かごめ かごめ
Ryu
ターゲット1
もうこの世界に辟易としていた。
もうどうでもよかった。
何かあった訳じゃない、別に誰にも虐められてないし、殴られてもないし、家族に冷たくもされてない。ただ、なにもかもがどうでもよかった。
傍から見れば、きっと私は幸せに暮らしている人間だと思う。悲劇のヒロインとかでも、最近流行りの何もしてないのに悪者にされた悪役令嬢でもない、ただ変哲のない生活を毎日送るモブだ。悲劇のヒロインも、悪役令嬢も役割があって、それに応じて本人の人生が左右される。
でも、モブは??村人Aは??
スポットライトが当たることもないし、モブが何かをやろうが、名前のあるモブに負けてしまうし、ヒロインや悪役令嬢になんも影響を与えない。
モブが何をしようが、何を行おうが本編のストーリーにはなんの影響もない。
こう言ってるからと言って、今私は流行りの異世界転生とかをした訳ではない。
誰かが、『誰もが自分の人生の主人公だ』とか言っていた。本当にそうだろうか。
私は私の人生の主人公だったと胸を張って言えない。自分の人生でどの場面を切り取っても、その時の主役、1番輝いていたのは自分ではない誰かだ。何をしても「あの人の方がよかったな」って思うし、自分の中で印象に残ってるのも「あの時の自分はこうだった」ではなくて、「あの時の𓏸𓏸さん凄かったな」である。その時自分は何してたっけと考えてみても思い出せない。自分すらも、自分を覚えていない。自分の人生においても、私は村人Aでしかなかったのだ。
誰かの人生ではそう言えばそんな人いたな、でいていい。自分が分かっていればいい、というけれど、私は、自分の人生の中でも、「そう言えばそういう人いたな」の人なのだ。
そんな人間、いてもいなくても変わらない。
だから、私は今日この廃校であり、母校でもある学校の上で死ぬ。
もうこんな人生なくたっていい。
来世は、ヒロインじゃなくてもいいから、スポットライトが当たるような人生がいいな。
「おねえちゃん、しんじゃうの?」
背後から、まだ拙い声が聞こえた。
振り返れば子供がいた。女の子だ。制服を着ている。どこの学校の子だろうか。なぜこんな時間にここにいるのだろうか。
思いもしない急な登場人物に私の思考は交錯する。
今の時間は昼の13時。今日は平日。
この時間、基本みんな学校に通うか、会社に出勤している。人通りは少なくなるし、止める人もいなくなる。だからこそ、学校を休んで、今日死のうとしたのだ。
なのに、この子はなぜここに?
「学校は、どうしたの?」
混乱する頭から、漸く絞り出した語彙を必死に紡ぐ。まだ今日は誰とも会話していない。そんな状態で急に声を出した為、私の声は掠れていた。
私の質問に女の子は首を傾げて、「何を言っているのか」という表情をしている。
「がっこう?ここだよ?」
「え、でも、ここは廃校になったんだよ?」
「はいこう…?はいこうってなあに?」
ここは、3年前廃校になった私も通っていた小学校だ。何故急に廃校になったかは分からないが、廃校が決まり、3年しか経っていないのに、まるで何十年前に廃校になったかのように錆びれている。
「そんなことより、おねえちゃんしんじゃうの?」
その話飽きたとでも言うように、話を変える女の子。
子供だからか大人だったら聞きづらくて、濁す言葉をズバリと言う。
「死ぬのか?」それをストレートに聞かれて、動揺した私は言葉を紡ぐ。
どう言おうか、最適な答えを必死に探して、分からず、聞こえるかも分からない大きさで「うん」と女の子に返す。
「なんで?どうしてしんじゃうの?」
子供は怖い。何の気なしに、ずかずかと人の心に入り込む。
今度こそなんて言えばいいか分からなくて、答えを濁してしまう。
「わから、ない……」
「そっかぁ……」と女の子は漏らす。
すると、いい事が思いついたというようにぱあっと顔を明るくさせて言う。
「そんなおねえちゃんにおすすめがあるよ!」
「おすすめ?」
「こんなとこから落ちるよりも楽しいこと!それはね___」
そう言って、どこかのテレビ番組で学んだのかドラムロールの音を真似して焦らしてくる。
「わたしたちとあそぶことだよ!」
