第2話
時間帯が夜ということもあり大通りは活気に溢れていた。左右所狭しに、出店が並び、串焼きや郷土料理などの料理から、魔道具などいろいろなものを売っていた。沢山の人が行き交い、緊張感が増してくる。そんな俺の思いとは裏腹に、服の中にいるドラゴン?は、興味津々なようで匂いや、声に反応しモゾモゾと動いている。
俺は、小声で、「バレるから動くな、また連れてきてやるから」と囁く。すると、ピタッと止まり、これでいいんでしょと、言いたげに見つめてくる。
このドラゴン?は人間に言葉がわかるのかと、思うほどこちらの意図を理解してくれる。本当に変な生き物だ。そう思いながら、足早に目的の宿屋を探す。
現在いる、この大通りがあるエリアは、俺が暮らしていた孤児院があるエリアとは反対のエリアである。土地勘もそんなにないため、手当たり次第探していくしかない。
左右キョロキョロ見渡しながら歩いていると、すれ違う人みんなが俺のお腹を見ている事が分かる。
中にはコソコソと「高価なものを隠しているのか」や「男に見えて実は妊婦なんじゃないのか」また、「後をつけるぞ」等興味本位の話から物騒な話まで耳にしてしまう。
心の中で、失敗したかと思い、引き返そうか考えた。しかし、その考えはすぐに捨て、歩くスピードを上げ、宿を探すことだけに集中する。もう、噂になっているし、逆に人が多い方が安心だと思ったからである。
歩みを進めると、右前方に、宿屋の看板が見えた。気づけば、早足から駆け足になっており、なだれ込むように宿屋の中へ入った。
勢いよく扉を開け、両膝に手を当て、ハァハァと息をする。こんなに走ったのはいつぶりだろう。
そんな事を考えていると「いらっしゃい、何かあったのかい」と女性の声が聞こえてくる。顔を上げると、受付の横の場所で食事をしている人全員が、俺に視線を向けていた。急いで入ってきた俺に何事かと思ったのだろう。中には、剣を手にかけている人もいた。おそらく冒険者だろう。
俺は姿勢を正し「お騒がせしてすいません。何でもないです」と言い深く頭を下げる。逆に怪しくなってしまったか、と思ったがそ気にせずに、顔を上げると、今度は、みんなお腹に視線を向けていた。
目立たずにスッと部屋まで行きたがったが仕方がない、俺は何事もなかったかのように受付にいる女性に向き直る。そして、「一晩泊めていただきたいんですが、いくらでしょうか?」と尋ねる。
女性は、お腹にむけていた視線から、急いで俺に視線を戻して「一晩なら食事なしで銀貨3枚、食事付きで銀貨6枚となります。」「それにしても、そのお腹……」
俺は女性が言い切る前に、ボンッと机に銀貨3枚を置き、「部屋はどこですか?」と聞く。
「そのお腹、宿としても面倒ごとは困るんですけど」と女性が言う。
「何も心配しているようなことは起きませんし自己責任で大丈夫ですので」そう返すと、そう言うならと女性は渋々部屋に案内してくれた。
部屋に入るなりすぐに鍵を閉め、フゥーと一息吐く。
そして、服の中に「もう大丈夫だぞ」と声をかけると、中から勢いよく飛び出してくる。元気いっぱいのドラゴン?が部屋の中をうろうろと散策し始める。
まるで出会った時のボロボロの姿が嘘みたいだ。そう、干し肉を食べた後から、体の傷が徐々に回復していたのだ。本当に不思議な生き物だとあらためて思う。ウロウロしているドラゴン?を呼び寄せて「自己紹介がまだだったな、俺の名前はレックス、お前は?」と尋ねる。
すると、ガァウ?首を傾げる。「名前ないのか?」聞くと、肯定するように返事をする。「そうか、名前ないと不便だし、俺が付けていいか?」と聞くと、大きく頷く。
「うーん、ドラゴンだしかっこいい名前がいいか、でもなぁ……」と顎に手をやり考える。
視線を宙からドラゴン?に向けると、キラキラした瞳がこちらを見つめていた。「あんま期待するなよ、ルルって名前はどうかな、可愛くて馴染みやすい名前だし、ドラゴンのお前には可愛すぎるかもしれないけど」下を向きながら照れたように言うも反応がないため、恐る恐る見ると、黙ってこちらを見ていた。そして、ガァウと今つけて貰った自分の名前を繰り返すように声を上げると、懐に飛び込んできた。
俺は慌てて受け止めて、「ルルでいいんだな」と聞くと、ガァウ!とルルは返事をした。それからは、少し戯れあった後、ルルが大きくあくびをしたため、ベッドに誘導した。
すぐにスーと寝息をたてて眠ったルルを見ながら、明日のことを考える。宿代を支払った為、正真正銘の残金はゼロだ。明日は、孤児院に顔を出して、謝って仕事を見つけなくては、もしかしたら、シスターが仕事を紹介してくれるかもしれないし。ルルのことは、今考えてもしょうがない。いずれ俺の手に負えなくなる時が来るかもしれないし、その時に考えればいい、よね……。ベッドで横になりながら淡い期待と不安を抱きながらこれからのことを考えているうちにいつのまにか夢の中に入っていた。
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