第10話 あたらしいホラー

篠織は、ため息をついて今まで私が書いた原稿をデスクにぶちまけ、最後一本のタバコに火をつけた。



……ふと、『奴ガ来ル』という文章が頭に浮かんだ。




言葉の元を探すと、それはデスクの上にあった。つまりは、今さっき自分でぶちまけた私の『あたらしいホラー』の原稿用紙たちだ。

机の上に広げたので、原稿用紙が少しずつ『ずれて』、最初1ページ目の頭の文字が偶然重なって、そう読めたのだ。


具体的に、

『怖すぎる転生王の逆襲』の、最初の1文節『奴は一体何者だ』 の『奴』。

『怖すぎる壊れたZT-KLS666』の冒頭、『ガマンしてくれ』の『ガ』

『怖すぎる所長と篠織の新居生活』の冒頭『来ましたね』の『来』

そして最後の手紙の冒頭『ルール』の『ル』


である……。


最初篠織は、単なるつまらない偶然だろうと思ったが、最後の手紙に「かきつばた」が云々……と書いてあったために、

試しに原稿の一文字目を読んでみることにしたようだ。


しかし、一作品目、『怖すぎる封じられた森』の冒頭の文章は「蔵枡村(ぞうますむら)」で始まっている。


考えすぎか……。


篠織はタバコの煙の中を泳いだ。今日のこの後の予定は……あれ、なんだっけ?


考えても仕方がないので、篠織は「蔵枡村(ぞうますむら)」というありもしない地名について思いを馳せることにした。


そして、2、3度心の中で「ぞうますむら」を繰り返した瞬間、嫌な予感が脳裏をよぎり、


所長が提出してきた「あたらしいホラー」の、それまでの作品の『頭文字』を読んでみることにした……





篠織は『それ』に気づき、地下室から脱出しようとしたが、地下の扉は外から鍵をかけられていて出られない。


……そもそも、この地下室はどこの地下室だ?

なぜこの場所で作業をしないといけないのだろう?

何一つ思い出せない……


ふと、後で機械的な物音がした。そして、全てを悟った。




何も思い出せない篠織でも、『それ』の正体だけは知っていた。そして自分がこの後どうなるのかも。




篠織は、諦めの表情を浮かべて、赤い光に照らされながら物音の方に振り返った。





    あたらしいホラー  了


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