3話 残酷野営地
天然の恵みをしっかりと味わったあと、プレートキャリアや武器を装備して探索を再開した。
清潔な透明の川で身を洗浄したからか、足や腕が軽くなったように感じる。移動が捗る。
上機嫌な気持ちを覚えつつも警戒心を引き締めて進んでいると、人間の手によって切り拓かれた野営地を発見した。白いテントがいくつも設置されており、炊事の時に使う釜戸や焚き火の跡も見受けられた。また調理の際に出たであろう動物の骨や果物の皮が深い堀に投棄されているのも確認できた。
これだけ生活の痕跡が残されていたら人間と出会いそうな気がするが、人は誰一人として現れなかった。それどころか、そもそも人間の気配すらない。
失礼を承知して営内に邪魔すると、身近にあったテントの様子を確認してみる事に。
入る前に一応、声を掛けてみたが、
「うーん、無しか」
これが当たり前かの如く、返事はなかった。
外と内部を仕切っている垂れ幕を上へ押しのけると、テント内に嫌悪と恐怖を植え付けられる凄惨な光景が漂っていた。
壁と土の床を赤く染め上げる鮮血。
廃棄される段ボールみたく雑に積み重ねられた人間の数多の死体。
それらを殺害するために用いられたとみられる血がべっとりと付着した斧や刀剣。
砲撃や機銃の掃射で手足や頭が欠如した兵士の死体を見た事があるが、眼前に広がるその光景はそれよりも残酷だ。
これ以上ここに留まっておくと嘔吐しそうだと、逃げるようにしてテントを後にした。
「全く、気持ち悪いモン見たな」
いや、正確には気持ち悪いではなくて胸糞が悪いと言った方が正しいだろう。あの死体はどこからどう見ても、無抵抗の人間だ。そんなか弱い丸腰の人達を虐殺できるなんて、ロシア以上の鬼畜だ。
吐き気を催したが上がって来る酸っぱいものを何とか我慢し、営内をさらに調べた。
端にある堀に向かうと、そこで興味深いものを見つけた。
それは古風な鎧と剣だ。そういえば、さっきの惨殺テントにも中世の騎士が持っていそうな刃物類が大量にあった。
「変なやつらだな」
堀から泥や血でまみれた兜を取って感想を呟く。
ボスホートルーシの正規軍はきちんとした装備を整えているが、俺みたいな便衣兵やパルチザンには武器が行き届いておらず、財力が貧しい者はマキシム機関銃やモシンナガンなどで戦闘に参加している。だが、流石に甲冑を着て剣片手に戦う奴は居ない。仮に居るとしたら、ソイツは時代劇の役者だ。銃弾が飛び交う戦場で刃物など、自殺行為でしかない。
ちなみに、俺のこの武器や装備は知り合いの退役軍人から譲り受けたものだ。
調査できる限りでの範囲を調べ終えると、次は営内の反対側にある森に進んで行った。
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※この小説はフィクションであり、実在の国家や組織、人物とは一切関係ございません。また、特定の思想を支持、礼賛する意図もありません。
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