第4話
「じゃあ、最初に年齢を教えてくれるかな?」
「十五歳です」
「十五? 学生さんかな?」
「はい、というよりかは元でしょうかね……身分的には学生でもないし、ニートかも」
雑貨店に着いた俺は店先でホウキはいていた店主のおじいさんに求人のことを尋ねた。すると、店主のおじいさんは俺を奥にある執務室に連れ込み、さっそくだが面接が取り行われたのだった。
「ところでキミさ、珍しい格好してるね。ナウなヤングのトレンドってヤツかな? あ、そのピューマの刺繍いいね」
「はは、そうですね(このおじいさん、なんか言い回しが古臭いな……)」
「まぁ、それはどうでもいいとして。制服はちゃんと支給するから、それに着替えてくれるかな」
「え? さっそくもう働くんですか?」
「だって、人手足りないんだもん。おじさん、もう歳だし体がもたないの。重いものとか持ったら腰がすーぐダメになっちゃうし、力仕事とか長時間労働とかしんどいんだよね」
「はぁ、そうですか。まぁ、早いに越したことはないから構わないですケド」
俺は出されたお茶啜りながら応える。
「取り敢えず今日は休憩なしの四時間で頼むよ。どーせ、客なんてそんな来ないし、適当に流すだけでOKよ。難しいことは頼まないし、レジ業務さえしてくれればいいから」
店主は俺にマニュアルを投げ寄こす。俺はその中身をパラパラと確認すると、簡単な接客法とレジ操作を頭に叩き込んでおいた。
「じゃあ、簡単すね。お任せください」
「よし、頼んだよ。私はちょっと整骨院行ってくるから店番よろしく。腰痛がひどいんだよね」
「(異世界にも整骨院あるのか……)」
俺は日本で謎に店舗数が多い整骨院に思いを馳せながら、店主を見送った。
というわけで、俺は更衣室で制服に着替えると店番を頑張ることにした。
店内はまぁ、なんというかコンビニに近い内装だった。扱っているものが古書や新聞紙、瓶に封入された薬品や飲料水、簡易的な食糧。後は日用品として、紙や筆記用具の類いとか生活必需品に限定されている。
棚は木製だし、レジスターもタイプライターじみたレトロな構造になっていた。ただ、過不足がないかの計算を記録するためにあるのだろう。釣り銭の準備は手動でするタイプである。
「今日を頑張れば、3000ゴールドは稼げるな。ていうか、現実世界とほとんど貨幣の価値が同じだからわかりやすくて助かる」
店の商品とその値札を眺めて俺は思った。俺がいた世界は『円』でこっちの世界は『ゴールド』。時給が890ゴールドというのも割りかし馴染み深い。ただ、めちゃくちゃ給与が低いのが問題ではあるが。
「ていうか、ほんとに客来ないな。ラッキー」
俺は就業時間の大半をぼーっと過ごしていた。
たまに、入店してきても冷やかす程度だったり、つまらない買い物をして早々に出て行く者ばかりである。
楽勝だな、と俺は余裕をぶっこいていた。
だが、問題が起きるのはこれからだった。
カラン、コロン、と入口の鈴が鳴った時、俺が見たのは明らかに怪しい格好をした全身黒ずくめで目出し帽を被った男だった。
「…………」
俺、初日なのに。
異世界アルバイター夏野の受難 加賀美うつせ @kagamiutuse
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