第2話 一口鬼
2000年というとてもよい数字並びに当時は何故か喜んでいたが特に変化などは起きずただただ日が置き沈みする日々を送っていた気がする。
当時はまだ小学生で時間の流れが長く感じていたと思う。
勉強するのが苦手だった自分はテストの点数も悪くよく親に怒られていたが、あまり気にならなかった。
気にはなってたがこんな事を知ってて何になるという反抗的ではないが純粋な疑問を持っていたが今はちょっとその辺りの考えを訂正しとけばなあと後悔をしている。
ただそんな自分でも趣味に関しては腐る程頭に入っていった。
オカルト関連にハマりだしそこからオカルト雑誌を親に頼んで買ってもらったり親戚に生粋のオカルト好きがおり要らなくなった本などを貰って四六時中…手ほどでもないにしても休みの日など夜も明かす勢いで読んだ記憶がある。
純粋な知識欲だったと思うがオカルト関連を読んでると段々と何でも存在するんだという今思うともう少し頭冷やしても良かったかもと恥ずかしくなってしまうがあの気持ちは一応心の底には取ってある。
ネッシー、ビッグフット、チュパカブラ、モケーレ・ムベンベ、ドーバーデーモン、バッツカッチ、スカイフィッシュ、クッシー、イッシー、ヒバゴンなどなどの目撃証言をみてワクワクしていた。
その勢いで妖怪も存在するんだと信じ込んだ。
実際に各地に鬼のミイラ、雷獣のミイラ、河童のミイラなどの写真に心ときめかせており、特に地元にある河童の全身のミイラは一度生では意見したときの感動と興奮は今でも忘れられない。
だから昔見ていた妖怪図鑑を見ながらこの妖怪はいたんだ!ここのこの地域にいてさ!みたいなのをクラス中に披露していた。
周りも興奮冷めない自分を冷ややかな眼で見るどころか一緒にハマってくれたのは感謝しか無い。
あの時に乗ってくれる友人や周りがいなければ自分齒今の精神を保ててなかったのではと思う。
…で流石に中学にもなると部活で忙しくなりそういうものに興味を持つ時間が減っていった。
そして気がついたら高校生にもなり新しくプラモデルにハマりだした。
ハマりだしたら止まらない自分はもう死ぬほど作った。
高校生では部活は入らなかったので余った時間が多くなり勉強も多少しつつ後はプラモデルを作る日々だった。
で高校卒業後はなんとなしに仕事をすることにした。
親は反対するかと思ったが自分の人生にとやかくは言わないというといい言葉ではあるが放任主義な所もあったからその言葉に甘えることに。
直ぐに安いアパートに入り近場の工場に就職した。
最初は大変で中々慣れない仕事だったが時間の流れの早さと経験というのはなれるものでいつの間にか8年も経っていた。
靴の型を取る仕事でそこまで難しいということもなかったが種類が多いし取る型も多く覚えるのが大変だったがほんと慣れるもんだと自分に感心しながら趣味を満喫しつつも何処か寂しさもありながら日々を暮らしていた。
今日も変わらずなんとなく仕事を終え、折角の金曜だったので久々に日本酒と刺身を購入、帰宅し食べ飲みしてのんびりしながら明日は何しようかと考えてた時に手元の携帯が鳴った。
母親からだった。
なんだろうと思い、出てみる
「もしもし?仕事終わった?」
「ああ、終えてめしくっるけど、どしたん?」
「あ、丁度良かった。ん〜…」
母がなんかなんとも言えない、考え込んでる?様な仕草が携帯越しから伝わるような声を出していたのでこちらから「なんか悩み事?」と聞いてみた。
少し間が合ったあとに母が
「あんた、親戚の〈きださん〉って憶えてる?」
と聞いてきた。
自分は少し考えたが思い出せず素直にいや、知らないと返した。
母はそうよねえ…とため息を付けながら話を続けた。
「いやね、そこの〈きださん〉の所から連絡が来てねえ…。私達余り親戚と没交渉だから驚いちゃって…。
あそこの家は資産家とかなんとかは聞いたことはあったしあんたが小学生くらいの時に亡くなった祖父の葬式の時に軽く挨拶したくらいで…」
その後もその〈きださん〉についての話が続けられ、聞いてる途中に祖父の葬式というキーワードになんとなく…何か思い出したような気がしたがまだ輪郭が出てこずこっちもなんかモヤモヤしてきたのと多分本題からそれてきてるなあと思ったが要約すると、その〈きださん〉は、県で展開している鬼田建設の社長さんでそこは昔から資産家との話は聞いていたがあまりそこの主人が話に出すのが嫌いなため、話題にすることを躊躇っていたという。
まぁそれでも資産家というだけでやはり人は集まるもので其処にはとてつもない強欲さを感じられたのか人との交流を余りしない人と聞いていたらしい。
ただ祖父とは昔馴染みの知り合いだったらしく葬式の時は相当多額な香典を包んでくれていたという話であった。
自分はそういや、なんかえらくある家族に群がって丁寧な挨拶をしてる人達がいるなと思っていたがもしかしたらそれが鬼田さんだったのだろう…と少しずつ思い出してきた。
