第7話
「さっきの二人だ。ただならぬ距離感だろう? ――お前もそう思わない?」
小関さんはにやにやと口元を緩めている。おれは無性に反論したくなって、声を大きくした。
「そんなっ! だって男同士ですよ」
しかし小関さんは平然と言いのけた。
「同性の恋愛ってよくあるじゃん?」
「よ、よくある……」
声が小さくなってしまう。
――どうしてこの人はそんなことを平気で口にするのだろう? おれが悩んでいることなのに。どうして?
「何人の職員のプライベート見てきたと思ってんだよ。何百人じゃきかねーよ。女同士の関係持っている奴もいたけど、男もそうだ。人間なんて、なにがよくてなにが悪いなんて関係ないだろう? 人を好きになるって、そんな理屈じゃないし。別にいいんじゃないか?
同性が好きだろうと、異性が好きだろうと、年の差だって関係ない。おれからしたらちゃんと仕事してくれれば問題ないってことだ。ああ、ただしアウトなのは犯罪めいたもんな。
不倫だって別にいい。倫理から逸脱するけどさ。ただそっから傷害事件とか、性犯罪とかはダメだ」
「傷害事件とか、性犯罪なんてあるんですか」
「あったよ。 刃物出てきた奴もいるしさ。盗撮やら強姦とか、そんなもん、どの社会にだってあるさ」
ここで出会う職員たちは、みんなかっちりした格好をしていて、人当たりのいい紳士や淑女に見えていた。おれなんかとは違った世界の人たちだって。でもこの社会にも違法なことがあるし、色恋の人間模様が存在しているってことなんだ……。
「三島」
「はい!」
突然、名前を呼ばれてはっと我に返った。そして小関さんを見る。彼は珍しく真面目な顔をしていた。
「お前さ。後悔だけはしねーようにな」
「は、は?」
「今って時は今しかねーんだよ」
「は、はあ……」
「恋している時のお前の横顔は、そう悪くねーぞ」
「はあ、……へ!? へ!?」
びっくりして目を瞬かせると、小関さんはくしゃっと笑みを見せた。
「恋の三角関係ってやつな」
面白そうに笑う小関さんが憎らしい。胸がチクチクするのに、キラキラした天沼さんの横顔にドキドキしているのは夢じゃなかった。
そう。
多分。
きっと。
おれは天沼さんが好きだ――。
「気張って行けよ。男だろう?」
この時のおれは、まさかあんな展開になるなんて思ってもみなかったのだ。
ただ純粋にあの人が好きで、見ているだけでいいと思っていたのだった。
―了ー
警備員だって恋くらいするものです。 雪うさこ @yuki_usako
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