第10話~ヴォイドホール~

バーンズは2頭を斧で抑え込みながら考えていた。

単純な力のみで言えば1頭を抑えるので精いっぱいだが、スキル<剛力>のおかげで力負けをしない。

しかしスドウはそうはいかない。おそらく自分と同等か少し弱い程度の筋力があるようだがスキルが使えない。

この戦闘に巻き込むでべきか悩んでいたが本人の意思と、そして何より彼ら異世界人がどこまでできるのかということが知りたかった。

(まずはワシがフォローできるようにしないとな)

バーンズは左腕に力を込め片腕のみで斧を支える。イービルウルフに押し負けそうになるが気合と根性で耐えながら。右手で自分の斧を殴った。

「ぐぬぬぬ……うおおお!スキル<豪衝拳>!!」

拳が細かく振動する。殴りつけた斧はその衝撃を受け、激しい衝撃波を放った。

斧に噛みつき爪を立てて押し込もうとしていたイービルウルフはその衝撃で大きく怯む。

「スキル<豪破砕>ぃいいい!!!」

怯んだ2頭をまとめて薙ぎ払う。1頭は両断され切断部分から破裂するようにはち切れる。

しかしボスであろう大型のイービルウルフは分厚い毛皮と先に切断された仲間にて衝撃に耐える。

しかし薙ぎ払う力そのままに斧を振り払い投げ飛ばす。肩もとに食い込んだ斧はイービルウルフから離れることなく、吹き飛ばされた先で斧が深く刺さり絶命していた。

さて、スドウとグウィルはと思い振り返るとグウィルはすでに三頭を相手にして完勝していた。

そう。スドウとの一騎打ちでは一切スキルを使わずに生身の力のみで戦ったグウィルはつまるところハンデを背負っていたのと同じだ。

普段からスキルを使い己の限界を超えた技や力で戦う冒険者にとって、スキルなしでの一騎打ちなど普段ではありえない戦い方ではある。

それでもあれほどの技量を見せるグウェルがスキルを使うと、当然のように一瞬で3頭の眉間を槍で貫いていた。あまりにも早い。

グウィルはこちらに気づくと軽く手を上げ合図を送り、そのままスドウの様子を見ていた。


生身かつ魔物と戦うのが始めてのスドウ。

その戦い方は泥臭く、距離を取り、隙を狙い、アルフィンとオリアナの援護を受けながら傷つきつつ戦っている。

だが恐れを知らないその姿は、これからさらに大きく成長するのであろうことを証明しているようであった。

スドウは傷を負いながらもなんとか勝利を掴んで、こちらを見る。

ワシとグウェンと目が合い、驚いたように目を丸めていた。かなり面白い不意を食らった顔だった。

「んだよ、俺が最後か?大ボスは?」

「ワシがぶっ飛ばしておいた、ほらあそこよあそこ」

親指で示した先に転がっているイービルエビルの死骸。

それを見たスドウは大きなため息をつきならがやれやれといった様子で肩を竦める。

「スキルだのなんだの。俺も早く使えるようにならなきゃな。グウィンと俺の差もそういうものを含めるとすげえデカそうだ」

「まァ生身一つで俺をぶん殴ったのァお前が初めてだから安心して誇っていいぜェ」

「いつかスキル込みでもぶっ飛ばす」

「ハっ。期待してるぜェ?」

二人はどこか楽しそうににらみ合う。グウィルにとってもいい刺激になる存在があらわれたわけだ。

バーンズはその二人を見て微笑ましそうに目を細めた。

辺境の町ベルバット。冒険者としてその街でバーンズよりも力のある者はいない。

自分よりも優れた冒険者はいるが、純粋な力比べが出来るというのは少しうらやましいものだと思い、その光景が少し眩しく見えたのだった。

「さあお主ら、馬車に戻るぞ。イービルウルフの爪、牙、耳を回収だ」

「毛皮とか取らねえのか?」

スドウが素朴な質問をする。確かに普通に考えたら毛皮なども使えるのだろう。

だが、その地に本来存在しない魔物の多くは死したのちその大部分が闇となって消えてしまうのだ。僅かな痕跡のみしか回収ができない。

毛皮を取った場合はその大半が消え去ってしまう。

そのことを説明するとスドウは不思議そうにした。

「普段、その地に存在しないってのはどういうことだ?」

「見慣れない魔物が最近増えていてな、目撃情報が多発している。生息地の変化かとも思って色々調べているが今のところその全てが闇に消え去っていくのだ。つまり、どこかにヴォイドホールまたはヴォイドゲートがあるということになる」

ヴォイドホール。そしてゲート。世界の裂け目の先、魔界と呼ばれる世界と地表とを繋ぐ穴。ホールは人が通ることはできず、大型の魔物が通ると魔素を消費して消えるのに対して、ゲートは人すら行き来できるほどのサイズが報告されている。

このヴォイドゲートに飲み込まれて人が行方不明になった事例や、大型の魔物が何体も通り抜けてきて都市を滅ぼした事例もある。今回の規模ならばおそらくヴォイドホールがどこかにあり、ホールを形成する魔素を使い切るまで魔物を吐き出し続けているのだろう。

食い殺された一家の遺体に目を落とす。

不意を突くように襲われたとすればここからそう遠くない場所にホールがある可能性がある。しかし周りを見渡しても草原と雑木林が広がっている。少し奥まで行けば小さな森林に入ってしまう。

「こらァ、町に行って冒険者ギルドに報告するしかねェな」

「うむ、そうと決まれば早く戻ろう」

日が暮れるにはまだ時間があるが、急がなければならない。

町はもうすぐそこ。つまり町への被害が出る可能性もあれば、こうして巻き込まれる人もいるということだ。


バーンズは、亡くなった一家の遺体から遺品になりそうなものを探す。

恐らく母親のものだろうか、残された腕から指輪を取る。これだけでもあの少女に渡してやらねば。

「無念であろうが、どうか安らかに女神の元へ召されたまへ」

バーンズは小さく祈り、遠くで手を振るアルフィンとオリアナの元へと戻るのであった。

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でこぼこ異世界冒険譚〜遠くかけ離れた僕らの旅〜 ダラスクダラ @wtr_nara

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