「……え?」
「じつはいまみんなであそんでるんだ!なんにんであそんでもたのしいから、おねえちゃんもいっしょにあそぼ!」
この子なりに慰めてくれているのだろうか。
子供に死について分かるのかと思っていたけど、思えば私もこの子の年齢の時、脳内は随分と大人びていたし、今より頭がよかったのではないかと思う程にちゃんと考えも組めていた。
慰め方が一緒に遊ぶことというのは、子供らしいけど、その子供らしさに充てられて、気づけば私は屋上の縁から降りて女の子のいる方へ近づいていた。
屋上から下って、校庭へ出ると女の子と遊んでいたのであろう子達が揃っていた。
グループのリーダーらしき男の子は文句を垂れながら女の子を迎えた。
「おせーよー!!どこいってたんだよー」
「おくじょういってた!そしたら、このおねえちゃんとあったんだよ!」
自然に私を紹介し、私を子供たちの輪に入れるよう誘導していた。リーダーの子は、一瞬なぜか複雑そうな顔をしたが、直ぐに私を輪に入れることを承諾してくれて、他の子たちも歓迎してくれた。
それから、わたしたちは鬼ごっこや、かくれんぼ、教室に入ってトランプゲームと色んな遊びをした。
死にたいと思う気持ちも忘れてしまうくらい楽しかった。人生で1番楽しい一時だったと言っても過言ではない。
ポケットに入れたスマホを取り出して、時間を確認すると時刻はもう17時半だった。ついでに、お母さんからの連絡の通知も見え、私が今日無断で学校を休んでいたことがバレていた。
それでも、なんだか良かった。
少し前なら、どうせ死ぬからどうでもいいと思っていたけれど、今はこれで帰って怒られたとしてもいいなと思えていた。
生きるということに前向きになっていた。
今を全力で楽しむ子供たちと一緒に遊んだことで、私はいつのまにか明るくなっていた。
「……ありがとう」
「なにが〜?」
無意識に私をこの輪に誘ってくれた女の子にお礼をこぼしていたらしい。ちゃんとその声を聞いていた女の子はなんのことだと聞き返してくれる。
「ここに誘ってくれてありがとう」
「どういたしまして!じゃあ、次はなにであそぶ??」
子供の体力は無限だ。こんなに何時間遊んでいても、まだ遊ぶ体力がある。
リーダーの子が女の子の言葉に真剣に返す。
「なにいってんだ、そろそろ時間だろ」
「あ、そっか」
そろそろ時間という言葉に女の子はシュンとする。さすがに小学生、もう帰る時間だもんな、と私も納得する。
ランドセルを背負って、校庭へと飛び出していく子供たちに合わせて追いかける。校庭へ駆けていく子が多い中、ゆっくりと向かう女の子に寄り添って、昇降口を出ると、子供たちは校門から出ないで、私と女の子を待っていた。
【トンッ】
いつのまにか私の後ろに回っていた女の子が私の背中を押す。
子供なりに少し強めに押したようで、結構な力が私にかかり、すこし体勢を崩してしまう。
リーダーの子が体勢を崩しよろけた私を受け止め、しゃがむように指示する。
「帰らないの?」
「かえるけど、さいごのあそびするの!」
ルーティンのようなものなのか、最後は絶対にこれ、という遊びが子供たちの中にあるのだなと普通に受け入れ、そのまましゃがむ。
「じゃあいくよー!おねえちゃんは目とじてね」
そう促され、目を瞑る。
最後閉じる瞬間目の前にいたリーダーの子は、哀しそうな表情をしていた。
『かーごめかごめ、かーごのなーかのとーりーは、いついつでーやーる、よあけのばんに
つーるとかーめがすべった 』
『うしろのしょうめんだーあれ』
かごめかごめか、と理解した時、私の意識はなくなっていた。
『だぁれだ』【だぁ〜れだ】
﹍ ﹍
「続いてのニュースです。本日午後18時頃、𓏸𓏸県𓏸𓏸市にある旧△△小学にて女性の遺体が発見されました。警察によりますと、年齢は10代前半から後半、□□高等学校の制服から女子高生であるとのことです。しかし、遺体は激しく損傷しており、現在も身元調査中です。続_____」
かごめ かごめ Ryu @Ryu9jo
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