第11話 選択

 形勢は完全に逆転した。今度は俺の方が倒れ込んでいるルノに対して剣を向けている。


「油断したなー」

「これで終わりだ。何か言い残すことはあるか」


 さっきやられたことをやり返す。いつでも殺せる状態での問答。さっきは生き残ることで精一杯だったが、改めて考えれば馬鹿にされたという怒りが沸き上がってくる。


 なので、今度はこちらがやり返してやることにした。


 挑発するように、斬り飛ばしたルノの腕に剣を突き刺した。


「さっきのお返しだ。今度は俺がお前の最後の言葉を聞いてやる」

「最後の言葉かー。うーんそうだな。あのさーほんとにわたしを殺すつもり?」


 当たり前だろ。ここまで来ていまさら命は奪わないなんてきれいごとが言えるほど人はできていない。


「命乞いか」

「そうじゃないけどね。でもほんとに殺しちゃってもいいのかなーって思ってさ」


 含みがある。まだ俺の知らないことを知っているのかもしれない。続きを待ってみることした。


「私はねー、所謂裏に所属してるんだけど……君を狙ってるの私だけじゃないからね」

「まだ、お前みたいのが来るってことか」

「そう。私は他よりちょっと早く君のこと知れたからね。こうやって君をダンジョンにたたき込んだのも、他が来る前に至装を手に入れてほしかったからだし」

「つまり何が言いたいんだ」

「まあ、ぶっちゃけると次は騎士とか来るよね。つまり、君はこの国にいられなくなります」


 騎士。つまり国に仕えているような連中も俺のことを狙ってくるのか。そんなのどうしろって言うんだ。


「アハハ。果たして金も力も人脈も何もない、ただの孤児のレゼ君はこの先を生き残れるかなー」

「俺を脅すつもりか」

「脅してなんていないよー。ただ、私なら君のことを助けてあげることができるんだけどなってだけ」


 どうすればいい。ここでこいつを殺すべきなのか。今の話がほんとなのだとしたら、生かすべきだろう。


 だがここまでコケにされて黙って生かするのは我慢ならない。我慢ならずに、斬り飛ばした腕にまた剣を突き立てた。何度も何度も剣を突き刺した。


「……」


 その様子をルノは黙ってみていた。その様子でさえ癪に障る。もうこいつの存在自体が許せない。何とかして排除したい。そんな風に思って仕方がなかった。


「くそっ! ああ分かったいいだろう。俺はお前を殺さない」

「いいね。じゃあ、私も君からは奪わない。そうしよう」


 殺さないことにした。一時の感情に流されてはいけない。俺はこの先も生きていかなければならないんだ。最悪は死ぬこと。死だけは何としても避けなければいけないんだ。


 ルノが残っていた腕を伸ばしてくる。自力で起き上がる気はないらしい。


「起こしてよ。ね、これから仲良くするんだから」

「仲良くなんてするつもりはない。お前が俺を生かしたらそれで終わりだ」

「そんなのもったいないよ。せっかくだから一緒に楽しも。転生者狩りをさ」

「なぜ俺がそんなことを」

「その方が皆幸せになれるでしょ。私は特別になってうれしい。君は死後の安心が得られてうれしい。でしょ」


 無理だ。そんなの耐えられない。今だって殺さないことさえギリギリなのに、そのあとも付き合い続けるなんて。こいつのすべてがむかつく。


「ほら、早く起こしてよ」


 手を取ることにした。こんなことに時間を使っている暇はない。反撃を警戒しながら手を握る。


 それでも表面上はもう全く恐れていないことを示したくて、すぐに手を取った。


 ルノは勢いよく起き上がってきて、そのまま俺に抱き着いてきた。


「てめぇ!」

「大丈夫。ただの親愛のハグだから」


 こわい。こいつの存在が嫌で、むかついて許せないのに、いざ動き出したこいつを見ると怖くて体が硬直してしまう。


 抱き着いてきたルノからは甘くていい匂いがした。


 少しの間、ハグをし続けてからルノは俺のもとを離れた。特に何かをされていた感じはしていないはずだ。


「それでこの後はどうする」

「この後? この街から逃げるんじゃないのか」

「その前だよ。逃げるのはそうだけど、君の仲間の子供たち。彼らをどうするかってこと」


 どういうことだ。どうするも何もないだろ。


「え? まさかあんな裏切られたままでいいの。私だったらあんなことされたら殺しちゃうな」

「っ」


 そうだ。そのあとに起きたことが強くて忘れていたけど、俺は裏切られたんだ。クリファがあの時に俺をなげ飛ばしたからこうなったんだ。


 そうだ。あいつらのせいで俺がこんな怖い思いをしたんだ。


「ね。殺しちゃおうよ。生かしておいてもさ君を追ってる奴らに何言うかわかったものじゃないでしょ」

「そうだな。確かにあいつらは許してなんておけない」

「うんうんそうだね。それじゃいこっか」


 今度は手を伸ばしてきた。俺はその手を取ろうそうとしてやめた。なんでこいつの言ったとおりにしようとしてるんだ。


「ん? どうしたの」

「なんでおまえを信じそうになってるんだ」


 伸ばした手の中にある至装は再び白い色を取り戻していた。


「えー。その至装これも効かなくなるの」

「俺になにをした!」


 距離を取って剣を構えなおす。


「冗談だよ。冗談。これは私の至装の一つの効果だから」


 きっと初めて会った時から使われていたんだろう。だから俺はあの時も簡単にこいつのことを信じてしまっていたんだ。


「さあ、早くいこ。こんなことをしてると騎士が来て身動きが取れなくなっちゃうよ」

「ぐっ」


 信じるしかない。冗談だっていうこいつのクソみたいな言い訳を信じてついていくしかない。


「わかった。今はお前の言うとおりにしてやる」

「了解。それじゃあ、あの孤児たちは殺さない方向で行くのね」

「ああ」


 ルノはあの穴の場所まで移動を始めた。俺はそのあとをついていく。


 生き残るために今は我慢するしかないのだ。でもいつか、チャンスが来たらその時は……絶対に殺してやる。

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備えて、休んで、戦って。 蛸賊 @n22

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