止まった世界、揺れる心 ~再び~
ことにゃ
第1部:喪失と出会い
冷たい風が耳元を通り抜ける。冬の空は雲一つなく、澄み切っているはずなのに、俺にはどこかどんよりと見えた。
トラックの上に立ち、いつものようにストップウォッチを握りしめる。コーチの掛け声、仲間たちの走る音、ぜえぜえと荒い息遣い――いつもなら聞こえてくるはずの音が、今はただの静寂に飲み込まれている。
「……走る意味なんて、あるのか?」
無意識のうちに、そんな言葉が口をついて出た。
少し前まで、この場所が俺の「すべて」だった。
陸上部の練習は、俺にとって日常のすべてで、1500メートルの記録を更新するためだけに生きていた。友達と遊ぶのも後回しにして、部活に注ぎ込んだ時間は、誰よりも長かったと思う。
でも、そんな日々は突然終わった。
県大会は中止、部活も停止。コロナウイルスが世界を変えた――俺たちの「夢」を奪い去った。
それ以来、何をやっても面白くない。何もかもが、ただの「暇つぶし」に思える。
ふと、トラックの端に目を向ける。そこには、砂ぼこりをかぶった俺のスパイクが転がっている。
いつもなら、手入れを怠らずピカピカに磨いていたはずのスパイク。今はただの置物と化していた。
しゃがみ込んで、それを拾い上げる。だが、その重みが手に伝わる瞬間、まるで何かが崩れるような感覚がした。
「……無駄だったな」
軽く投げ出したスパイクが地面に落ち、乾いた音を立てた。
結局、俺は何も変わらない。走らない。動けない――こんな自分を変えたいとも思えない。
無気力に足を引きずるようにして、俺はその場を後にした。
自宅に戻って
家に帰ると、俺はそのままベッドに倒れ込んだ。
天井のシミをじっと見つめながら、ため息をつく。
母さんがリビングで料理をしている音が、微かに聞こえてきた。いつもなら「おかえり」の一言くらいかけてくれるはずなのに、今日はそれすらなかった。きっと、俺が何も返さないと分かっているんだろう。
手を伸ばして、机の上に置いてあったスマホを手に取る。だが、開くアプリも、誰かと話す気力も湧かない。
スマホの画面を見つめていると、ふと通知が目に入った。
「藤原大輔:今何してる?」
「……何してる、ねえ」
俺はそのメッセージを眺めたまま、返信もせずにスマホを置いた。
大輔は、陸上部の仲間で、俺にとって数少ない友達だった。明るくて、いつも俺を気にかけてくれる奴だ。
だが、そんな奴にすら、今の俺は何も返せない。
ベッドに沈み込むようにして、俺は目を閉じた。
無気力――それが、今の俺を覆っているすべてだった。
2. 友達の誘い
教室の空気はどこか沈んでいるように感じた。いや、ただ俺の気分がそうさせているだけかもしれない。
昼休み、窓際の席に座っている俺は、いつものように机に突っ伏していた。
周囲から聞こえるのは、他のクラスメートたちの楽しそうな笑い声や雑談。だが、それがやけに遠くに聞こえるのはなぜだろうか。
「よーし、今日の弁当も完璧!」
そんな明るい声とともに、隣の席の藤原大輔がドンと机に弁当箱を置いた。彼の登場で、一気に静けさが破られる。
「おい悠斗、今日も暗い顔してんな。寝てる場合じゃないだろ」
俺が返事をする前に、彼は俺の背中をバンバン叩いた。
「……うるさいな、大輔」
「おっ、ちゃんと声出た!成長してるじゃん!」
俺のそっけない態度にも動じず、大輔はにやにやと笑う。
「で、どうせ今日も何もしてないんだろ?暇してるんだったらさ、俺がいい暇つぶしを教えてやるよ」
そう言いながら、彼はスマホを取り出し、画面を俺の目の前に突き出した。
「……何これ?」
「FPS!ファーストパーソンシューティング!最近俺がハマってるゲームだよ」
画面には、派手なグラフィックと銃を構えたキャラクターが映っていた。
「ゲームかよ。俺、そういうの興味ないし」
「はぁ?お前、陸上ばっかやっててゲームの面白さ知らないんじゃないか?人生損してるぞ!」
「別に損してるつもりはないけど」
俺はそっけなく返事をしたが、大輔はそんなことお構いなしに話を続ける。
「いいか、これただの暇つぶしじゃないんだぞ。頭使うし、反射神経も鍛えられるし、しかも――仲間と協力プレイできるんだぜ?」
「ふーん」
「なぁ、どうせ暇なんだろ?だったら一回くらいやってみろって」
大輔は俺のスマホを勝手に操作し、アプリをダウンロードし始めた。
俺はため息をつきながら、それを黙って見ていた。
「ほら、これでインストール完了!後でやっとけよ」
「……別にやるとは言ってないけど」
「いいからいいから!お前みたいな陰気な奴にはピッタリだから!」
俺はその言葉に少しイラッとしたが、反論する気力も湧かなかった。
「まぁ、暇なときに試してみろって。それより弁当食うぞ!」
そう言って、彼は弁当箱を開け、中身を見せつけるようにこちらに向けた。
「ほら、今日は母さんが唐揚げ多めに入れてくれたんだ。お前も食うか?」
「いらない」
「ケチくせぇなぁ」
大輔は楽しそうに弁当を頬張りながら、他愛のない話を続けていた。
そんな彼を横目で見ながら、俺はダウンロードしたばかりのアプリを起動するかどうか迷っていた。
3. 初めてのFPS
その夜、俺はベッドに寝転がりながら、藤原大輔に無理やりダウンロードさせられたFPSのアプリを眺めていた。
「……まぁ、暇だし、ちょっとだけやってみるか」
半分投げやりな気持ちでアプリを起動する。画面には派手なロゴとともに、ゲームの世界観を紹介するムービーが流れ始めた。
武装した兵士たちが戦場を駆け回り、銃撃戦を繰り広げている。その迫力に少しだけ圧倒されながら、俺は「スタート」ボタンをタップした。
