第10話 理由
倒れている俺の前でしゃがみ込みながらルノは笑っている。
「お前はなにがしたいんだよ」
恐怖と反抗心で頭がぐちゃぐちゃになってしまいそうだ。この女の存在を今すぐここからどこかにやってしまいたい。
そう思いながらも、この女が何を知っているのか知りたいという思いもあった。
「それが欲しかったんだ」
ルノの指の先には俺の手首にはまっている
「それ? どういうことだ」
「【紫】の至装のことだよ」
何か大事な情報が俺には足りていない。話がかみ合っていないのを感じる。【紫】の至装を欲しがるのと、俺をはめることのつながりが全く見えてこない。
俺が理解していないのを感じたのかルノは補足説明をはじめた。
「あるところにある男の子がいました」
「突然なんだ」
「まあ、聞いてよ。その男の子は普通の家庭で普通に育っていきました。ところがある時、ダンジョンにもいっていないのに突然【紫】の至装を手に入れたのです。さあ、この子はどうなったでしょう」
聞きたくないと思った。まだ、何を言っているのか理解はできていない。ただ聞いちゃだめだと思う。
「……そりゃあ、幸せだろう。【紫】を手に入れたんだから」
「ぶっぶー、はずれー。正解はね、誘拐されてどうやって手に入れたのか聞き出すために拷問されて死んだんだよ」
突然手に入った【紫】の至装。そのことに聞き覚えがあった。それでも俺の頭は理解することを拒否する。
「その子がね、面白いことを話したんだって。自分はこの世界の人間じゃないとか。15歳までに必ず【紫】がもらえるようになってるんだとか」
「……それがなんなんだよ」
「君もそうでしょ。転生者」
ばれてる。俺たちの存在がこの世界の奴らにばれている。しかも今の話の内容からして最悪な形でだ。
「この話が事実だってわかった時はもうお祭り騒ぎだったらしいよ。だって【紫】が最高で1,000個は見つかるってことだからね。だから、この情報を知った人たちは急いで転生者を探し始めてるの」
聞きたくない聞きたくない。俺はそんな事実を知りたくはないし、理解したくない。
「それで私はあなたが手に入れるはずの至装が欲しかったからここに来たの」
「なんで、わかったんだ」
「ん? ああ君が転生者ってこと。ほら転生者たちって生まれたときから記憶があるわけじゃないでしょ。だから小さい時の行動とかがおかしいことが多いの。そういった情報を集めていったら君にたどり着いたの」
無理だ。もう理解するしかない。ただ、生きればいいと思ってた。敵は同じ転生者で他の危険は避ければどうにかなるって思い込んでたのに。
この先、生き残れても狙われ続けるだけの人生が待っているんだ。今この場を切り抜けられたとして俺は生きていくことができるのか。
「ほかに何か質問はないの? 無いならもう終わりにするけど。そうなったら君……永遠の苦しみを受けることになるね」
嗜虐的な笑みを浮かべて俺のことを見てくる。そうだ、そうだった。俺はこの後も苦しみ続けるんだ。死んじゃいけないんだった。
「待ってくれ。まだある、まだあるから」
「えー、じゃあ早くしてよ」
「あーえっとそうだ! 何でお前は【紫】の至装を集めているんだ」
なんて質問だ。何とか生き残ろうと意味の分からないことを聞きだしてしまった。こんなこと答えてくれるのか。
「特別って憧れるでしょ」
「は?」
「だから特別っていいよね。【紫】の至装は特別。それならそれを持ってる人も特別だって思わない? だから私は【紫】を集めてるの」
「そんな理由で俺は殺されるのか」
「うん。十分でしょ」
そんなわけない。そんな意味の分からない理由で、わがままで俺が殺されてたまるか。そう叫びだしたかった。でも無理だ。何かしてこの女の気が変わってしまったらだめだから。少しでも、少しでもいいから何とか生きていきたい。
「じゃあ、これでおわりね」
「待ってくれまだ聞きたいことが」
「もうおしまーい」
そういって剣を俺ののど元に添えた。
「あとどれくらいでこの至装が終わるのかわからないからこのまま首を切りつけ続けるね」
「あぐ」
首に違和感がある。当たってはないと思う。いやこれはどうなっているんだ。
「うーん。変な感じだな。ちゃんと剣は入ってるのに全然斬った感じがしないや」
腕を持ち上げて至装を確認する。黒くなる。もうすでに真っ黒だったものが、もっと黒く、真っ黒になっていく。
何とか剣をどかそうともがくが、どうやっても動きそうにない。
「ああああああああ」
「がんばれー」
「やだやだやだやだ」
黒くなっていく。どんどん黒くなってついに止まった。至装が光を放つのが見えた。
次の瞬間、ルノは吹き飛んでいった。
「え?」
「ぐふっ。は? 何で補正が……貫通?」
吹き飛んだことで壁にたたきつけられている。その口からは血が垂れていた。何が起きた、手首の至装は光が落ち着いていた。そして徐々に白色に戻り始めている。
今起きていることはこの至装の能力だと理解した。敵の攻撃を耐え抜いて最後には吹き飛ばす。それこそがこの至装の能力なんだ。
彼女が持っていた剣は俺のもとに落ちていた。俺はそれを拾い構えた。
そしてルノを斬りつけた。だがルノはしっかり俺の方を見ていたようでその攻撃をよけようとした。結果腕だけが斬れた。
「ぎゃあ」
「ははははは。形勢逆転だな」
倒れ込んでいるルノを見て俺は笑いながらそう告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます