第12話 博物館


 がれきに囲まれた石畳の上で、黒い炎だけがゆらゆらと揺れていた。

手の中にある、溶けかけた銀の髪飾りを握りしめて、僕は目の前の人物を見上げた。

「君も、あの子を大切に思ってくれていたんだね」

彼は言った。その声は優しくて、でもとても弱弱しく聞こえた。


降りだした雨の中で、黒い炎はいつまでも消えずに揺らめいている。

彼の腕の中には、焼け焦げた誰かの体があった。それが誰だか分かっているのに、分かりたくなかった。

だから、名前は呼ばなかった。認めなければ、また僕に笑いかけてくれるような気がした。

自分が泣いているのか、ただ雨が頬を伝っているだけなのか、分からない。


彼は言った。


「一緒に行こう、『博物館』へ」


「博物館」はとても広くて、僕は何度も迷子になりかけた。そこには様々な動くものたちがいたけれど、どれも今まで見たことのない姿をしていた。最初は怖かったけど、彼が仲間だと言ってくれたから、平気になった。

彼は僕に色々なことを教えてくれた。魔術師のこと、魔獣のこと、失われた王朝のこと。知っていることが増えるにつれて、「あの人」がいない寂しさはまぎれるようになった。

でも、彼が泣いているのを時々見た。きっと彼も寂しかったんだろう。そんな彼を見て、僕は言った。

「僕に何かできることはあるかな?」

彼は言った。それは、

……。

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ぬいぐるみ博物館へようこそ 沼野まぬる @numanomanuru

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