第3話

結局僕は引き返すことにした。


何だかんだと考えながら最初の方で引き返すのはかなりアレだなと思ったが、それでもいいのだ。

再び落ち葉を掃いている人にあったが、先程までとは少し考えが変わった。

彼は落ち葉を片付けているだけではなく、その行為そのものを神様に捧げているのではないかと思った。

それは無駄な行為なのではなく、その行いそのものが意味を持つのではないかと思う。

……まぁ、そんなに熱心に神様のために仕事する人が何人いるのかという話であり、実際は早く終わんねーかなぁなどと思っているのかもしれないが、まぁ、それはいいのだ。


階段を降りていると、ふと右側に大きな洞窟ののようなものが崖の中心にあるのが見えた。


いや、行きも気付いてはいたが、そこまで足を止めるようなものではなかったのだ。

だが、帰り道だからなのか、それとも色々なことを考えながら歩いていたからかは知らないが、そこに神様がいるような気がしたのだ。

いるのか、それともさっきまでいたのかはわからないが、そこに神様が『ある』気がした。


きっと神様はその洞窟にたまに来て腰を下ろし、頬杖をつきながらこちらを見るのだ。

そして、今日も来たのか暇人共めなんて軽口を叩くのだ。


妄想が過ぎるだろうか?だがそうであればいいなと僕は思った。

出口に近付くと大きな門が見える。

これをなんというのかは知らないが左右に像があるのは大きな神社ならわりとあることだと思った。


ふと、この門を燃やす輩がいたらどうなるのだろうと考えた。

神様は怒って天罰を下すのだろうか、と思った。

きっとそうだ。

そんなことをした奴には天罰が下る。

でも、その怒りは神様の住む場所を破壊された怒りではない気がするのだ。


僕はここに来るまで神様は厳しいものなのだと思っていた。

礼儀作法に厳しく、気まぐれで恐るべき天罰を下すものだと。

でも、なんとなく違う気がした。

神様が怒るとしたらそれは自分に対する無礼でなく、自分を敬い場を整えてきた人々を無碍にしたことに対する怒りではないかと。

例えば、人間が神様だとして蟻が人間だとしたら。

一生懸命に人間を讃える場所を作ってくれたのなら嬉しく思うし、それを壊すやつがいたら怒ると思うのだ。

それに天罰を与えるのは簡単だ。

なるべく他の蟻を潰さないように親指を下ろすだけなのだから。


そんな風に考えているうちに入り口の鳥居にたどり着いた。

僕は周りに人がいないことをよく確認した。


「神様は懐の広いお方だ。どうもありがとう」


僕は信心深い訳ではないが、神様を信じている。

なんとなく、お礼を言いたくなったのだ。

別に神様が本当にいるかもわからないし、いたとしても僕になんか興味はないだろう。

僕は僕でこれから温泉に浸かれば神様のことなんてすっかり忘れるだろう。

でも、それでいいと思うのだ。



少しして、露天風呂に入っていると雪が舞った。季節的に少しだけ早い、粉のような雪だ。

それが神様の粋な計らいなのか、無礼者に対するささやかな嫌がらせなのかはわからない。


でも僕は思わずこう口に出したのだ。


「ありがとう、神様」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

神様のいるところ 異界ラマ教 @rawakyou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る