シスターズのデビュー戦

                 壱

 大阪の堺市のある広場にあるバスケットコート内で三人の長身男性、茶髪と金髪と黒髪の男性、富士、鷹、茄子の三姉妹が顔を見合わせている。男性の内、茶髪の男性が口を開く。

「えっと……ホンマにやる気?」

「ええ」

「ホンマにホンマ?」

「ホンマにホンマよ」

「ええ……」

「この恰好を見れば分かるでしょう?」

 富士は自分の着ている服を二本の指でつまんで引っ張る。白色で縁取られた、黒色のタンクトップと黒色のハーフパンツ姿である。鷹と茄子も同じ恰好である。

「えっと……チーム名は?」

「『シスターズ』よ」

「シスターズってことは……自分ら姉妹なん?」

「そうよ」

「へえ……美人揃いやねえ……」

「それはどうも……ただ、それはどうでも良いのよ」

「え?」

「試合をしてくれるかどうか……」

「い、いやあ、俺らも大阪ではそこそこ知られたチームやからな……」

「私たちも三重では知る人ぞ知るチームよ」

「いや、それはアカンやん! 大して知られてないやん!」

 茶髪が富士にツッコミを入れる。富士が頷く。

「まあ、それはそうね……」

「そういう相手と試合をするってのもな……」

「……怖いの? 負けるのが」

「あん?」

 鷹の言葉に男性たちの顔色が若干変わる。

「それなら無理にとは言わないけれど……」

「まあ、やったったってもええけど……体格差があるやん」

 茶髪が自分たちと富士たちの身長差を指し示す。富士たちも長身の方だが、それはあくまで女性の中ではだ。茄子が口を開く。

「全然問題ないよ」

「え?」

「むしろちょうど良いハンデさ♪」

 茄子がウインクする。男性たちの顔色が完全に変わる。

「……おもしろい、いっちょ揉んでやったるわ」

「そうこなくっちゃね……」

 富士が笑みを浮かべる。

「俺らが勝ったらなんか得があんのか?」

「私たちと結婚前提のお付き合いが出来るわ」

「い、いや、それはちょっと重いかな……飲み会とかは?」

「構わないわ」

「ふっ……よっしゃ、やろうか」

 六人がコート内に散らばる。3on3の為、コートの半分しか用いない。男性たちが先攻となる。

「……」

「試合時間、10分も要らん要らん~ちゃっちゃっと21点取って終わらしてしまうで~」

「言ってくれるじゃないの……」

 ボールを持った茶髪に対し、鷹がディフェンスにあたる。茶髪はそれを見て感心する。

「ふむ、ディフェンスはなかなか様になっとるやないか……ただ!」

「!」

「その程度では止められんで! ヘイ!」

 金髪にパスを通した茶髪がゴール前に素早く走り込んでリターンパスを要求する。

「それっ!」

「ナイスっ!」

 リターンパスを受け取った茶髪がお手本通りの見事なレイアップシュートを決める。男性たちの先制である。攻め手が富士たちに移る。

「慌てずに行きましょう」

「ええ、分かっているわ」

 富士の言葉に鷹が頷く。

「なーちゃん!」

「ほい!」

「そうはさせん!」

「あっ!」

 富士がノールックで茄子に鋭いパスを送るが、黒髪によってカットされる。黒髪が笑う。

「読み通り……俺らの攻撃やな」

「くっ、ディフェンス!」

 富士が声をかける。試合はその調子で進んでいき……。

「試合時間、まだ半分も経っていないけど、スコアは15対0……ギブアップするなら今の内やで?」

「冗談も休み休み言いなさい……」

 富士がムッとした表情を浮かべる。茶髪が笑う。

「ははっ、気の強いこっちゃ。まあ、嫌いやないで」

「たーちゃん、なーちゃん……」

 富士が鷹と茄子を呼び寄せる。

「ん?」

「なに?」

「強い相手ね……」

「そうね」

「大阪では知られているだけあるね」

「……あの方々を相手として、里に紹介する?」

「………」

「…………」

 鷹と茄子が男性たちをチラッと見た後、視線をすぐに戻す。

「富士姉、冗談でしょう」

「そうだよ」

「それにわたしはね、負けるのがなにより嫌いなの」