チュートリアルの洗礼
「まずは基本操作を覚えよう!」
画面には、明るい声で指示を出すキャラクターが表示される。どうやらこのゲームには簡単なチュートリアルがあるらしい。
移動スティックを指で操作しながら、画面上のターゲットに向けて銃を撃つ。
スティックを右に動かすとキャラクターが右に進むが、その動きが意外と滑らかで、「おっ」と思った。
「……意外と面白いじゃん」
だが、その感想も束の間。敵が現れるや否や、俺は操作を誤り、あっけなくゲームオーバーになった。
「マジかよ……こんな序盤でやられるとか、あり得ないだろ」
画面の向こうで敵キャラクターが笑っているように見えて、妙に悔しかった。
オンライン対戦への挑戦
チュートリアルをなんとかクリアし、次はオンライン対戦が解禁された。
「お前もそろそろ実戦をやってみよう!」
画面に表示されたメッセージに、俺は少しだけ心が動いた。
とはいえ、オンライン対戦なんて初めてだ。初心者丸出しの動きを晒すのは気が引けたが、「とりあえず試しにやってみよう」と思い、エントリーボタンをタップした。
数秒後、画面に「マッチング完了」の文字が表示される。どうやら同じ初心者レベルのプレイヤーたちと組まれたらしい。
「よし……やってやる」
試合開始とともに、目の前のマップが広がる。建物が並ぶ市街地が舞台で、俺はその中を駆け回りながら敵を探した。
しかし、数秒後――
「えっ!? どこから撃たれた!?」
背後から不意を突かれ、あっけなくやられる。
「うわ、まじかよ……ちょっと油断しただけなのに!」
再びスタート地点に戻され、俺は周囲を警戒しながら慎重に進むことにした。
だが、結果は同じ。建物の影に隠れていた敵に待ち伏せされ、またしても敗北。
「……これ、めっちゃ難しいじゃんか」
しかし、不思議なことに、俺は諦める気にはなれなかった。むしろ、やられるたびに「次こそは」と思う気持ちが強くなる。
勝利の喜びと悔しさ
何度か繰り返しているうちに、ようやく敵を1人倒すことができた。
ターゲットを正確に狙い、撃つ。相手が倒れる瞬間、胸の中に小さな達成感が広がった。
「やった……!」
その感覚は、どこか陸上で自己ベストを更新したときの喜びに似ていた。
だが、その直後、別の敵に狙われ、再びやられる。
「くそっ……!」
悔しさと達成感が交錯する中で、俺の中に小さな火が灯った。
大輔からのフォロー
次の日の昼休み、大輔が俺を見つけるなり、笑いながら肩を叩いてきた。
「おい悠斗、昨日FPSやったろ?」
「……なんで分かるんだよ」
「分かるに決まってんだろ!お前のランキング、めっちゃ低かったぞ!」
「初心者なんだから当たり前だろ!」
「まぁまぁ、落ち着けって。でも、お前がちゃんとプレイしてるのは意外だったな」
俺は少しムッとしたが、大輔の顔を見ていると、少しだけ肩の力が抜けた。
「どうせ暇だったからな……でも、正直ちょっと面白かったよ」
「だろ!?これからどんどんハマるから見てろよ!」
大輔の無邪気な笑顔を見て、俺は少しだけ笑い返した。
4. 謎のプレイヤー「Luna」との出会い
数日後の夜。
俺はまた、ゲームのプライベートルームを作って、一人で練習していた。
「……あれ、今日は誰も入ってこないか」
画面の左下には「待機中」という文字が点滅している。通常なら誰かしら参加者が来るのだが、この時間帯はやや人が少ないらしい。
「まぁいいや。練習だと思って地道にやってみるか」
そう独り言を呟き、銃を構える準備を始めた瞬間――
「Lunaがルームに参加しました」
突然、画面に現れた名前に、俺は思わず目を見開いた。
「……ルナ?」
その名前に見覚えはなかったが、表示されたプロフィールを見た瞬間、息が止まった。
全国ランキング:9位
勝率:92%
異次元の数値だ。俺のような初心者とはまるで住む世界が違う。
「なんでこんな化け物みたいなプレイヤーが俺のルームに入ってくるんだよ……」
動揺を隠せないまま、俺は画面の準備完了ボタンをタップした。
試合開始
試合が始まると同時に、俺の心臓は跳ねるように鼓動し始めた。画面越しとはいえ、彼女の圧倒的なオーラが伝わってくる。
「……どこだ?」
ステージは廃墟の工場エリア。遮蔽物が多く、敵の動きを見失いやすいマップだ。慎重に周囲を警戒しながら進んでいると――
パンッ!
一発の銃声が響く。
「えっ!? もう撃たれたのか!?」
俺は何が起きたのか分からないまま、リスポーン地点に戻される。
(どこから撃たれたんだ……全然見えなかったぞ)
悔しさを押し殺し、再びゲーム内に戻る。だが、その後も同じ結果が続いた。
彼女――いや、「Luna」の動きは異常だった。まるで俺が進む先をすべて読んでいるかのように、待ち伏せし、正確に撃ち抜いてくる。
挑発のメッセージ
数回目の敗北を喫したとき、画面のチャット欄に短いメッセージが表示された。
「こんなもの?」
その一言に、俺の中で何かが切れた。
「こんなものだと……?」
顔が熱くなり、手のひらに汗が滲む。悔しい。ただただ悔しかった。
俺はそのままキーボードを叩き、返事を送った。
「次は絶対に勝つ」
だが、Lunaからの返事はもっと短かった。
「楽しみにしてる」
その言葉が画面に表示されるのと同時に、再び試合がスタートした。
完全な敗北
俺はこれまでの試合の反省を活かし、慎重に動くことにした。遮蔽物を利用しながら、彼女の位置を特定しようと試みる。
(今度は不意を突かれる前に、こっちから仕掛ける……!)
だが、次の瞬間――
パンッ!
