自我の芽生えと世界の崩壊

まるで一本の映画を見ているような錯覚に陥る作品です。

舞台は近未来。AIが生活に根差し「すぎた」ために人類が職を失い、テロ行為が横行するような世界です。
中心となるのは「自我」を獲得したヒューマノイドになりますが、彼らの苦悩や猜疑心、自己探究が非常にわかりやすく精緻に描かれます。
何を以て「自我」と呼ぶのか。
「自己」を確立するものは何なのか。
植え付けられた「記憶」は自分のもの足り得るのか。
ヒューマノイドは故人や愛する存在の「代替」になれるのか。
これはAI技術が進む現代に生きる私たちにとっても興味深いテーマです。

一番面白く感じられたのは、この作品の視点主であるオルドが他者との繋がりを必要だと感じている点です。
これは人が言語を用いてコミュニケーションを図る生き物である観点からすると、正しく「人」らしさだと言えるでしょう。

今後どのように続いていくのか楽しみな作品です。
初めは用語やあらすじで読むのを躊躇う人もいるかもしれませんが、むしろ読まなければもったいないほどに一貫したテーマのもと書かれている作品です。
ぜひ一度読んでみてください。

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