第4話 金物屋
頭の中で昨日のことが蠢いてるというか這ってる感触が起きて背筋が立つ。
物理的ではなく心理的なのは分かっている。
昨日の電話の内容が衝撃的だったのと奥底にしまっていた思い出を無理矢理引っ張り出されそれが宙に漂っていたものと2つが脳という地に着いたと安堵していたら今度は足が生えたか如く這い始めたのだ。
もう朝起きてずっとこの調子だ。
あの葬式で異質だった着物の少女…紅くユリの花模様…仮面を被ったかのようなあの無表情の顔…そしてあの瞳…綺麗だったのは憶えているが色は…ここで記憶がどうしても途切れてしまう。
瞳の記憶ででそうなるということは何か衝撃的なものだったのか…。
たが自分は外国人以外で瞳が黒以外の日本人なんて見たこと無い。
いや、実際に存在するわけじゃないとかでなく最低でも自分がこの目で見たことはないということだ。
テレビや雑誌などではたまにみる。
ただそれを見ても綺麗だなあとか瞳の構造ってどうなってるんだくらいの感想でしか無い。
ならなぜあの娘の…やとこさん…の瞳だけ記憶の壁…壁ではない…この感じは虫…虫が呻きながら覆いかぶさっている…。
本当に嫌な感覚である。
しかし頼まれた…という言葉が適切かどうかは首を傾げてしまうが折角お金も貰えるなら足を動かしてもよいかと思い、どう行動するか考えながら支度することにした。
しかしほんと親戚と謳ってはいるが遠い上にそれは
もう他人である。
しかもそこのほぼ同い年のお嬢様をあなた達を盾にして探してくれなんておかしいし頼んでる側も頭を下げてるというより天井突き抜けて見下しながら頼んでる感じがしてモヤッとはする。
しかもその足元に札束が置いてありここに金があるから探し出せたら持っていけ…そりゃ良い気はしない。
そんな相手の娘さんを探す…。
先ずは周りを探してみようと外に出る。
うちのアパートは5階建ての各階に4部屋ずつあり自分はその3階の左から2番目の部屋に住んでいる。
階段を一々下るのは面倒くさいが運動してると思えばと心で言い聞かている。
降りたあと改めて外観を見る。
なんとも平凡というか言葉通りに色が無い…が意外と気に入って入る。
白は嫌いではない。
真っ白さを見ていると何か自分の心の色の鏡写しかの如く反射しているんだと勘違いをしてしまう。
…そう、勘違いなのだ。
だがその勘違いでなんとか心の淀みが薄くなったままに感じるのだ。
ただ白いものはどうしても汚れてしまう。
もちろんこのアパートも汚れている。
しかし汚れてる中に少し白いところがある。
そこを自分に見た立てる。
汚れの中に唯一白い自分がいるという世界の中心に唯一の自分を感じる…感じるだけで満足するので軽
い気持ちだなあと思う。
そろそろ探すかと街を歩く。
田舎っぽさが残っており田んぼが建物の間に挟まってるかのようにある。
こんなところにもカエルもいるし田んぼを覗くとホウネンエビやカブトエビみたいなものが動いてるのが見えた。
確かホウネンエビやカブトエビは地が乾燥しても丈夫な卵を産んで水が溜まると卵が孵化するという生命の神秘を感じつつそれでも結局は食物連鎖の下にいるという正に縁の下の力持ちの様な存在である。
生き物が生き物を食べ、それを我々の口に入る食べ物になる。
生き物はそうやって食物連鎖の中で生きている。
食べなければ生きることが出来ない。
それを繰り返してる。
我々も死んだらその食物連鎖の一員になる。
上から下にクラス下げになるのだ。
…なら食べる意味のない食事とは何になるのだろう。
そういえば妖怪とかはなんで人を食べるのだろう。
昔はそんなこと思いもしなかった。
絵だけを見て楽しみ、説明をあまり読んでなかったと思う。
読んでも食べたとかの結果ばかりでなぜ食べるというのは書かれてたのを見たことがなかった。
…まぁそんなことはいいか…と辺りを見回りながら歩いていた。
昔はここまでコンビニはなかったと思う。
便利にはなったが何処にもありそうな風景になって
物悲しさを覚えていた。
本当に軽い気持ちで歩いていた。
あまり見慣れない路地などを覗きながら…。
薄暗く不気味だか懐かしさが目の奥に焼き付く。
目の奥に…。
目の奥…。
あの娘の目の奥…。
何個かの通路を軽く見回しているとある店の前を横切った。
するといきなりその店から声が聞こえた。
「おい、お兄さん!なにしてんだ。」
ドスは聞いてないが渋く耳の奥に届くような声であった。
いきなり呼ばれて自分は驚きとともに声の元に振り向いた。
坊主髪で口ひげが少しあり、背も自分より少し大きい…165センチくらいかそれ以上のような気がした。
驚いて少しの間硬直してしまったがその声の主が
「なんかここの辺りウロウロしてる感じがしたから声かけてみたで。なんか探しもんか?」
自分は初めての人に声をかけられ緊張はしつつも
「は、はい!」と返事をしてしまった…。
声の主は少し顔ひげを手で触りながら少し考えたあと、「そうか、まぁちょっと気になってな。よかったら話ばせんか。」と言ってきた。
唐突に話しかけられた挙げ句知らない人に自分がしてることを話すのは凄い躊躇はしたが確かにこの辺りを見回りながらウロウロ彷徨いてたのは不審だしこの人が昔からここに住んでるならそういう人には敏感かもと申し訳なく思い時間もあるのでその人と話すことにした。