またしても撃たれる。しかも、今回は俺が「有利」だと思っていたポジションからだ。
「くそっ、どうなってんだよ!」
リスポーン地点に戻された俺は、画面を睨みつけたまま立ち尽くした。
何をどうやっても勝てる気がしない。この圧倒的な実力差を前に、俺は完全に沈黙した。
最後の言葉
試合が終了すると、再び彼女からメッセージが届いた。
「努力は認める。でも、もっと頑張らないとね」
「……もっと、頑張らないと……か」
その言葉に、俺は妙に引っかかるものを感じた。
決して馬鹿にするような口調ではない。むしろ、期待を込めたような――そんな印象すら受けた。
彼女が退出した後、俺はただぼんやりと画面を見つめていた。
悔しい。こんなにも悔しい思いをするのは久しぶりだった。
「……絶対に勝ってやるからな」
俺は拳を握りしめ、もう一度だけゲームを起動する決意をした。
それからの数日、俺は授業中も、帰り道も、ゲームのことで頭がいっぱいだった。
「おい、悠斗、お前最近やたらスマホいじってんな」
昼休み、隣の席の藤原大輔が話しかけてきた。
「別に普通だろ」
「いやいや、前まではスマホなんて全然触らなかった奴が、今じゃ四六時中見てるってのはおかしいだろ!」
大輔は、俺の手元にあるスマホを指さした。俺は思わず画面を閉じ、そっけなく返事をした。
「……暇つぶしだよ」
「ふーん?暇つぶしねぇ……」
大輔はニヤニヤしながら俺のスマホを覗こうとする。
「ちょっ、見んなよ!」
「いいだろー、ちょっとだけだって。お、これFPSじゃん!」
俺はスマホを引き戻そうとしたが、大輔の方が一歩早かった。画面を見た瞬間、彼の目が大きく見開かれた。
「……ちょ、お前、『Luna』に挑んでんのかよ!?」
彼の大声に、俺は驚いて思わず後ずさった。
「おい、声でかいよ!なんだよそのリアクション」
「いやいやいや、『Luna』だぞ? あの全国ランキングのトップ10常連の……!」
「そうみたいだな」
俺は少し自慢げに肩をすくめた。が、大輔はそれ以上に驚愕の表情を浮かべていた。
「マジかよ……お前、無謀にもほどがあるだろ……」
「そんなにすごいのか? Lunaって」
俺の素直な疑問に、大輔は首をガクガクと縦に振った。
「そりゃすごいなんてもんじゃねえよ。俺も一回だけ当たったことあるけど、ボコボコにされて二度と挑む気になれなかったくらいだぞ!」
「そうなのか……」
確かに強かった。俺も今のところ、勝つどころか手も足も出ない。
「いや、それにしても、悠斗が『Luna』とやり合うなんて、世も末だな!」
「どういう意味だよ」
「だってお前、ゲーム始めたばっかだろ? 何でいきなりそんな強敵に挑んでんだよ!」
大輔の言葉に俺は少し口ごもった。
「……なんとなく、目に入ったから」
「目に入ったからってお前……普通、無理だって思うだろ!」
大輔は呆れたようにため息をついたが、やがてニヤリと笑った。
「でもまあ、そんな無謀な挑戦するお前を久々に見た気がするわ」
「……どういう意味だよ」
「いい意味だよ。最近のお前、死んだ魚みたいな目してたからな。ちょっとは生き返ったか?」
その言葉が妙に心に響いた。確かに、俺はゲームを始める前より、何かに夢中になっている。
「まあ、どうせ勝てねえだろうけど、応援してやるよ!」
「余計な一言だな……」
5. 挫折と挑発
その夜、俺は再びスマホを手に取り、ゲームを起動していた。
Luna――あのランキング上位の化け物プレイヤーに、何度も叩きのめされたことが脳裏にこびりついている。
「次は絶対……勝つ」
自分にそう言い聞かせるように呟き、オンラインマッチを開始する。
すぐに「対戦相手が見つかりました」の文字が表示され、心臓がトクン、と高鳴る。
「Lunaがルームに参加しました」
まただ。
あの名前を見るたびに、無意識のうちに息を止めてしまう。
「よし……今度こそ……!」
再挑戦の幕開け
廃墟のビルが立ち並ぶマップ。
遮蔽物の多さが特徴で、初心者には動きが読みづらい場所だ。だが、同時に使いこなせれば逆転のチャンスも生まれる。
試合が始まると同時に、俺はすぐにマップ中央の高所を目指した。
(ここを取れば……敵の動きが見えるはず)
意気込んだ瞬間――
パンッ!
またしても銃声が響く。リスポーン地点に戻された俺は、思わず画面を睨んだ。
「くそっ……またやられた!」
遮蔽物を使い、慎重に進んでいるつもりだったのに、Lunaにはすべて読まれている。
(どこから撃ってきた……? 位置すら分からなかったぞ)
まるで透明な敵に襲われているような気分だ。
挑発のチャット
試合の途中、Lunaからのメッセージが画面に表示された。
「またその動き?」
短い言葉だが、その挑発に胸がざわつく。
「くそっ、余裕かよ……!」
言い返したい気持ちを抑え、再び画面に集中する。
(落ち着け……焦るな。次は絶対に先手を取る!)
再リスポーン後、今度はあえてゆっくりと進む。動きを読まれないよう、マップ端の狭い路地を慎重に進み、相手の裏を取ろうと試みる。
だが、またしても――
パンッ!