「それは私も同じよ」

「ワタシも」

「勝ちに行くわよ……!」

 富士が鷹にボールをあずける。鷹がゴールから遠い位置でドリブルをする。金髪がディフェンスに迫る。

「ふん!」

「おっと!」

 金髪が伸ばした手を、鷹がドリブルでなんとかかわす。

「攻撃に使える時間はたった12秒やで! そこでドリブルしてたらあっという間に時間切れや!」

「くっ!」

 鷹がボールを抱え込むように体勢を低くする。

「な、なんや!?」

「……!」

「!」

 体勢を直すと同時に鷹がシュートを放つ。綺麗な放物線を描いたボールがゴールに吸い込まれていく。黒髪が驚く。

「は、入った!? ゴールにほとんど背を向けていたで!?」

「たーちゃん……」

 富士が鷹に近づく。

「忍術『鷹の目』……」

 鷹が自らの目元を指差しながら呟く。

「鳥瞰でコートを捉えたのね」

「富士姉、わたし、今日なかなか調子が良いみたいだわ」

「そう……では、あなたにボールを集めるわ」

「お願い」

「ま、まぐれは続かん! あっ!?」

 茶髪から富士が巧みにボールを奪う。

「こっちの攻撃の番ね! たーちゃん!」

 富士が良いパスを鷹に送る。茶髪が金髪に向かって声を上げる。

「止めろ!」

「言われんでも!」

「忍術『隼の舞』!」

「!!」

 鷹の素早く小気味良いステップに金髪が惑わされる。

「ほっ!」

「しまっ……!」

 鷹の放ったシュートがゴールに入る。鷹が笑みを浮かべる。

「1ポイント……これで、さっきの2ポイントと合わせて、3点ね……ここから追い上げて行くわよ……!」

「くっ……」

 試合はそこから富士たち、シスターズが怒涛の追い上げを見せて、あっという間に逆転。スコアは15対20、シスターズのマッチポイントとなる。

「さあさあ、追い込んだよ~♪」

 茄子が楽し気に呟く。黒髪が舌打ちをする。

「ちっ……」

「落ち着け! シュートは全部ポニテの姉ちゃんや! そいつさえ抑えたら勝てるで!」

「だ、だけど、この姉ちゃん、もう三本もわけのわからんところからシュート決めよるし……!」

 鷹とマッチアップする金髪が弱音を吐く。

「シュートコースを塞いだらええねん! おい、お前もつけ!」

「あ、ああ!」

 茶髪の指示に従い、黒髪が鷹を囲む。

「……外ばっかりで、中ががら空きよ?」

「むっ!?」

「はっ!」

「ああっ!?」

 鷹の鋭いドリブルで、金髪と黒髪が一瞬で置いてけぼりにされる。

「もらった!」

「レイアップか! こっちが高さで勝るで! 叩き落としたる!」

 回り込んだ茶髪がブロックに飛ぶ。

「より高く飛ぶまで……!」

「はっ!?」

「忍術『鷲の爪』!」

「!?」

 茶髪のブロックよりもさらに高く飛んだ鷹が豪快なダンクシュートを叩き込む。これで21点目。シスターズの勝利である。

「やったあ!」

「ナイス! たーちゃん!」

「イエーイ!」

 三姉妹が喜びの円陣を組む。

「本当に調子がよかったわね!」

「絶好調だったわ!」

「でもさ……」

「……なによ? なー」

 鷹が茄子に視線を向ける。

「忍術……使って良いの?」

「……」

「………」

 茄子の問いかけに鷹と富士が視線を合わせる。

「……ギリギリ有り」

「無し寄りの有り」

「だ、駄目じゃない!?」

「しょうがないじゃん、負けたくなかったんだもん……」

「だ、だもんって……」

「面倒なことになる前にさっさと退散しましょう」

「うん、それが良いわね♪」

「い、良いのかなあ……」

 富士たち三姉妹はあっけに取られた男性たちに頭を下げて、コートを早々に後にするのであった。

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9no1×3on3! 阿弥陀乃トンマージ @amidanotonmaji

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