第3話
翌朝、スッキリとした目覚めにはならなかった。ベッドで寝ているはずなのに、振動で体が上下左右に揺れる。夢でも見ているのかと思い、気にせずにいたら、ガァウ!シャー!という鳴き声と共に顔に痛みが2回はしる。
目を開けると、ルルが俺の顔を覗き込んでいた。ベッドで寝たはずなのに床で寝たみたいに身体中が痛い。天井は昨夜見た、宿屋の部屋ではなく、ガタゴトと音を立てながら移動している。
その瞬間、ここが馬車の中なのだと理解した。
ルルに「どういうこと、昨日宿屋にいたよね、何か知ってる?」と尋ねるも、首を傾げるだけで何も知らないようだった。
どういうことだと、考えていると、操縦席側のカーテンが開いて、「ようやく目を覚ましたか」と男が入ってきた。男は弓を背中にかけ、身長は高く痩せており、ニヤつきながら中に入ってきた。
近くにいたルルを抱き寄せ、警戒すると、男は「ここでは、何もしないよ、そんな警戒しないでよ」と笑いながら話しかけてきた。
「あなたは、誰なんですか?、どこに向かってるんですか?、目的はなんなんですか?」矢継ぎ早に質問する俺に対して、「おっと、そんなに聞かれても困るぜ、それに答える義務もないしな、それにこの状況わかってる?」と男は背中の弓矢に手をかけようとした。
俺はそれを、息を呑むように見ていると、「ここでは何もしないって言ってるだろ」とおどけたように男は言った。
そして「質問一つだけ答えてやるよ、目的はお前じゃない、そいつだ」とレックスではなくルルを指差した。
「お前は単なるおまけさ。」そういうと同時に操縦席の方から、「ガイア、何している、さっさと戻って来い」と声が聞こえる。
ガイアと呼ばれた男は、「はーい」と軽く返事をし、「目的地まではもう少しさ、せいぜい最後の時を楽しめよ」そう言い残し操縦席の方へと帰っていった。それをジーッと見送っていると、ルルが心配そうに鳴いてきた。「大丈夫だって。」そう言い頭を撫でながらも、内心焦っていた。おそらく、今すぐの脱出は不可能だろう。現在地もわからないし、相手の数もわからない。何より、力の差もかけ離れている。ろくに戦った事がない俺と、盗賊団っぽい男達、力の差は歴然だろう。助かる道は、奴らの不意を突いて逃げるしかない。助けは呼べないし、期待はできない。不意を突いて逃げる、ほんの一握りの可能性しかない事を嘆きながらも今は、流れに身を任せるしかないと思い、時を待った。
それから数十分後、再び、操縦席からガイアが出てきて、「降りろ」と馬車の出入り口の方へと顎をやった。
ルルを抱えながら降りようとすると、「そいつはこちらによこせ」とルルを見ながら言ってきた。俺とルルが、抵抗する様にガイアを睨むも、「やるか、死んでしまうぞ」と笑いながら言い背中の弓矢を手に取った。それでも、ガァウ!シャー!と威嚇するルルを宥め俺は、ガイアにルルを渡した。ルルは寂しそうに見てくるが「大丈夫、最後の別れじゃないから」とルルに言うと、ガイアが「感動するねー」と揶揄うように言ってきた。
それを無視して、俺は馬車から降りた。馬車から降り、前方を見ると、大きい洞窟があった。そして後ろを向くと、森林が広がっていた。街からどれくらい離れた場所なんだろう、逃げるなら森林方面か、と考えていると、「何をしている、さっさと歩け」とガイアとは違う声が聞こえてくる。
洞窟方面に振り返ると、目の前に、筋骨隆々で、スキンヘッドの大男がいた。背中には大きな大剣があった。
圧倒され、動けないでいると、「早くしないと、タングのアニキに殺されちまうぜ」とガイアから声をかけられる。我にかえり、ゆっくりと、真っ暗な洞窟へと歩みを進める。この洞窟はどこに繋がっているのか、闇への入り口へと足を踏み入れたその時、グギャ!と幾つもの声がした。
そして、次の瞬間、醜悪な顔をした化け物が襲ってきた。ゴブリンだ。ゴブリンは、魔物の中だと、弱い方に分類されるが、それでも魔物だ。一般の市民よりははるかに強く、今、目の前には5体もいる。驚きと、恐怖で腰を抜かしてしまい、動けずただ、襲ってくるのを眺めているしかなかった。
ルルの叫び声が後ろから聞こえてくる。
それでも、力が入らず、死を覚悟したその時、シュッと風を切る音が聞こえ、次の瞬間目の前のゴブリン5体の首が同時に飛んだ。びっくりしたが、助かったと思い、後ろを向くと、タングと呼ばれていた男が、大剣を片手に持っていた。助かったが、俺が倒せないゴブリンを瞬殺できる力を持っている事を目の当たりにして、いよいよ逃げれる可能性も無くなってしまったと、頭の中が真っ白のなった。
「どうした、早く立て」タングから声をかけられ、ふらふらと立ち上がり、前に進もうとすると、グギャ!とまたしても声が聞こえる。
その声にガイアが、「数日離れただけで、ゴブリンが住み着いてしまったんですかね、先頭、アニキに変わった方がいいじゃないですか、これじゃ中々すすみませんぜ。」
タングは「そうだな」と短く返して、俺を追い抜き先頭を歩いた。そこからは、出くわすゴブリンを瞬殺していくのを後ろから眺めながらついて行った。タングが大剣を振ると、音が鳴りゴブリンが死ぬ。魔法なのか何かわからなかった。中には他のゴブリンよりも大きいゴブリンもいたが相手にならず、すぐに死んでいった。
こうして歩く事数分、少し大きな空洞に着いた。中央には、焚き木をしたあとがあった。こいつらは、数日前までここにいたのだろう。タングから「ここで少し待て」と言われ、ガイアが焚き木の近くにあった縄を拾い、俺の方まで歩いてきた。これから何が始まるのか、俺は不安で一杯だった。
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