銃声が響く。結果は同じだった。
挫折感
試合が終了し、スコア画面に「敗北」の二文字が表示される。
「また……負けた」
リスポーン地点で立ち尽くしていた俺は、指をスマホ画面から離すことができなかった。
このまま諦めるのは簡単だ。でも、それじゃダメだと思ってしまう。
再び画面にメッセージが届く。
「悪くない。でもまだまだだね」
「……っ!」
その言葉に、俺の胸の奥で何かが引き裂かれるような感覚が走る。
決して見下しているわけじゃない。そのニュアンスは分かる。むしろ、どこか「期待している」ようにも感じられる。
その感覚が、余計に俺を苛立たせた。
「何なんだよ……!」
思わず呟き、スマホを机に置く。だが、その手はまた画面へと戻される。
リベンジを誓う夜
俺は再び部屋の明かりを落とし、ゲームを起動した。
今日だけで何度も挑んでいるが、一度も勝てた試しがない。それでも、なぜかやめる気になれなかった。
気づけば時計は深夜1時を回っていた。
「次こそ……次こそは……!」
画面に表示されるマップ、そして対戦相手の名前――またしてもLuna。
心臓が高鳴る。まるで初めて試合に挑むかのような緊張感だ。
結果はまたしても同じだった。だが、今回の敗北は少しだけ違う感覚を伴っていた。
(確かに、一瞬だけ彼女の位置を読めた気がする……)
小さな成長の兆し。それが俺の中で、わずかな光となって残った。
悔しさと成長
翌日、教室で大輔にその話をすると、彼は驚きながらこう言った。
「お前、あのLunaに挑み続けてるの!? バケモンだな……」
「何がバケモンだよ」
「いやいや、普通なら一回負けたら心折れるぞ。それを何度も挑むって……」
彼の言葉を聞きながら、俺は静かに拳を握りしめた。
「……まだ勝てない。でも、少しずつ追いついてる気がするんだ」
その言葉に、彼は笑みを浮かべた。
「お前、久々に燃えてるじゃん」
その言葉が、不思議と心に響いた。俺はまだ「勝ちたい」と思えている。
そして、この気持ちを忘れたくないと思った。
6. Lunaの正体に近づく
放課後の教室
「おい悠斗、お前また昨日もLunaとやってたんだろ?」
昼休み、机に突っ伏していた俺に、藤原大輔が半笑いで声をかけてきた。
「……まあな」
「お前ほんと物好きだよなぁ。普通、何十連敗もしたら諦めるだろ。なんでまだ挑んでんだよ?」
俺は大輔の言葉に少しイラっとしながらも、正直な気持ちを口にした。
「……悔しいんだよ。勝てないのが」
その言葉に、大輔は一瞬驚いたような顔をしてから、フッと笑った。
「お前らしいわ。陸上の時もそうだったもんな。タイムが縮まらないと延々走り続けてたし」
「おい、そんな昔の話を掘り返すな」
「いやいや、そういうとこ嫌いじゃないぜ。で、進展はあったのかよ? Lunaに一矢くらい報いたんだろ?」
「……全然だ」
苦笑いしながら答えると、大輔は大袈裟に頭を抱えた。
「そりゃそうだよなぁ。Lunaって全国ランキング9位だぜ? 俺が一回だけ当たった時なんて、秒殺されたし」
「だろうな。でも、俺は諦めるつもりはない」
「はいはい、頑張ってくださいよ。俺は応援しとくわ」
軽く肩を叩いて笑う大輔を横目に、俺は小さく息をついた。
Lunaのプロフィール再確認
その夜、俺は自分の部屋でゲームを起動し、再びLunaのプロフィールを開いていた。
「Luna」
• 勝率:92%
• ランキング:全国9位
• 所属:チームなし
どれだけ見ても、彼女の正体を示す手がかりはほとんどない。
(なんでこんなに強いのにチームに入ってないんだ?)
疑問は尽きなかった。普通、ランキング上位のプレイヤーは有名チームに所属しているものだ。それなのに、Lunaはどこのチームにも入らず、ソロプレイを貫いている。
(まさか……リアルではただの普通の奴だったりするのか?)
そんなありえない想像をして、俺は一人で苦笑いした。
公園での偶然
次の日の放課後、俺はふと立ち寄った近所の公園で、一人の少女を見かけた。
肩にかかるくらいの黒髪。手にはスマホを持ち、どこか物静かな雰囲気を纏っている。
何気なく視線を向けた瞬間、彼女のスマホ画面がちらりと見えた。
そこには、見覚えのあるゲームのロビー画面と、「Luna」という名前が表示されていた。
(嘘だろ……)
心臓が跳ねるように鼓動を打ち始める。
まさか、この公園にいるこの少女が――ゲームの中で俺を打ちのめしているLunaだというのか?
思わず声をかけそうになるが、足が動かなかった。
(違うかもしれない……でも、もしそうだったら……)
そんな葛藤を抱えていると、ふと少女がこちらに目を向けた。
目が合う。一瞬驚いたような顔を見せた後、彼女は小さく微笑んだ。そしてそのまま、スマホを手に立ち上がり、公園を去っていった。
俺はその場に立ち尽くしたまま、彼女の後ろ姿を見送ることしかできなかった。
後日の会話
「おい悠斗、どうしたんだよそのボーっとした顔」
次の日の昼休み、大輔が俺の顔を覗き込んできた。
「……ちょっと気になることがあってな」
「お、なんだよ? ついにLunaに勝ったか?」
「いや、そうじゃなくて……」
俺は昨日公園で見たことを話そうか迷ったが、結局言葉を飲み込んだ。
(もし、あの子が本当にLunaだとしたら……俺の思い過ごしだったら、ただの恥だ)
「何でもない。まだ勝ってないけど、次こそは勝つつもりだ」
「ははっ、その意気だな! 俺は応援してるから!」
大輔の笑顔に背中を押されるようにして、俺はスマホを手に取り、もう一度ゲームを起動した。
7. ゲームと現実の交錯
頭から離れない少女の姿
翌朝、目が覚めた瞬間、昨日公園で見た少女の姿が頭に浮かんだ。
肩にかかるくらいの黒髪、スマホを握る細い指、そしてちらりと見えたゲーム画面――「Luna」という名前。
(いや、別人だろう……)
そう思いながらも、胸の奥がざわつくのを感じる。
まるで、ゲームの中の存在が現実に現れたかのような不思議な感覚だった。
「……偶然だろ」
自分に言い聞かせながら、制服に袖を通し、家を出た。
だがその少女の表情が、どうしても脳裏に焼き付いて離れなかった。
昼休みの大輔との会話
「おい悠斗、お前また昨日もLunaとやってたんだろ?」
昼休み、大輔が弁当を頬張りながらニヤニヤとした顔で声をかけてきた。
「……まぁな」
「物好きだよなぁ。あんなバケモンみたいな相手と毎晩やり合うとか、俺なら無理だわ」
「別に……ただ、負けっぱなしで終わるのが嫌なだけだ」
「いやいや、あの全国ランキング9位のLunaだろ? 普通にやり合えてるだけでもすげぇよ」
そう言いながら、大輔は俺をじっと見つめてきた。
「……で、どうなんだよ? 最近、進展はあったのか?」
「ない。全然勝てない」
「だよなぁ。でもさ、Lunaってどんな奴なんだろうな?」
大輔の何気ない一言に、俺は少しだけ心臓が跳ねた。
(もし、昨日公園で見たあの子がLunaだとしたら……?)
