第14話 隠された隙

『東二局 二本場 親:額に傷がある男』

卓上を支配するのは、額に傷がある男の無駄のない打ち筋と冷静な態度だった。

連荘を続ける彼の姿に、他の三人は完全に動きを封じられている。

張もその一人だったが、心中で次の一局こそ突破口を見出す決意を固めていた。

だが、そんな決意とは裏腹に全くと言っていいほ突破の糸口が見つからない。

正直、今まで戦ってきた中で一番強いとも思える。


親が賽を振り、配牌が配られる。

配られた牌を見て、張は眉をひそめた。

悪くない。

だが、簡単に和了らせてはもらえなえなさそうだ。

手元には萬子と筒子、索子が混じり字牌がないバランスのいい配牌。

三色と平和を狙えそうだ。

だが、親である額に傷がある男の存在がその思考を一気に重くする。


張は今までの親の打ち筋を思い出す。

『東二局 0本場 一発』

『東二局 1本場 鳴きが入りながらもほぼ一発』

やはり、何かがおかしい。

まるで、牌が透けて見えてるとしか思えない。

イカサマを使ったような形跡もない。

視線を親に移すと、何やら他の場所に視線を移していた。

その場所は『山牌』だった。

おそらく、こいつには“見えている“はずだ。

ここで張の疑いが確信に変わった。


どのような方法で見えているのかはわからない。

瞬間記憶なのか、牌の模様で記憶しているのか、本当に透けて見えているのか。

とにかく、やっとネタが割れたわけだ。

『ここから攻めに転じる…!』

張は打ち筋を変え、超攻撃型に変えることにした。


配牌から数巡が過ぎる。

時間が進む中、卓上は異様な静けさに包まれていた。

額に傷がある男は淡々と牌を切り続けている。

その河には特徴がなく、意図が全く読めない。

そりゃあわからないはずだ。

おそらく、同卓者の二人も気づいていないだろう。


そう思い、同卓者に視線を移す。

短髪の男は早々に中張牌を捨て始めていた。

投げやりなのか、これがあいつの作戦なのかはわからない。

どっちにしろ、ネタは分かっていないだろう。


短髪の男は慎重に手を進めているようだった。

特徴は見当たらない河だ。

だが、そんな消極的な打ち方では到底勝てないだろう。

こいつも、ネタは分かっていない動きだ。


この局は張と親の一対一と言っても過言ではないだろう。

おそらく、親もそう感じているだろう。

親は張の手牌を凝視している。

気迫が段違いだ。

この気迫だ。

おそらく、牌を記憶している観点からも、イカサマを使うのは難しいだろう。

だが、使っていかないとこの規格外の力には到底勝てないだろう。

そう感じながら、山からツモってきた牌を河に置く。


河が一列目の終わりを迎えようとしてる。

『二向聴』

三色が狙える形だが、まだ完成には程遠い。

未だ親の視線は張から離れることはない。

だが、一瞬だけ視線が離れる瞬間があることを感じていた。

それは、親のツモ番時。

1秒もない時間だが、張にとっては十分すぎる時間だ。


そして、親のツモ番がやってきた。

『くるっ…!』

 親が山に手を伸ばす。

「こつっ」

牌同士がぶつかる音が鼓膜を刺激する。

『今だっ!』

 張は事前に不要牌を左に寄せており、山を前方に移動させるフリをして、左手に仕込んだ牌と自分が積んだ山の右の牌を交換する。

その所作は大胆だが、それでいて静けさもあった。

音もなく交換することに成功した。

『行けたか…?』

張は親の方に視線を移動させる。

「ふっ…」

張の耳にだけ、乾いた笑いが聞こえてくる。

おそらく、バレている。

だが、張はそれを込みで考えていた。

山が見えているやつに対して牌を交換したら、そりゃあわかるに決まっている。

だが、ここで張に対してのイカサマを指摘したら、自分の黙牌も同卓者に知らせることと同意義になる。

とりあえず、これで三色の一向聴になった。

また親のツモ番でイカサマを使うことができれば、聴牌できる。


数十秒が経過し、また親のツモ番がやってくる。

『ここで決まれば…!』

 親がまた視線を外す。

そのまま張はまた入れ替えを使う。

これで聴牌ができた。

『断么九 三色同順 ドラドラ カン七索待ち』

 河にはすでに筋である四索が出ている。

立直をかけるかは悩みどころである。

そうこうしているうちに、張のツモ番がやってくる。

持ってきた牌は八索。

『どうするか…』

張は他家の河を見る。

問題はなさそうではある。

『行くか…』

「立直」

張は立直をかけた。

卓上には張の声だけが聞こえる。

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2025年1月11日 08:00

天鬼 〜神に魅入られた者達〜 百瀬三月 @momosemituki

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