ゾンビになった元冒険者、ダンジョンの近くで酒場を経営する
ウツロ
第1話 俺はゾンビになってしまったのか
目が覚めた。
カラっとした夜だった。
外から差し込むのは星の明かり。リーリーと鳴く虫の音も聞こえる。
ここはどこだ?
自分がいる場所が分からない。
……たしか俺はダンジョンを探索していて。
ヒューと風が吹いた。
窓からだった。
窓にはガラスも窓枠もなく、吹きっさらしの風が入ってくる。
よく見れば出入口にも扉はなかった。
どうやらここは家の中みたいだ。
だが、床板は割れ、柱は傾き、脚の折れたテーブルにはホコリが積もっている。
ヤバイぐらいオンボロだ。
とにかく状況確認だ。
俺は冒険者だ。危機的状況の乗り越え方は知っている。
立ち上がろうと手に力をこめる。ミシッと床が音をたてた。
床を踏み抜かないように気をつけて歩く。
とりあえず外に出よう。
やがてボロ屋の庭に出た。
月の光に照らされる敷地の中は草がぼうぼうで、ニョキニョキ生えた木にツタも絡まっている。
荒れ放題だな……。
どう考えても人が住んでいない。
誰かがいれば、ここがどこか聞けたのに。まあ仕方がない。自分の目で確かめるとしよう。
前方に石垣がある。
その先を横切るのは、踏み固められた土の道。
あれに沿って歩けばどこかに辿り着くだろう。
街が近いといいな……。
草をかきわけ、石垣まで進む。
そして、石垣を乗り越えようとして――ぐえっ!
透明な何かに顔面を打ちつけた。
なんだこれ?
手で触れると硬いものがある。
つつつとまさぐると、まっ
どういうことだ?
手を触れたまま石垣に沿って歩く。だが、歩けども歩けども、透明な壁は途切れることはなかった。
それからしばらく。
出られる場所がないかと、くまなく探した。だが、透明の壁は高い場所も低い場所も石垣を崩した先も、地面の下でさえ途切れることがなかった。
どうやら完全に閉じ込められたみたいだ。
「オあああああぁ(誰かいないか!)」
気づけば叫んでいた。
だが、口から出たのは気持ちの悪いうめき声だった。
え? なんだ?
この声は聞いたことある。
ゾンビだ。ダンジョンに徘徊する歩く死体。
腐って、うめいて、誰かに咬みつこうとするモンスター。
え……まさか。
慌てて脈をとる。ピクリとも動いていなかった。
――――――
いつのまにやらボロ屋に戻っていた。
もう、どうすればいいか分からなくなっていた。
たしかに体の動きに違和感があった。固く、重く、動きづらかった。
でも、それは長い間、床で気絶していたからだと思っていた。
……俺がゾンビに?
思いだせない。ダンジョンに入ったとこまでは覚えているんだが……。
ふと窓際に鏡が飾られているのに気づいた。
ボロ屋には似つかわしくない大きく立派な鏡。
おそるおそる近づいてみる。
そして……覗いてみた。
――埃まみれで何も見えなかった。
ソデでフキフキする。
キラリと輝く鏡面が姿を見せる。
ふたたび覗く。
するとそこには、見慣れた自分の顔があった。
ふ~、よかった。
やや顔色は悪かったが、たぶん、ホコリで喉をやられたんだ。それでゾンビみたいな声になったんだ。
脈はあれだ。手がしびれてて分からなかっただけだ。
固い床の上で寝てたから。
そうだ、そうに違いない。
だったらとっとと帰らないと。
ふたたび出口を見つけようと、その場所を後にする。
だが、そのとき、背中越しに鏡に映った自分の背中が見えた。
短剣が深々と刺さっていた。しかも、ちょうど心臓の位置。
まさか、まさか、まさか。
ここで思いだした。
そうだ、俺はいきなり誰かに背中を刺されて……。
そこからの記憶はない。
気づけばこのボロ小屋に寝ていたのだ。
ウソだろ? 俺がゾンビに!!
じたばたするが、それで何かが変わることもなく。
「あ゛あああああぁ」
わめいても、叫んでも、口から出るのは気味の悪いゾンビ声だった。
なんだよ、なんだよ。どうなってんだよ……。
カタン。
そのとき、なにかの音がした。
見ればクローゼットの戸が傾いていた。どうやら丁番がひとつ外れたみたいだ。
中を覗く。
なにやら四角いものが入っていた。
なんだこれ?
固く、薄い金属の板。
ツルっとした表面は黒く、そして月明かりをうすく反射していた。
パッと明かりがついた。
金属板の表面にだ。
ビックリしすぎて金属板を落としてしまう。
落ちた金属板は、それでも光をチラつかせていた。
パッパッパッと金属板の表面が揺れ動いていた。
アリのような黒いものが、凄まじい勢いで移動しているのも見えた。
なんだこれ? 魔道具か?
ダンジョンではときおり魔道具と呼ばれる不思議な道具が見つかる。
実際に見たことはないが、もしかしたら、その魔道具かもしれない。
おそるおそる覗き込んでみた。
”『酒場を経営しよう!』”
”売って儲けて酒場を大きくするんだ”
”設備は売上金で購入できるよ!”
”スキルだって買えちゃうぞ”
”やり方は簡単。ガイドにそってミッションをこなしていこう!”
酒場……?
経営……?
さいわい自分は文字が読めた。
それで冒険者としては重宝していた。
だが、この金属板に書かれた文字は読めても意味が分からなかった。
スキル? ミッション?
どういうことだ?
そもそもこれは魔道具なのか?
わけの分からないまま、金属板に触れてみた。
すると新たな文字が浮かび上がる。
”チュートリアルを開始しますか?”
”→Yes No”
え? なにこれ?
怖い。
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