第3話 洞穴

私くし、昔からあの大きくも閉鎖されたような籠としか言えなかったお家で暮らしていたのです。

部屋は沢山ありました…。


いくらかは使用人さんのお部屋として使用されておりましたがもう何部屋かは私くしが成人になるまでは中を見せてもらえませんでした…というより自分の部屋と生活に不可欠な行動以外は何処にも行くこと、部屋に入ることを禁止されておりました。


学校などにも行かされず勉強等は使用人の何人かが交互に教えて頂いておりました…それが何処まで成人迄に教えていただくことなのかはわからなかったですが数学、社会学、儒学、経営学、生物学など色々教わりました。


しかし部屋からもでず話し相手も居らずただ部屋で勉学といかに見た目を維持するかの強要だけをされておりました…周りは蝶よ華よと育てられた様に思いましたが私くしに取っては只人を使って御飯事をしてるようにしか思えませんでした。


そしてある時に民俗学を教えられたがその時に鬼というものにふと目が行ったのです。


私くし自身の苗字にも入っている鬼という文字…そしてその時書かれていた鬼は…姿がないんです。


いや、姿がないというのは変ですね…化けてたんです、人に…。


ある美しい娘が鬼が化けた若者に喰われるという話なのですが私くしその物語を見た時に思ったのですが何故鬼は人を喰うのかと…。


生き物は生きる為に別の生き物…また同じ種類の生き物、植物を食べます。


それは我々も同じく生物の本能として機能する行動であり生死をも左右してしまうことです。


なのに鬼というのは何故人を喰うのでしょうか?


鬼というのは昔は死霊などの意味だったといいま

す。


それがどんどん形のある化物の意味になり時代が進むに連れて今のイメージになったと書かれてました。


ただ、鬼って生き物として書かれてることって無いんじゃないのって気づいたんです。


あくまで結果、そういう行動をしていたから退治したや恐怖で逃げたとかそんな話ばかりです。


なら鬼はその時に何をしていたのか…襲ったりはしていますが其処に生き物としての行動はあまり感じられません。


悪意なんです、悪意を固めたような話ばかりなんです。


生物としての生き方をしているような話なんてない。


食べた喰った襲った暴れていた、悪意なんです。


なら人を食べる、喰うのは悪意でしてるのではないかと…ならその食べる悪意はなんなのか…。


…多分共食い何だと思います。


鬼は人の意だと思います…しかも悪意の意です。


なら食べられた人はなにかをしたのか…多分何もしてないと思います。


その人は消えて黄泉に行かされたのではないかと…生物として食したのではなく死なせて黄泉に行かせたんだと…そう、思ってしまいました。


鬼の意が人の悪意の意の塊ならきっとその相手を殺したいんだと思います。


ならその人をこの世から無くすなら…食べれば良いのです。


食べればこの世から消えていなくなるんです。


消えれば人はその人がいなくなったことを知らなくなるのではと…襲われた後が骨のみならその骨が誰かは食べた鬼と食べられた本人しか知りません。


その場を見てもきっと知ってる人はその娘が食べられただろう…という予想しか出来ません。


その場で発見されいかにもその娘の残骸のはずなのに発見した人はその娘と断言できない。


肉片がひとつでもあれば…顔や残りの肉片に特徴があってそれがその娘と同じ場所だとしても決定出来ないのです。


それが例え人が行った行為だとしても鬼がしたのですよ。


昔の人は凄いですね、人が消えればそれはあやかしの仕業にされてたんです。


ホントは人がしたんでしょうにね…もしかしたら自然災害、または自害…または事故…それでもやったのは現実的現象なんですよ。


おかしいですよね、人が消えれば鬼が喰い天狗が攫い河童は河に引きずり込む…。


昔のほうがやりたい放題ですよ…。


そしてそれは今でも通じるのです…。


人なんですよ…!私くしの前であのようなことを強制で見せつける親もそれをなんとも思わず見てる使用人もあの扉で行われてる残虐的なこともなにもかも!!

私達は鬼の字があるから鬼なんだとか鬼の字だからこういう行為をするんだとかそんなわけ無いことは分かっていたのに聞かせられるんです!


そして部屋からも出られない…永遠と自分の意志では開けられない扉…外の光もほぼわからず…そんなものただの洞穴と代わりはありません…。

けど洞穴にも色々種類はあります。


そんなことも選択できずあの様な檻同然の部屋に入れられそれで貴方は鬼の娘なのにこんなに女々しく美しいのか…と永遠と聞かせれ、表情もつけることを許されず泣くと叩かれ笑うと怒鳴られ!そんなこと繰り返されたらもうどんな顔をすればいいか…わからなくなりました。


一度、昔…まだ6−7歳の時でしたかね…ある方の葬式に行かされた時…あの時だけは外に出られました。


なんでも父がお世話になったと…流石にあの人の前ではお前も顔を出さなければならないと…この両腕を出さぬようでかい袖の着物を着せられて…そして葬式なのに終わった後に人が集まりました。

