第5話 隠れ鬼

夢をみた。


私がいた。


眼の前にいるのも私でそれを見ているのも私であった。


口が大きかった。


私の身長より大きい口だった。


その大きな口の前に誰かがいた。


彼女だった。


彼女は、何故か着ていた着物を口の中で脱いで入り込んだ。


私は、動いていない。


私も中にはいった。


奥深い洞穴のようだった。


私は歩く。


真っ直ぐ真っ暗な道…私の中を歩く。


さっき入ったはずの彼女は見えてこない。


私は歩く…歩く…歩く…歩く…歩く…。


歩いていると大きく広い部屋についた。


何か水のようなものが部屋半分に溢れていた。


何か浮かんでいる。


骨だ。


骨が浮かんでいる。


何故かその時は何の骨か認識できた。


鳥の骨、牛の骨、馬の骨、豚の骨、魚の骨そして…人の骨…。


これは私が、今まで食べた動物の骨か…。


全部私の中で溶け、私の一部になったものばかりだ。


ぷかぷかと浮かんでおり、骨共の烏合の衆だ。

私はその中を歩く。


部屋半分溢れている水を何事もないように入り込む。


ずっと歩いてる。


ずっと。


ずっと。


ずっと…。


そしていつの間にか部屋の後ろ側に着いた。


人影がある。


この部屋の半分の大きさのある影だ。


彼女だ。


頭の無い彼女が部屋の角で正座をしてこちらに身体を向けていた。


首は無いがこちらを見ている視線を感じ、何故か高揚感に身体が熱くなっている。


夢なのに、感覚がある。


彼女は何かを待っているかのように此方を向いていた。


多分、頭を待っているのだろう。


まだ部屋に置いてあるあの首を。


だがまだ食べることは出来ない。


まだ肉が残っているから。


骨も残っている。

全部食べるまではまだ頭を食べることは出来ない。



あの瞳をまだ失うわけにはいかない。


だから私は多分、顔の眉のシワを寄せ口を少し尖らせ申し訳ない気持ちを表していたと思う。


彼女は何も言わない、ただ身体をこちらに向けている。


部屋の中の水が揺らいで周りの骨が彼女に集まっていく。


彼女の頭のない首の所がどんどん大きくなり中にある骨や水を吸い続けている。


異質だが私は気が和らいでいた。


あぁ…、彼女派私と一つになろうとしている…私が食べたものを共有している…そして、私も中に入っていく。


吸い寄せられた私の身体は彼女の首まで吸い寄せられ、彼女の身体を見ることが出来た。


首の下は暗い暗いまるで洞穴のような暗闇が一面に見えた。


目が暗闇に慣れ、奥に何か物体があるのに気づいた。


顔があった。


私の顔が私を覗いていた。


私を私が私を見ている映像を私が見ている…。


彼女も私を食べていた。


安心する…これでまた私と彼女は一つになっているのを安心した…。

  




そして、起きた。


気持ちの良い目覚めだった。


隣にある彼女の下半身に「おはよう」と言いながら起きた。


私は眼鏡を付けながら、ベッドから起き、顔を洗いに行った。


洗面所に向かい、付けた眼鏡を外し顔を水で顔を洗った。


顔を洗いながら私は、夢のことを思い出していた。


明晰夢ではなかったと思うが内容は鮮明に憶えてる

しなんか自動的に自分に合っている行動をしていたと思う。


彼女が私の中に、私が彼女中にいたことが嬉しかった。


今までこんな感情を起きたことはなかった。


やはり食べたからか。


食べたから彼女も中に入ることが出来て、私が食べたものを彼女が食べている…。


顔を洗い終え、朝ごはんの準備にはキッチンに向かった。


冷蔵庫から卵、ピーマン、パプリカ、玉ねぎ、生姜、そして…彼女。


赤く繊維がとても綺麗でまるで彼女が目の前にいるような感覚になる。


先にお肉を炒める。


生姜を加え塩コショウをしある程度焼けたら一度取り出して次に野菜を入れる。


軽く炒めていい感じに焼色がついたら彼女を入れてゆっくりと時間をかけて炒める。


再び塩コショウを入れ再びかき混ぜる。


味見をすると美味ではないが食べれられる味になったのでそのまま皿に盛り付ける。


そしてそのまま、彼女の脂のついたフライパンにバターをいれ、溶け出した辺りで卵を入れ軽くかき混ぜる。 


本当は、フライパンを一度洗った方が良いのだか彼女の脂を取り入れたいのでそのまま使うことにした。


良い具合の固さになったので皿に盛り付ける。


彼女の野菜炒めと彼女の脂のスクランブルエッグが出来た。


折角出し彼女に働いてるところを見てもらおうと弁当を作ることにした。


長方形の弁当箱にご飯を半分入れ、もう半分に彼女を入れた。


彼女は嬉しそうだった。


私はリビングに行き、テーブルの真ん中にある彼女の頭に「おはよう。」と挨拶してご飯を並べる。

私は彼女と「いただきます。」と言った後、ご飯と彼女を食べる。


美味しさは相変わらずわからないが彼女が彼女を食べている私を見ているのを見て、私は気持ちよく食べれることが出来た。


食べ終え、彼女と「ご馳走様」といった後に皿を台所に置いて仕事服を着来て、彼女に「行ってきます。」と言い外に出る。


私の家は5階建てのアパートで5階に住んでいる。


何故ここにしたかは分からないけどなんか上に人がいるというのが嫌だったのだと思う。


もっと理由があった気はするけど…。


下に行くのは大変だが運動にもなるしなんか下に行くのが私が、地獄に落ちるのを毎日経験するようで心が落ち着くのだ。


下に向かうとアパートに住んでる人に会い軽く挨拶もする。


嫌々ながらしなければいけないからほんとは一軒家に住みたいとも思ったがここの部屋の広さが丁度良く感じたので未だに住んでいる。


階段で下に降りたあとアパートの外見を改めてみる。


本来は白かった筈であろう壁の色が定年劣化で黒や灰色や茶色になってる。


私は早く白い部分がなくなればいいのに。

白は人を居安くさせるから嫌いだ。


濃い色は寄ってくる人が限られるから好きだ。


偏見だとは思うが私がその一人だから仕方ない。

そう思いながら会社に行く。


私は彼女と一緒に歩いているような感覚を身体の奥から感じながら、ただ道を歩くのだった。













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形知らずの鬼 物部探偵シリーズ 銀満ノ錦平 @ginnmani

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