その考えを振り払おうと、俺は適当に相槌を打った。
「まぁ、どんな奴かは分からないけど……とりあえず、次こそは勝つつもりだ」
「おう、頑張れよ。俺は応援してるぜ」
大輔の軽口に、俺は小さくため息をついた。
Lunaとのルーム対戦
その夜、俺はまたいつものようにプライベートルームを作り、Lunaを待っていた。
ルーム名はシンプルに「1対1」。ゲームを始めてからずっと、このルームでLunaと勝負をしている。
「来るかな……」
待機画面の中、ふと不安がよぎる。もしかして、今日は来ないかもしれない。そう思った瞬間――
「Lunaがルームに参加しました」
画面にその名前が表示された途端、胸の鼓動が速くなる。
「よし……今日こそは」
試合開始
試合が始まり、マップが表示される。今回は砂漠地帯――遮蔽物が少なく、撃ち合いの技術が試される場所だ。
(焦るな……慎重にいけ)
いつもならすぐに動き出すところを、今日はあえてじっくりとLunaの動きを観察することにした。
画面の中の彼女のキャラクターは、いつものように滑らかに動いている。奇妙なほど無駄がなく、隙もない。
パンッ!
一発の銃声が響き、画面に「撃たれた」の文字が表示される。
「……くそっ!」
リスポーン地点に戻されるたびに、悔しさが込み上げてくる。だがその度に、「次こそは」と思わずにはいられなかった。
試合後のやり取り
試合が終わると、いつものようにチャット欄にメッセージが届いた。
「また焦ってたね」
その一言に、俺は少しだけ顔が熱くなる。
(焦ってるの、バレてんのか……)
素直に悔しさを覚えながらも、メッセージを返した。
「次こそ勝つからな」
すると、Lunaからすぐに返信が返ってくる。
「楽しみにしてる」
その短い一言が、妙に胸に響く。
(次こそ……本当に勝ってみせる)
俺は再びスマホを握りしめ、リベンジを誓った。
8. 現実での再会とLunaの正体の接近
再び公園で〜
その翌日、放課後の帰り道。
俺は昨日のことが頭から離れず、ふらふらとまた公園に足を運んでいた。
冷たい風が頬を撫でる中、静かな公園のベンチに目を向けると――そこには、また昨日と同じ少女の姿があった。
(……やっぱり、あの子だ)
肩にかかる黒髪、うつむいたままスマホを操作する指先、どこか物静かな雰囲気。
その姿が、俺の目に焼き付いた。
「……どうする、声かけるか?」
自問しながらも、足が前に進まない。もし彼女がLunaじゃなかったら――そんな考えが頭をよぎる。
だが、その時。少女がふと顔を上げ、こちらに気づいた。
「……!」
目が合った瞬間、俺は動けなくなった。彼女は一瞬だけ驚いた表情を見せた後、少し戸惑いながら微笑んだ。そしてそのまま立ち上がり、公園を出ていこうとする。
(待てよ……)
心の中でそう叫びながらも、俺はただ彼女の後ろ姿を見送るだけだった。
Lunaに直接聞くべきか
その夜、俺はゲームを起動し、いつものようにプライベートルームを作った。
やはり今日も彼女――Lunaが現れるのだろうか。
「Lunaがルームに参加しました」
画面にその名前が表示された瞬間、胸が高鳴る。
「今日こそ……何か聞いてみるべきか?」
試合が始まる前、チャット欄を開いてメッセージを打とうとした。
「お前って……」
だが、途中で指が止まる。どうやって聞けばいいのか分からない。そもそも、聞くべきなのかすら分からなかった。
(ゲームと現実は別だろ……そんなこと、わざわざ確認してどうするんだ?)
結局、何も送らないまま試合が始まった。
緊迫した試合
今回は廃墟のビル街がマップだった。
遮蔽物が多いこの場所では、敵の動きを的確に読むことが重要になる。
(冷静にいけ……焦るな)
自分に言い聞かせながら、俺はゆっくりと建物の影を移動する。
Lunaの動きはいつも通り洗練されていて、少しの隙も見当たらない。
試合中、彼女が遠くの高所にポジションを取るのが見えた。
「よし……この位置ならいけるか?」
息を潜めながら、慎重に距離を詰める。遮蔽物を利用し、決して彼女に気づかれないように進む。
そして、ついに射程圏内に入った瞬間――
パンッ!
銃声が響き、画面には「撃たれた」の文字が表示される。
「……またかよ」
リスポーン地点に戻された俺は、何がいけなかったのか考え込む。だが、考える暇もなく、再び試合が動き出す。
試合後のやり取り
試合が終わり、いつものようにLunaからメッセージが届いた。
「今日の動き、悪くなかったよ」
短い言葉だったが、妙に心に響いた。
(いつもは挑発的なことばっかり言うのに……どうしたんだ?)
俺はメッセージを返すべきか迷いながら、ふと昨日の公園での出来事が頭をよぎった。
(やっぱり……聞いてみるべきか?)
意を決して、メッセージを打ち込む。
「Lunaって……どこに住んでるんだ?」
送信ボタンを押した瞬間、心臓が跳ねるように鼓動する。
(これ、変に思われるかもしれないな)
だが、彼女から返ってきた返事は意外なものだった。
「秘密。でも、あなたの近くかもね」
「……近く?」
その一言に、昨日の公園で見た少女の姿が鮮明に浮かんだ。
(本当に……あの子がLunaなのか?)
混乱しながらも、俺はスマホを見つめ続けた。
9. Lunaの正体への確信
偶然の再会
翌日、学校の帰り道。
俺は少し遠回りをして、またあの公園に足を運んでいた。
(いないかもしれないけど……)
心の中でそう思いながらも、期待している自分がいるのが分かった。
もしかしたら、またあの子がここにいるかもしれない。
小さな希望を胸に、公園のベンチに目を向けると――やはり、彼女の姿があった。
「……やっぱり」
スマホを操作する指先、少し伏せた目元、静かな佇まい――すべてが昨日と同じだった。
俺は迷った。
声をかけるべきか、それともまた見ているだけで終わらせるのか。
だが、その時。彼女がスマホを少し傾けた瞬間、画面に表示されているものが目に入った。
(FPSのロビー……!)