父の家系は資産家だったので媚に売ってたんだと思います。


そして私くしはふと視線を左に移しました。


同じくらいの子供がおりました。


その子供もこちらを見ていました…

そして目線が合いました…そしたら、強張ったんです…恐れていたというか引いていたというか…

その時にふと気づいて周りも見ました。


笑っていました…周りは笑っていたんです。


表情というのがわからなくなりました余計に…

両親もニヤついていました。


人が亡くなり弔ったあと、何故余韻を無視して皆笑

っているのか…そしてそれをみて引いてる彼を見て改めて私くしは…人というのがわからなくなりました。


そしてその時以降、周りには気づかれず人について色々調べました。


意味がわからない、同じ生き物としての機構なのに知能が違うだけでこんなに変化を感じるのか…

そして私くしは自分が、自分という人が、自分という生き物が嫌になりました。


その後もまるで人形になりなさいと言わんばかりの教育をさせられました。

そして二十歳になった時に…

それをされたあと私くしは嫌悪しました。


人を…他の生物と一緒の構造、本能をしていながらも知能が違うというだけで苦悩や快楽、思考を感じてしまう人間を…!

生物の不快な本能的な構造、身体の構造から行われる不潔な活動機能…不快で不快で不快で不快で不快で不快で不快で!!!

…だからもう人形としての意識のままこの世から消えたくなりました。


ただ普通に死んでも形が残ります。何処で死のうが私くしの肉体は残ってしまうんです。


魂もきっとそこに残ります。


魂もなくして欲しい…ならもう誰かに食べられるのが良いかと…人としての尊厳を無くす…自分の、人としての存在…これを亡くすならもう肉体を消化させるしかないと…そう結論付けました。


そしたら…人の口が洞穴に見えてきたんです。


口を開けるとそこが洞穴になりあの奥に入れば私くしは消えるの…彼処なら閉じこもったままでなくてもいい。


誰とも会わず誰の目線も感じず永遠の暗闇に閉じ込められる…意識何かも感じなくて良い…そこで死んでるんですから…だから私くしはずっと食べられたいという衝動が迫ってきたんです。


だから外に出ました。


そしてずっと歩いていたんです。


誰か私くしを食べてくれる人を…鬼を…私くしと同じ鬼を…

そしたら貴方がいました。


貴方は見ると誰の目線も避けておりました。


人が嫌いなのではと思いました。


なのでお声かけました。


顔を上げた貴方の口が…洞穴が…とても惹かれました。


理由なんてそんなものですよ…、直感です。


貴方ならお声してもきっと私くしの話を聞いてくれると思っておりました。


そして…食べてもくれると。


直感、何もかも直感です…そんなものですよ。


だけどそれが当たってくれたんです。


偶然でもそれが起きたら必然になります。


偶然という巡り合わせは起きる可能性があればそれは起きるのです。


だから偶然起きたことをそんなこと無いなどいう親が嫌いでなりませんでした。


なのでお願いします…私くしを食べて…喰らって下さい。


貴方のその洞穴になら入っても良いと思いました。

お願いします…お願いします…洞穴に入りたいのですこの魂魄を早くこの世から消し去りたいのです穢れた私くしを…汚された私くしを…早く消化して黄泉に連れて行ってほしいのです!!




……………………………………………

……………………………………………

……………………………………………

彼女はそんなことを言っていたなあ…

私は残された骨の残骸や肉片を処理しながらそう考えていた。


鬼がなぜ人を喰うか…人を黄泉に連れて行く行為…そこに生物本能的や行動はなく生きるためでもない…ならば人を喰う理由…それは人をこの世から消し去る行為…けどそれを行うのは結局人…世に鬼がいないならいるとされるならそれは人…人…私は人なのか?鬼なのか?こんな見た目、人そのものの私が鬼?…いや、彼女の言っていたことがそうなら私は今鬼をしているのだろう。


実感はない。


ただ私が、何かの箱に…檻にされたのかもとは思った。


人として見られてはいなかった。


道具だ…自分の魂を消化させる道具…道化として選


ばれたのかもしれない。


それでも食べる。


食べるしか無い。


もう彼女を私の中に収めるにはそうするしかない。

一口で食べれたらなと思う。


大きい口で一口で食べれたらこんな処理もしなくてもいい。


洞穴…彼女は私の口をみてそう言った。


ものですら無いのか…ならこれは自然現象、きっとそうだ。


成り行きは自然に起きるから自然現象なんだ。


ならなんも問題はない。


彼女という生き物が私という洞穴にはいって永遠に引きこもっただけだ。


それだけだ、なら問題はない。


食べよう。


彼女を…

ただ…

あの頭は…瞳は…食べれない。


あれは残そう。


せめて、最後食べよう。


あの娘も確認したいのだろう。


私が食べているところを。


なら問題はない。


ちゃんと入ってるから。


飲み込んでるから。


十分に見ててくれ…………。


彼女の瞳は溶け出していた。

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