!!

 文字はまだ下に続いていたが、見過ごせないものがあった。

 ”状態:腐りかけ” だ。


 え? 俺、腐りかけてんの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゾンビになった元冒険者、ダンジョンの近くで酒場を経営する ウツロ @jantar

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画