やっぱり、あのLunaだ。
間違いない――そう思った瞬間、思わず足が前に進んだ。
「なぁ……君って」
そう声をかけると、彼女が驚いたように顔を上げた。
短い会話
「あ……えっと、何か?」
近くで見ると、彼女は想像以上に柔らかな雰囲気を纏っていた。だが、その瞳にはどこか鋭さが感じられる。
「いや、その……昨日もここにいたよな」
「……うん、いたけど」
彼女は少し戸惑った様子で俺を見つめた。
「もしかして、君って……Luna?」
その言葉に、彼女の目が一瞬だけ見開かれる。だが、すぐに薄い笑みを浮かべた。
「どうして、そう思うの?」
「いや、その……画面にFPSのロビーが映ってたし、それに……なんとなく、雰囲気が似てるっていうか」
自分でもよく分からない言葉を並べながら、彼女の反応を伺う。
彼女は少し考え込むような仕草を見せた後、小さく頷いた。
「……そうだよ。私がLuna」
その一言に、胸が高鳴るのを感じた。
(やっぱり、この子が……)
Luna=結菜の正体
「ほんとに……あのLunaなんだな」
「うん。でも、まさかゲームで一緒だった人に現実で会うなんて思わなかった」
彼女――いや、Lunaは少し照れたような表情を浮かべながら答えた。
「俺、ずっと君に勝ちたくてさ。何回挑んでも負けてばっかだけど」
「……知ってるよ。私も、あなたとやるのは楽しかった」
その言葉に、俺は驚きと嬉しさが入り混じった感情を覚えた。
「楽しかった?」
「うん。普段は圧勝ばっかりでつまらないけど、あなたは違う。負けても負けても諦めないし、それに……少しずつ成長してるのが分かるから」
その言葉が妙に嬉しくて、思わず口元が緩んだ。
「そっか……でも、俺、絶対に勝つからな」
「ふふ、楽しみにしてる」
彼女が笑うと、その顔がどこか新鮮で眩しく見えた。
再戦の約束
「じゃあ、そろそろ帰るね」
立ち上がった彼女を見送りながら、俺はふと尋ねた。
「君の名前、教えてくれないか?」
すると彼女は少し驚いた顔をしてから、小さく微笑んだ。
「七瀬結菜(ななせ ゆいな)。覚えておいて」
そう言い残し、彼女は公園を後にした。
「七瀬結菜……」
彼女の名前を反芻しながら、俺はスマホを取り出し、ゲームを起動した。
そこには、いつものように「Luna」という名前が表示されていた。
「よし……次の試合は絶対に勝ってみせる」
気合いを入れながら、俺はまたプライベートルームを作成した。
10. ゲームと現実での絆の形成
現実での再会
数日後の放課後。
またしても帰り道で公園に立ち寄ると、彼女――結菜がいつものベンチに座っていた。
「やっぱりここにいるんだな」
声をかけると、結菜が驚いたように顔を上げた。
「あ、悠斗……」
彼女はスマホを手にしたまま俺を見上げる。その表情は、ゲーム中の冷静さとは違い、柔らかいものだった。
「この間はありがとう。名前、ちゃんと覚えてくれた?」
「覚えてるよ。七瀬結菜……だろ?」
「正解」
彼女は小さく笑いながら頷いた。
走る動作の発見
「何してるんだ?」
俺が尋ねると、彼女はちらりと足元を見ながら答えた。
「……ちょっとだけ走ってた」
「走ってた?」
「うん。ほら、ベンチに座ってばかりじゃ体がなまるでしょ?」
彼女は軽く立ち上がると、何気なくその場で足を動かしてみせた。フォームの美しさに、俺は思わず見入ってしまう。
「その動き……」
「え?」
「いや、なんか……めちゃくちゃ綺麗だな。普通に走ってるって感じじゃない」
結菜は少しだけ照れたように笑いながら、視線をそらした。
「……昔、陸上をやってたからね」
その一言に、俺は胸が高鳴るのを感じた。
「やっぱり……」
「どうして分かったの?」
「いや、その……走り方がすごく洗練されてたから。俺も陸上やってたからさ、何となく分かるんだ」
俺の言葉に、結菜は少し驚いたような表情を浮かべた。
陸上の話
「……私、もう走るのやめちゃったけどね」
「どうして?」
俺が尋ねると、結菜はベンチに腰を下ろし、少し視線を落とした。
「コロナで大会が中止になって、それから……もう目標を見つけられなくなったの」
その言葉に、俺の胸が痛くなった。
まるで、自分のことを言われているような気がしたからだ。
「俺も、同じだよ」
「……え?」
「俺もコロナで大会がなくなって、目標を失った。だからゲームばっかりしてたんだ」
結菜は少しだけ目を見開いた後、微笑んだ。
「そっか……だからゲームが強いんだね」
「いや、全然だよ。君に勝ったことなんて一度もないし」
俺がそう言うと、彼女はくすくすと笑った。
次の挑戦
「ねぇ、悠斗」
ふいに、結菜が俺の方をじっと見つめて言った。
「今度、一緒に大会に出ない?」
「大会?」
「FPSのオンライン大会。ちょうどエントリーが始まってるんだ。あなたとなら、きっといいチームが組めると思う」
その言葉に、俺は少し戸惑いながらも答えた。
「俺で……いいのか?」
「いいよ。あなたなら絶対にやれる」
その一言に、胸が熱くなる。
「……分かった。やってみるよ」
彼女が微笑む。その笑顔は、これまで見たどの表情よりも明るかった。
12. オンライン大会への挑戦
大会の幕開け
大会当日。
画面に映るエントリーロビーには、各地から集まったプレイヤーたちの名前がずらりと並んでいた。
「……すごいな。本当にこれだけの人数が参加してるんだな」
俺はヘッドセットを装着しながら、少し緊張した声で呟いた。
「大丈夫。私たちは私たちの試合をするだけだよ」
結菜の落ち着いた声が耳に届き、少しだけ気持ちが軽くなる。
「分かった。でも、足引っ張らないようにしないとな」
「それなら大丈夫。今まで一緒に練習してきたんだから、自信持って」
彼女の言葉に頷きながら、俺は画面を見つめた。
「大会マッチング中」
表示された文字が消え、画面に新しいマップが映し出される。
「よし……行こうか」
予選第1試合:緊張と初勝利
最初の試合は、工場地帯を舞台としたチームデスマッチだった。
「悠斗、まずは右側の建物を抑えて。私は左から敵を狙うから」
「了解!」
結菜の指示に従いながら、俺はマップ右端の建物に向かう。
練習の成果か、体が自然に動き、遮蔽物を意識しながら進むことができた。
パンッ!
