亡くなったあの子

ペットを亡くした後に、亡くなった子の気配を感じたという体験談をよく聞きます。

例えば…

・廊下をトタトタと歩く音がした。

・寝ていると布団に上がってくる気配と重さを感じた。

・鳴き声や、猫が喉を鳴らす音が聞こえた。

このような事例はわりと聞きますので、どうやら〝あるある〟のようです。

とはいえ、私はこのような体験は一度もしたことがありませんでした。


しかし、実家で飼っていたボーダーコリーの〝うに〟が最後の時を過ごしていた時、初めて亡くなった子の存在を感じたのです。


うには持病が悪化し、立って歩くこともままならない状態で介護が必須になっていました。

外が大好きな子でしたが、散歩が出来ないため天気の良い日は庭に出してあげて、一緒に日向ぼっこを楽しんでいました。


その日も庭でしばらく一緒に過ごし、日が傾いてきたのでそろそろ家に戻ろうとしていたその時、母親が庭にやって来ました。

「調子はどう?」

「変わりないよ。」

私と母でお喋りをしていると、不意に背中に感触がありました。

直ぐに振り返ってみましたが、何もいません。

私が急に振り向いたのを見て「どうしたのか」と母が尋ねてきます。

「いや…チョコが来たのかと思って…」

「え?チョコは外に出ないよ。」

「だよね…」


その感触は、猫が足や体にすり寄って来る感触と全く同じものでした。


チョコというのは、実家で飼っている猫の名前なのですが、母の言う通りチョコは完全室内飼いの猫でしたので、庭に来ることはありません。


そこで私はチョコが来る前に飼っていた猫〝よもぎ〟の存在が頭に浮かびました。

よもぎが様子を見に来てくれたのかもしれない。

…だけど、あのよもぎがわざわざ犬の様子など見に来てくれるものだろうか?


元々野良猫だったよもぎは外出も自由にしており、よくネズミやスズメを捕って来たりしていて、野性味のあふれる猫でした。

性格に関しても人にベタベタと甘えることは決してせず、気に入らないことがあれば容赦なく噛み付いたり引っ掻いたりするもので、唯一撫でられるのは私と父親だけという強気な性格でした。

そんな猫が犬を気にかけるだろうか?私は疑問に思いましたので、気のせいだということにしたのでした。


それから三日後、うにはいよいよ起き上がることすら出来なくなってしまい、寝たきりの状態となりました。

リビングにペットシーツや毛布を用意して、そこにうにを寝かせます。

夜間は家族はそれぞれの部屋にて就寝しますが、私は心配が募り夜中に目が覚めてしまったため、様子を見に行くと同時に掛け布団を抱えて行き、側で寝るようにしようと思いました。


リビングに行くと、うには寝息を立てて熟睡している最中でした。

私はその横で眠りに就こうと目を閉じます。


しかし、なかなか寝付くことができません。

すると、頭の上の方向から“タッタッタッ”と足音が聞こえてきました。

猫の足音でした。

チョコが来たのだと思い、そのまま目を閉じていると足音はどんどんこちらに近づいて来て、頭の上で止まりました。

なぜそんなところで座るのだろう?撫でて欲しいならこちらに来たらいいのに…と思い、目を開けてそちらを見たのですが、そこにチョコの姿はありません。


猫の足音がしたのにな…。でもまぁ気のせいか。

私は再び目を閉じたのでした。


それから、1時間以上は経ったでしょうか。

相変わらず眠れないでいた私ですが、再び猫の足音を耳にしました。

それはまたしても同じく、頭の上の方向から聞こえてきます。

今度は音に気付くと同時に起き上がり、そちらに目を向けました。


そして、そこには…チョコが佇んでいたのでした。


急に起きた私を見て驚いたようで、歩きを一旦止めた様子でしたが、直ぐにまた歩き出して隣の部屋へ行ってしまったのでした。


今回は足音がしてそちらを見ると、ちゃんとチョコがいたのです。

では、一回目の足音は一体何だったのでしょう。


私は、やはりよもぎが来ているのかもしれない…そう思いました。



この出来事から1週間後、うには私と父に見守られながら、あの世へ旅立っていったのでした。

「きっと、よもぎが迎えに来てくれているだろうから、一緒に天国へ行くんだよ。」


その後、家族でうにの写真をリビングに飾ろうという話になり、父が良い写真がないかとスマホのアルバムから写真を探していました。

「お、懐かしい写真があるぞ!」

「なになに?」

父がスマホの画面を見せてきたので、覗き込んでみると…その写真には、うにとよもぎが並んで写っていたのです。

「あれ?うにとよもぎって会ったことあるんだっけ…。」

「うん。あったよ。本当に短期間だったけどね。よもぎが亡くなってしまったから。」


私の中ではうにとチョコが一緒に住んでいるイメージ強くなっていて、よもぎとうにが過ごしていた期間を忘れてしまっていたのでした。

そのため、あのクールな性格のよもぎがうにの様子を見に来ることに疑問を抱いていたのです。

しかしこの写真によって、よもぎが見に来ていた事についての辻褄が合うのではないかと思いました。

短期間とはいえ、一緒に住んでいた仲だったのですから。



写真を見るまでは気のせいだろうと半信半疑だった私ですが、写真を見せられたことで「私だよ」と、言われたようで不思議な体験でした。

以上が私が体験した内容です。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私が聞いたペットの話 よもぎねこ @yomogi-neko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画