第2話

「……ほんとにここ?」


神社に着いた僕の一声はそれだった。


そう、ここはそれなりに有名な神社でやはり有名だからにはそれなりの見栄えなのだと思っていた。

だけど入り口の鳥居は塗装も禿げ、何というか失礼な話ではあるがその辺にある小さなよくわからない神社と同じではないかと思った。


「むぅん……」


入るのをやめようかとも思ったが、他に時間を潰す手段もないし僕は愛犬のトイレを済ませると意を決して鳥居をくぐった。


……これは僕だけの感覚なのか、それともみんなそうなのかは知らないが、鳥居をくぐると神様のいる所に入った、という感じがするのだ。

空気が少し変わった気がするし、なんというのだろうか、僕自身も心の襟のようなものを少し整えた。


犬は興味津々なようで辺りを嗅ぎ回りながら興奮している様子だ。

……ここの神社は犬連れがよく来るそうなので大丈夫だと思うが、明確にオッケーが出ているわけではない。

うちの犬はしつけがしっかりしているので神社を荒らすようなことはないと思うが、ネットで調べた情報によると畜生が入るのは神様に無礼とのことなのだ。


僕は神様を信じているが別に信心深い訳ではない。

一礼二拍手の詳しい手順は知らないし、神社とお寺の違いも詳しくない。

まぁ犬が畜生なら人だって畜生だろう。

最悪神社の人に追い出されてもメインの目的は温泉なのだから良いのだと少しどきどきしながら神社の階段を登った。


完全に山の中に作ったのだな、と思いながら所々に置いてある看板に足を止めながら少しずつ神社を進む。

普段はパンフレットの説明も読まない僕だが、不思議と神社の立て札や説明は一言一句残さず読んでいた。

内容を理解しているわけではないし、ほとんど流し読みなのだが、文字自体に込められた歴史のようなものを読んでいるとでも言えば良いのだろうか。


少し歩くと下の方に流れる川があった。

絵になるな、と思った。

川から聞こえるせせらぎは心が洗われるような美しさで、退屈になったら付けようと思っていたイヤホンはポケットに仕舞われたままだった。

少しだけ、下に降りて歩きたい気持ちになったが、そもそも行っていいのかわからないし、まぁ、やめた。

なんというか、あそこは僕の道ではない気がしたのだ。

たぶん、みんながそう思ったからこそあそこは綺麗なままだし、きっと、神様だって歩くのだろう。


ゆっくりと階段を上がると何人かとすれ違った。

こういう神社には毎日参拝する老人が付きものだし、罰当たりだなんて怒鳴られるかと思っていたがそんなことはなく、かといって特別犬を気にする様子もなく、ただ会釈をしてすれ違うのだった。

僕は少し嬉しくなった。

なんというか、犬も、僕も、他の人たちも、この清廉な空気に溶けて山の仲間となったような感覚がしたからだ。


少しすると落ち葉を掃いている人を見つけた。

文句を言われるならここだな、と少し身構えたが特に何も言われることはなかった。

大量にある落ち葉を掃いている姿を見て、終わるのか?無駄ではないのか?と思ったがそれが仕事なのだろうと思った。


長い階段を上がると、入り口の看板に書いてあった一番始めの建造物にたどり着いた。

なるほど、ここでこれだけ歩くのかと思うと一番上まではかなりの時間がかかるなと思った。

正直予想の何倍も満足度があったので上まで行くのも全然いいが、しかしメインはあくまで温泉。それに上まで行くのは愛犬の足腰的にも素直に不安だった。

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