敵の足音を聞き、振り向きざまに発砲する。
見事に命中し、画面には「敵を撃破」の文字が表示された。
「ナイスキル!」
結菜の声がヘッドセット越しに届く。
「よし、この調子で行くぞ!」
その後も、二人で連携を取りながら順調に敵を倒していく。
最終的にスコアは圧勝――第1試合を無事に突破することができた。
予選第2試合:試練と学び
第2試合は、砂漠地帯が舞台だった。
遮蔽物が少ないこのマップでは、撃ち合いの技術とタイミングが重要になる。
「敵が中央に集まってる!一旦引いて、距離を取ろう」
「分かった!」
だが、俺たちの動きが読まれていたのか、敵が巧妙な位置取りをしてきた。
俺が動こうとした瞬間――
パンッ!
銃声とともに画面には「撃たれた」の文字が表示される。
「くそっ、読まれてた……!」
「悠斗、大丈夫。リスポーンしたらすぐに合流して。まだ巻き返せるから」
結菜の冷静な声に助けられながら、俺は再びマップに戻った。
チームの力
試合が進むにつれ、徐々に連携が噛み合い始める。
「私が囮になるから、その間に敵を狙って!」
「了解!」
結菜の動きが敵の注意を引きつける間に、俺は狙いを定めて発砲する。
その作戦が見事に成功し、敵を一掃することができた。
試合終了後、画面には「勝利」の文字が表示された。
「やった……!」
「うん、いい連携だったね」
結菜の声に、俺は思わず笑みを浮かべた。
本戦への進出
予選を無事に突破し、本戦への切符を手にした俺たち。
画面には「次の試合まで休憩時間」の表示が出ていた。
「悠斗、本当にいい動きだったよ」
結菜がヘッドセット越しにそう言うと、俺は少し照れくさくなりながら答えた。
「いや、結菜のおかげだろ。指示が的確だったし」
「でも、あなたがあの場面で動けなかったら勝てなかった。だから、私たちの力だよ」
その言葉に、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
次の挑戦へ
次の試合に向けて、俺たちは再び作戦を練り直した。
緊張と期待――そのどちらも抱きながら、画面に表示されたカウントダウンを見つめる。
「次の試合開始まで10秒」
「行こうか」
「うん。一緒に勝とう」
彼女の声に背中を押され、俺は再び画面に集中した。
13. 大会本戦と新たな試練
本戦初戦:強敵との遭遇
本戦初戦のマッチングが完了し、画面に対戦相手の名前が表示された。
その中に見覚えのある名前が一つ――
「……あれ、これって……」
「全国ランキング4位のチームだね」
結菜が冷静な声で答える。
「マジかよ……いきなりそんな強敵と当たるのか?」
思わず声が震えた。これまで練習してきたとはいえ、ランキング上位のプレイヤーとの戦いは未知の領域だ。
「大丈夫。練習通りやれば勝てるよ」
結菜の落ち着いた声に背中を押され、俺は深く息を吸った。
「分かった……やるしかないな」
試合開始:相手の圧倒的な実力
マップは市街地――建物が密集し、狭い路地が入り組んだ場所だ。
「まずは慎重に動こう。敵がどこにいるか見極めて」
「了解!」
結菜の指示に従いながら、俺たちはゆっくりとマップを進む。
だが、敵の動きは予想以上に早かった。
パンッ!
背後から銃声が響き、俺が振り返る前に画面には「撃たれた」の文字が表示される。
「くそっ……!」
「大丈夫。次の動きで挽回しよう」
結菜の冷静な声に助けられながら、リスポーン地点に戻る。だが、その後も敵の巧妙な動きに翻弄され、こちらのスコアは次第に差を広げられていった。
ピンチの中のひらめき
「このままじゃ……ダメだ」
スコア差が圧倒的になりかけたその時、ふとあるアイデアが頭をよぎった。
「結菜、ちょっと提案なんだけど」
「何?」
「次のエリアで一気に攻めよう。俺が囮になるから、その間に裏を取ってくれ」
結菜は一瞬迷ったようだったが、すぐに「分かった」と答えた。
「でも、無理はしないでね」
「大丈夫。任せてくれ」
俺は意を決して敵の正面に飛び出し、彼らの注意を引きつける。
その隙に、結菜が背後から確実に敵を仕留めていく。
反撃と勝利
「いける……!このまま巻き返そう!」
結菜の指示のもと、俺たちはスコアを少しずつ取り返していく。
そして、試合終了のカウントダウンが始まる中で、ついに逆転の一撃を決めることができた。
「勝利」
画面に表示されたその文字に、思わずガッツポーズを取った。
「やった……!本当に勝った!」
「うん。ナイス連携だったね」
結菜の声にも、少しだけ興奮が混じっているのが分かった。
次の試合に向けて
「でも、次はもっと強い相手が出てくるかもしれないね」
休憩時間に、結菜がふとそんなことを口にした。
「そうだな。でも、俺たちならやれる」
「……頼もしくなったね、悠斗」
結菜がそう言って笑うと、胸が少しだけ温かくなるのを感じた。
「それに、これが終わったら……現実でも何かやりたいなって思ってる」
「現実で?」
「ああ。まだ具体的には決めてないけど……ずっとゲームだけしてるわけにもいかないし」
その言葉に、結菜は少し考え込むような表情を見せた。
「……そっか。それなら、私も何か手伝うよ」
「頼りにしてる」
次の試合までのカウントダウンが始まる中、俺たちは再び集中を高めていった。
14. 大会決勝戦:最強のライバル
決勝戦に向けた準備
「ついに決勝か……」
試合前の休憩時間、俺は椅子に深く腰掛け、スマホを見つめていた。
画面に表示される「決勝進出」の文字が重くのしかかるように感じる。
「大丈夫。ここまで来れたんだから、自信持って」
結菜の声がヘッドセット越しに届く。彼女の落ち着いた声が、緊張で硬くなった俺の肩をほぐしてくれるようだった。
「そうだな……結菜と一緒ならやれる気がする」
「もちろんだよ。私たちのチームを信じて」
彼女の言葉に背中を押され、俺は画面に表示された「準備完了」のボタンを押した。
相手はランキング1位チーム
決勝戦の対戦相手が発表される。
画面に映し出されたのは、誰もが知る強豪――全国ランキング1位のチームだった。
「……マジかよ」
思わず息を呑む。彼らのプレイは動画サイトで何度も見たことがある。圧倒的な連携力と技術で相手をねじ伏せる姿は、他の追随を許さない。
「でも、怖気づいてる暇はないよ」
結菜が静かに言う。
「彼らだって人間だし、私たちがこれまでやってきたことを信じれば、勝てるチャンスはある」
「……分かった。やるだけやってみる」
深く息を吸い、俺は再び集中を高める。
決勝戦スタート
マップは砂漠の要塞――遮蔽物が少なく、戦略と技術が試される場所だ。
画面にカウントダウンが表示される中、心臓の鼓動が速くなるのを感じた。
「3……2……1……スタート!」
試合開始の合図とともに、俺たちはそれぞれのポジションに向かって動き出した。
「悠斗、まずは中央の遮蔽物を抑えて。私は左側から敵を狙う」
「了解!」
彼女の指示に従いながら、慎重に動きを進める。
だが、敵の動きは予想以上に早かった。
パンッ!