…そしてその中に同じ年の見た目の娘がいたような気がしたことも思い出したがまだ正確に浮かんでこない…いや、見てる?こっちを…着物…着物だ、黒い服をま纏った人達が背景に見えてしまうほどの赤く染まり何か花の模様みたいなのがついていて…袖の長い…そう、袖で手が見えなかった…そっかあれはその時の記憶だったのか…。
そもそも今思えばそんな葬式という人の死を慮り弔う場所であんな異様な着物を着ていたことを今思い出すなんておかしいことである。
多分異様過ぎて自分の記憶から自動的にシャットダウンしたんじゃないかと今に思う。
異様すぎたのだ、一人異様に赤く紅く明く朱いあの血の様な真っ赤な着物…花の模様もあれでは血染めに染まってるようにしか見えない…こんな表現は大人になってやっと持てた感想なんだと今にして思う。
ただほんとこの話が来るまで記憶がなかった…。
夢物語の様な感覚であったんだ…異様なあの光景…そしてあの娘の表情…無表情で無感情、人形…人形が人の大きさをしている…あれは生きてる?生きていたのか?いや、生きてないとこちらを振り向かないし自分が今思い出し始めたあの無表情の顔が記憶に今、脳の隅々に張り付いてくる気持ち悪い感覚に母の話がそれ以降流れるようにしか聞けなかった。
それに気付き焦りながら話に耳を向け直す。
母は色々話していたがまた愚痴を言ってる様な感じだったので「愚痴になってるぞ」と軌道修正を促した。
「あ、もう年だから最近話がそれやすいんよねえ…。あ、それでそこの娘さん、〈やとこ〉っていうらしんだけどどうもそこのやとこさんが…家出したみたいなのよ。」
俺はそれを聞いて少し拍子抜けした。
「え?家出?そこの娘さんが?」
「そう、それで電話が来たのよ。」
「いや、何故態々こちらに?そんなんそっちの家で解決しろで話きまるやろ?」
ちょっと拍子抜けと気持ちの拠り所が揺らぐ記憶を思い出し口調が強くなってしまった。
「私もそう思って家出なら警察に届けたらって言ったのよ。そしたら向こうは我が家系に家出した娘が出たなんて大衆に知られるなんてみたいなこと話してていや、家系とか言ってる場合じゃないでしょうにってちょっと強めに言ったのにそれでもそこは貴方には関係ありませんのでなんて言われてならなら何のようです?と聞き返したら『貴方達に個人的に探してほしいのです。その分の費用や謝礼はこちらで後で出します。私達は遠い親戚、ほぼ他人の関係と思いつつ近くに住んでおりあなたの父方の祖父にお世話になったという遠からずも近くもない縁をこうやって頼んでる所存ですので、どうか』と理由のわからない御託並べてたけど私も人だから謝礼の所で耳が向いちゃってねえ…考えさせてくださいって言っちゃったのよ。」
自分は呆れた…とは思わなかった。
声からでもわかる相手の上から目線の態度は自分が聞いていらたら叩き切ってたかも知れないが謝礼と費用は後で出すと言われると悩む気持ちはわかる。
「で、私達まだ働いて時間もないし探すのもねえってことでどお?もしあなたが暇なら受けても良いんじやない?お金はいるし。」
「えぇ…いやまあ、暇なのは暇だけどそんな同い年位の富豪の娘さんを只の遠い親戚で爺ちゃんが世話しただけの他人も他人の自分が探し出すってそんなの無理に近いやろ…。それこそそちらさんが金はたいてそういう専門に頼めばいいじゃんなあ。」
「それは私も言ったわよ、そしたら『こちらの家系は昔から身内以外とは口を聞くのを憚られております。本来ならこうやって親戚といえども電話をかけて尚且つ頼み事をするなどということはしてはならないのです。それ程今回の件は急いでおります。だからといって警察や他の機構を頼むということもしたくありません。ことは身内の中で終わらせたいのです。』ですって!ほんとわからない話よねえ…。」
そりゃ意味がわからん…としか言えなかった。
身内の中で終わらせるのなら俺らを巻き込むなと面倒くさい気持ちになったしあの異様な記憶を脳の引出しから無理矢理引っ張られた嫌な気持ちでイライラしてしまう。
「それでどうするん?」
「いやなぁ、そんな事言われても俺に出来ることな
んて休みの日にふらふら周り見渡すくらいしか出来ないよ。無理無理。」
「まぁそうゆうよねえ…ただ、ちょっとおかしいのよね…いなくなった状況を聞いたのだけど異様というか…」
その言葉になんか背筋がゾクッときたのを今に思うと虫の知らせとか嫌な予感とか胸騒ぎに近い感覚を覚えたんだと納得する。
「は?どんな?」
母は言葉の奥になんか詰まったかのように困惑しながら言った。
「それがね?家出して周りを探してた使用人の一人が道端で見つけたのよ。やとこさんが着ていた紅色でユリの模様がついた着物が乱雑に置かれてあったみたいなのよ。神隠しみたいでいやよねえ…」
鬼…着物…富豪…娘…消える…なんか頭の中でまた一つ薄く深い記憶が呼び起こされそうな気がした…。
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