第4話

縄を片手にに持ち、ルルをタングに渡したガイアは、俺に近づいてきて「両手を出せ」と言ってきた。縄で縛る気だろう。ルルは抗議の声を挙げるが道中までの、戦闘などを見て、俺は抵抗する気をなくしていた。

言われるまますぐに両手を差し出すと、「やっと自分達の立場がわかったのか、いいことだ。」とガイアは、俺の両手をすぐに縛った。そして、この先に、滝壺がある。と、先の方を見た。そこが、お前の最期だ。ガイアはそうレックスに言い放った。

ルルから、攻撃的な声が聞こえるもすぐにタングに制圧されてしまう。


「お前こいつがなんなのか知っているのか?」ガイアがルルの方を見ながら聞いてきた。

俺は首を横に振ると、「何だ、知ってて保護してるのかと思ってたぜ、こいつはな……」とレックスに言おうとした時「よせ、あんまりベラベラ喋るな!」とタングから静止が入った。

それでも「いいじゃないっすか、どうせこの後死ぬんだし。」そういうと、タングはそれ以上何も言わなかった。


タングからの了承が出た、ガイアは「そいつは、キメラ、合成魔物だ。」とレックスに告げた。「キメラ?合成魔物?」レックスがわからないというように、言葉を繰り返すと、ガイアは「何にも知らないんだな。」と言い語り始めた。


「キメラ、合成魔物はずいぶんと前から、研究者たちが挑んできた事で、簡単にいうと魔物と魔物をくっつけてより強い魔物を生み出すという禁忌の研究だ。魔物にも自我があったり、相性があったり、過去に一度も成功した例はなかった。しかし、風の噂で、キメラの目撃情報が入ってきてな、俺らのボスがそれを所望して、近くにいた俺たちがセイリアンに行くとそいつが居たって訳だよ。キメラはな、可能性の塊だよ、応用すれば人体にも適用できるかもしれない、良いようにも悪いようにもな。貴族、いや国なんかも幾ら払ってでも欲しがる代物だ。そんな存在なんだよ」と、言い終わるとルルの方をガイアは見た。

そして、「そんな存在を知っちまったお前には死んでもらう必要がある。まだ、世間にバレるわけにはいかないからな」そう言いレックスの方を見た。

「ただ、捕獲にこんなに手間取るとはな、政府の犬の妨害にあったせいでよ」とガイアは恨めしそうに呟いた。

「おい、早くするぞ、前回はたまたま逃げき切れたが、次あいつらにバレたらキメラだけでなく俺らも捕まってしまう」とタングが言った。


2人が話す、政府の犬、あいつらとは、この国、アステネリア王国を守る局員の事だろう。騎士局、魔法局に分かれて、互いに手を取り合いながらこの国を守護する局員は、かっこよくみんなの憧れの職業だ。局員は強さや賢さなどを備えたエリートしかなれず、子供の頃から教育が行き届き訓練された貴族が就く事が多い職業でもあった。レックスは、どうして、局員がまだ、表に出ていないキメラのことを知っているのかと不思議に思った。それともたまたまこいつらを追っただけなのか。知っていたなら、局員が助けに来てくれるかもしれない。

そんな事を思っていると、ガイアは、「話しすぎちまったぜ、ほらお前の最後の場所に行きな」とレックスを促す。

俺は、チラッとルルを見ると、ルルは下を見て、悲しんでいた。なぜか自分のせいで俺に迷惑をかけてしまった、申し訳ない。そんな感情が伝わってきた。俺は滝壺に繋がる道へと歩みを進めた。

程なくして、出口が見え、すぐそこには滝壺があった。ガイアが「自分で逝け」と手短に言い放ってくる。滝壺のぎりぎりまで歩みを進めると、ものすごい高さだった。下の川が遥か遠くに感じられた。


足踏みしていると「早くしろ、こっちでやってもいいんだぞ、ただ、キメラが関わっている以上余計な証拠を残したくないからこんなめんどくさい方法を取っているだけだ。」と言ってきた。それでも、足が踏み出せず、オロオロしていると、「ほらよ」と声がした為、振り向くとそのまま押された。


視界が宙を舞う。空は綺麗な青空だった。これが自分の見る最期の景色か。人生15年短かったが後悔ばかりだった。孤児院出るギリギリまで可能性を信じ努力していたら、ちゃんとお別れをみんなに言いたかった、どうしよもない後悔や思いが溢れてくる。視線をルルに向けると必死で叫んでいた。短い付き合いだったが、ルルには幸せになって欲しい。人間のエゴで造られた存在。人間にたくさん苦しめられたはずだ。なのに俺を信用してくれた。だから、ルルだけでも助かって欲しい。青空に向かって叫んだ。近くに誰かいる事を信じて。


最期に見る景色は青空じゃなくルルになったなと、苦笑しながらもう一度ルルの方を見ると、ルルが光っていた。ガイアやタングも驚いた様子でそれを見つめている。すると、ルルが消えて、光の塊が自分の方にやってきた。

直後、身体中から力が湧いてきた。そして、驚くことに、俺は宙に浮いていた。視界が固定され、浮遊感を感じ気づいた。背中を地面にしていた体勢から、状態を起こすと宙で直立になれた。そのまま、どんどん空へと浮いていき、ついには、タング、ガイアを見下ろすところまで来ていた。2人は俺を化け物でも見るような恐怖の眼差しで見ていた。そして2人揃って「「竜人」」と言ってきた。

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