銃声が響き、俺が動いた瞬間にはすでに撃たれていた。
「くそっ……!」
「大丈夫。リスポーンしてすぐに私の後ろに合流して」
結菜の冷静な声に助けられながら、俺はリスポーン地点から再びマップへと戻った。
逆転への作戦
試合が進むにつれ、相手のチームプレイの圧倒的な強さに翻弄され、スコアは次第に離されていった。
「このままじゃ、勝てない……」
思わず呟いた俺に、結菜が冷静な声で答える。
「次のエリアで奇襲を仕掛けよう。悠斗、さっきみたいに囮になって。私は敵の裏を取るから」
「分かった。でも、気をつけろよ」
「大丈夫。あなたが時間を稼いでくれれば、私が仕留める」
作戦通り、俺は敵の注意を引くために大胆に動き出した。
敵チーム全員の視線がこちらに集まる中、結菜が背後から現れ、次々と敵を撃破していく。
「ナイス!これでスコアは並んだ!」
残り時間はあと30秒――勝敗は最後の1ポイントにかかっていた。
最後の一撃
試合終了間際、俺たちは敵の最後の一人を追い詰めていた。
「悠斗、今がチャンス!」
結菜の声に応え、俺は狙いを定めて発砲した。
パンッ!
画面には「勝利」の文字が表示される。
「……やった……!」
思わず拳を握りしめた俺に、結菜が笑い声混じりに言う。
「本当に勝ったね。あなた、最高だったよ」
「いや、結菜のおかげだろ。あの作戦がなかったら無理だった」
お互いに言葉を交わしながら、試合の余韻に浸った。
現実での変化
大会が終わり、俺はふとスマホを置いて窓の外を見つめた。
結菜と一緒に勝利を手にしたことで、胸の中に新たな思いが芽生えているのを感じた。
(……ゲームだけじゃなくて、現実でも何かやりたい)
そう思った瞬間、ふいにスマホの画面が光る。結菜からのメッセージだった。
「おめでとう、悠斗。それから……次は現実でも一緒に何かやらない?」
その言葉に、俺は胸が熱くなるのを感じた。
「……ああ、やろう」
返事を打ちながら、俺は新たな一歩を踏み出そうとしている自分に気づいた。
15. 現実での再挑戦:走り出す未来
大会後の帰り道
大会の興奮も冷めやらぬまま、公園で結菜と再会した。
いつものベンチに座る彼女の表情は、どこか穏やかで満足げだった。
「改めて、お疲れさま。いい試合だったね」
「本当に。まさか優勝できるなんて思わなかった」
俺が少し照れくさそうに言うと、結菜はくすくすと笑った。
「でも、あなたの成長がなかったら無理だったよ。本当にいいチームだったね」
その言葉に、胸がじんわりと温かくなるのを感じた。
だが、同時にある思いが頭をもたげた。
「……結菜、次はゲームじゃなくて現実で挑戦しないか?」
そう言うと、彼女は少し驚いた顔をしてこちらを見た。
陸上への誘い
「現実で?」
「ああ。俺……やっぱり陸上をやり直したいんだ」
自分でも驚くほど、言葉はすらすらと出てきた。
「コロナで大会がなくなって、目標を失って……ずっと逃げてた。でも、結菜と一緒にゲームをやって、勝つために努力して……また、走りたいと思えるようになったんだ」
俺の言葉に、結菜は少し黙り込んだ。
その表情から、彼女もまた何かを考えているように見えた。
「結菜も、一緒に走らないか?」
「……私も?」
「ああ。結菜の走り、すごく綺麗だった。きっと今でも速く走れるはずだ」
彼女は少しだけ目を伏せた後、小さく笑った。
「ありがとう。でも、私は……まだ迷ってる。もう一度走る勇気がないんだ」
「そっか……でも、無理にとは言わない。もしまた走りたくなったら、いつでも声をかけてくれ」
そう言って立ち上がろうとした俺を、結菜が静かに引き止めた。
「悠斗」
「ん?」
「……ありがとう。少しだけ考えてみる」
一人での再挑戦
その日から、俺は久しぶりにグラウンドに足を運んだ。
ランニングシューズを履き、スタートラインに立つ。
「……走るの、久しぶりだな」
軽く息を吸い込み、スタートの合図を心の中でイメージする。
腕を振り、足を踏み出す――その瞬間、懐かしい感覚が全身を駆け抜けた。
(やっぱり、走るのは気持ちいい)
まだタイムは全盛期には程遠い。だが、それでも目標に向かって進む喜びを思い出すことができた。
結菜の決意
数日後、公園でまた結菜と会った。
彼女はランニングシューズを手に持ちながら、少し照れくさそうに立っていた。
「……一緒に走ってもいい?」
「もちろん!」
俺は思わず笑顔を浮かべながら答えた。
結菜もまた、目標を見つけるために一歩を踏み出そうとしているのが伝わってきた。
二人の挑戦
夕暮れのグラウンド。
並んで走り出した俺たちの背中を、赤い夕日が照らしている。
「結菜、遅れるなよ!」
「そっちこそ、ちゃんとついてきてね!」
お互いに声を掛け合いながら、全力で走る。
風を切る音が心地よく、胸の中には新たな目標への期待が膨らんでいく。
(これからも、もっと強くなれる――ゲームでも、現実でも)
そう思った瞬間、俺は自然と笑顔になっていた。
止まった世界、揺れる心 ~再び~ ことにゃ @Kotonya
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