キメラを拾って竜人となる

金光

第1話

街の人々の喧騒響く大通りを横切り、路地に入る。暗い路地を歩きながら、後ろを振り返る。眩しすぎて見ていられなかった。振り返り、ため息を吐く。罪悪感が押し寄せてくる。再び深いため息を吐く。


俺は、この街、セイリアンの孤児院で生まれ育った。誰かが、孤児院に生まれたばかりの俺を置いていったらしい。両親がいなかった俺でも、孤児院のシスターが愛情いっぱいに育ててくれた。孤児院は、15歳までしかいれず、以降は孤児院を出て自分の力で生活しなければならない。幼いながらに俺は、将来の事を考え、いろんなことに挑戦して、自分の得意なこと、生きていく道を模索していた。しかし、これといって得意なことはなく平凡だった。周りの孤児院の子供達は、料理がうまかったり、魔法の才能があったり、身体能力が高かったり、頭が良かったりと様々な才能を持ち合わせていた。15歳が近づくにつれて焦り、そして諦め何もしなくなった。13歳からの2年間は気が抜けたような日々を過ごし、みんなが頑張っているのを眺めながら自分の才能のなさを呪った。仲良くしていた同年代の子とも嫉妬心が勝り、うまく話せなかった。そして、孤児院からの退去の日、他の同年代の子は、シスターと、そして、下の子達と涙しながら別れを惜しんでいた。それを尻目に俺は、無言で孤児院を出た。母親のように育ててくれたシスター、兄弟のように励ましあった同年代の仲間たち、元気がなかった俺にみんな毎日声をかけてくれた。


孤児院に戻るべきか、もう一度大通りの方を振り返る。足が動かない。今は楽しかった思い出よりも、惨めな思いをしたことの方が優ってしまう。何をしてもうまくいかなかったあの日々の事を。


大通りを背に暗い路地を進んで行く。仕事探さないとなと思っていた矢先、ガアウ!シャー!と鳴き声がする。考え事をしすぎて、野良猫の尻尾でも踏んでしまったのかと思い、声の方を見るとドラゴン?がいた。


見た目は、黒い子供のドラゴンだった。ただ、翼はコウモリで尻尾は蛇だった。声の主は、ドラゴンと蛇だった。ドラゴンは、最も強いとされている魔物だ。そんな魔物が街にいれば、絶望し声も出せないで震え、塞ぎ込んでしまうだろう。しかし、俺は自然と手を差し出して「大丈夫か」と声をかけていた。

なぜなら、ドラゴン?は傷だらけで、今にも倒れそうになりながら威嚇をしていた。鋭い眼差しで俺を、四つの瞳が睨み、差し出した手に尻尾の蛇が噛み付いてきた。チクッと痛みは走ったが我慢し、ドラゴン?の目を見て、「何もしないよ」とできる限り優しく声を掛けた。


しばらくすると、ガアウ!とドラゴン?が吠え蛇が、噛み付くのをやめた。俺はポッケから、さっきなけなしのお金で買った干し肉を取り出して、差し出した。先ほどのような強い敵視は感じられないが、なおも警戒している様子で、よろめきながらも後ろに下がり距離をとるドラゴン?。仕方なく俺は、干し肉を地面に置いて、両手を挙げながら「心配するな。」と言い後ろに一歩づつ下がる。

5歩ほど下がったところで、ドラゴン?は、少しずず、干し肉に近づき、二つの頭で匂いを嗅ぐ。そして、大丈夫な事が分かると、勢いよく食べ出した。俺はその光景を見て、孤児院にいた、年下の子供たちのことを思い出した。

無心で食べているその姿が重なり、懐かしさと共に楽しかった思い出が蘇る。明日、絶対に孤児院に行こう、そう決意を固めたと同時に、ドラゴン?が干し肉を食べ終える。

俺は、「飼い主の元に戻りな、喧嘩か何かしたか知らないけど心配してると思うし」そういうと、ドラゴン?は下を向き寂しそうな顔をした。見たことない、ドラゴン?の姿、そして傷だらけだったこと、面倒事の予感しかしなかったため一刻も早く立ち去りたかった。今の自分に、それを抱えるだけの余裕は全ての面に置いてない。振り向き、大通りの方に向かって歩き出すと、後ろからコツコツと足音が聞こえる。止まると、足音も止まる。再度振り返り「飼い主の元に戻りな、今の俺にお前の面倒を見る余裕もないし」そう告げると、期待していた顔からとても悲しそうな表情へと変わる。それを見た瞬間、またしても孤児院にいた年下の子供たちのことを思い出す。お兄ちゃんといって遊びに誘われた時の表情、断られた時の表情に似ていたからだ。胸にグサッと刺さる。ハァーと大きなため息を吐いて「ちょっとの間だけだぞ」というと、よろよろと全力疾走で足元に駆け寄ってきて、二つの頭が擦り寄ってきた。ドラゴン?を拾い上げ、あらためてまじまじとその姿を見る。胴体は、普通の黒いドラゴンだった。しかし、翼はコウモリ、尻尾は蛇で蛇には意志があるようにも思える。先ほどのやりとりを見ると、ドラゴンに主導権はありそうだが。昔は冒険者に憧れ、魔物の図鑑を読んで勉強したり、孤児院に来てくれる冒険者に話を聞いた事があった。しかし、こんな魔物は見たり聞いたりした事がなかった。可愛らしい四つの瞳が、こちらを不思議そうに見つめ続けている。ドラゴン?を地面に降ろし、とりあえず、一時的にでも保護すると決めたからには、今日の宿を探さなくてはと考える。自分1人だったら野宿でも良かったが。そして、この路地から大通りに出る前に、ドラゴン?を隠さなくてはいけない。流石に人目に着きすぎるし、さらなる厄介事が舞い込んでくる気もする。どこに隠そうか思案する。ここに置いておいても、宿が決まれば迎えに来なくてはいけなくなるし、かといって現在の俺は、鞄等何も持っていないので隠せる場所がない。悩んだ挙句、上の服の中に入れることにした。「ほら、ここに入って、お前見つかるとやばそうだし」そう言いい、服を捲ると、コウモリの翼をバサバサとはためかせ飛び込んできた。思いがけない衝撃に、うっ!と声を漏らすと、ガァウ、心配そうに服の隙間から見つめてくる。「大丈夫だよ」と返事をし、大通りへと歩き出す。正直不安しかない。明らかにお腹が膨れあがっており、なにかを隠しているとアピールしているようなものだった。しかし、こういう時こそ堂々と、そう思い俺は、明るく賑やかな大通りへと足を踏み入れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る