どうやら金物屋らしく看板には[金具屋ツルちゃん]と書かれていた。
中に入ると当たり前だが金物が沢山あった。
「どうだ、結構品揃えええやろ。」
ここの主…ツルさんは少し自慢げにそう言った。
「そうですね…しかし自分はこういう店には中々いったこと無いから少し圧巻してます…。」
「最近はネットで買えるらしいからなあ。こういう店は人との生身での交流も含めてるからいいんだけどねえ。ネットは少し淋しく感じるよ。人はやっぱ眼をみんばなあ。」
「そうですね。ただ自分はあまり眼を見るのは苦手ではありますね。」
「なんばいいよっか!あのな?商売ってのは人の顔を見て決めるところもあるんだ。お、今日はこの人はこれを探してるな?っていうのが顔でわかる。そして声を掛けると魔法のように声かけられた奴は俺の話に乗っかんだ。その後はもう眼を見ながら話すから相手は逃れられない。そして只で帰るわけにはいかねえから何個か買って帰るわけよ。でまたここに来やすくなるってことよ。これが顔を見る商売や。」
「は、はあ。」
自分がそれにかかったのかは分からないが少なくとも声をかけられこうやって話してるということは掛かってしまうんだろう。
そしてツルさんは改めてこちらを見て
「けどあんたは何か探してるような仕草をしてたし眼が色んなとこをみていた。なんかあるなあと思わんほうが不思議だろ。ここに住んで結構立つがそんなやつ中々見かけないから。」
自分はそんな動きながら見てたつもりはなかったが他人から見たらそんな感じだったのかと少し恥ずかしくなった。
ツルさんは少しニヤけながら「で?誰を探してたんだ?」と渋い声で言ってきた。
いきなり会った人に言うのも憚られたがここに長く住んでたということは見かけない人なら見たかもと可能生を感じ、自分の妹を探しているという設定にしてツルさんに話した。
ツルさんは
「んー、なるほど…しかし和服の似合いそうだけじゃねえ…」
「そうですよね…。」
「警察とかには言わなかったのかい?」
「あ、まぁ家出に近いからすぐ戻るだろうしまた少し経っても戻らなかったらまた来てと。」
絶妙な嘘をついてしまい少し後悔をしたがツルさんは真剣に考えながら
「そうか、んー、それならちょっと紹介したい探偵人がいるがどうだ?」
自分はえ?と少し驚いてしまったと同時に相当悩んだ。
相手は警察などには言うな、他のやつということはもちろん興信所、ましてや探偵などもだめなのだろう。
「まぁ自由だがよ、おいが少しそいつと縁があってな。癖はあるが探し人くらいならすぐ見つけ出すほどの有能さだぞ。」
それを話していたツルさんは真剣に言っていた。
俺はツルさんが出してくれたお茶を飲みながら考え込んだ。
がよく考えれば別に探偵に頼もうが興信所に頼んでバレようが俺はその親戚の約束事に振り回される必要はないしやっぱ人を探すなら素人には無理だろと心の中で決まり、ツルさんにお願いしますと頭を下げた。
「ちょいと待っといてくれ」とツルさんがレジ向こうの部屋に向かった。
電話をしてるのだろうか向こうから「おう、久しぶり」だの「え、どうせ暇だろ。まあ、俺の顔立てると思って!」だのと聞こえてくる。
少し待っていると話を終えたのかこちらに戻ってきた。
「おう、アポ取れたぞ。明日にここに行ってみろ。」
ツルさんは俺に住所の書かれたメモを渡した。
住所を見ると意外と近場で驚いた。
そこまでではないとはいえ10年は住んでるのにそんなの見たことない。
ツルさんは自分の胸の内がわかったのか、「まぁ大きい看板も立ててないし建物がそれっぽくねえからな。まぁ言ってみりゃわかるさ。」
自分は感謝をしながら去ろうとしたが流石にタダで
帰るにもいかず少し店を見回ることにした。
色々な金具がおいてある。
フライパンやら鍋やらキッチンで使うものからナットやネジ、トンカチなど工具系もたくさんあった。
ナットやネジの形が気になり色々と覗いてみる。
するとあるナットに目が言った。
周りがトゲトゲしていてまるでトゲ棍棒のようだと思った。
名前は…「鬼目ナット」と書かれていた。
眺めていたらツルさんが話しかけてきて
「その形だから打った後とかも取りにくいしレンチなんかでも回しやすくてええもんなんだよ。」
自分はツルさんの金物トークを話してきたが自分が目にいったのは[鬼目]であった。
「ツルさん、これなんで鬼目なんていうんですかねえ。」
「お、それはな?施工状態にしたナットが鬼の目に見えるかららしいんだわ。けどそんな鬼の目になんか見えねえってのにねえ。」
ツルさんは口ひげを軽く触りながら答えた。
ここでも鬼の字を見ることになるとはさん…偶然とはいえなんかゾクッとしてきた自分は結局この鬼目ナットを買ってツルさんの店を出ることに。
翌日、ほぼ寝れなく目をこすりながら昨日渡されたメモの住所に行く。
道は広いく両隣にはアパートやマンションがあるのに人があまり通ってないような気がする。少し寒気を憶えながらその住所の眼の前に着いた。
自分は目を疑った。
其処には…上下に4部屋の扉がある見た目ならただの少し大きいアパートがあった。
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