推理小説っぽい何か

黒蓬

霧の中の真実

ある小さな港町では、夜になると濃い霧が町全体を覆い隠す。

その霧の夜、探偵である西園寺梓(さいおんじ あずさ)は、住人たちから絶大な信頼を受けていた町医師、柏木医師の邸宅で起きた不審死事件に呼び出された。

犠牲者は柏木医師の妻、美奈子。死亡推定時刻に美奈子は家に一人だったため、第一発見者となった柏木医師は「妻は自殺だった」と主張していた。


町の誰もが柏木医師の無実を信じている中、梓だけが「これは殺人だ」と確信していた。犯人を見つけるために梓は動き出すが、真実は霧の中に隠れているかのようだった。


梓はまず町の住人たちから聞き込みを行った。柏木医師の診療所の患者たちは皆、あの人がそんなことをするわけがないと証言しており、現に死亡推定時刻にも、ある患者の下に訪問診療をしていたことが証明された。

しかし、密かに話を聞いた一人の老人、三宅からは耳を疑うことを口にした。


「柏木先生は優しい医者だが、最近の美奈子夫人との関係は冷え切っていた。それにあの夜、診療所から二人のものではない声が聞こえたんじゃ・・・」


三宅の証言を元に診療所を調べていた梓は、ふとした弾みにバランスを崩した。

転倒を防ぐため思わず壁の絵画に手を突くと、ガタンと音がして壁の一部に設置された隠し扉を発見する。その中には医療記録には記載されていない患者の詳細が記されていた。霧の中、梓はこの町に何か大きな秘密が隠されていることを悟る。


梓は柏木医師の過去を調べる中で、彼がかつて医療ミスで患者を失い、その事実を隠蔽するために病院を辞めてこの町に移り住んだことを知る。さらに、別の町に住んでいて柏木の診療所を訪れたことのある者の中に、不審死を遂げている者が何名も居ることを突き止めた。


だがその夜、柏木医師自身が梓を訪ねてきた。


「探偵さん、君はこの町の闇に触れすぎている。これ以上は止めるんだ。」


梓が何を知っているのか問いただすと、柏木医師は一瞬の迷いを見せる。だが突然、医師の背後の窓が霧の中から割られ、何者かが飛び込んでくる。その男は西園寺の助手である宮田だった!


宮田は大声で叫ぶ。


「梓さん、この人は犯人じゃない・・・俺は犯人を見たんだ!」


梓は、宮田の突然の行動に動揺しつつも、話を整理していく。彼の主張はこうだった。美奈子夫人の死は柏木医師によるものではなく、「幽霊の仕業だ」と。

夫人の死んだ夜、偶然この町を訪れていた宮田は半透明の女性が美奈子夫人の首を絞めているのを見たというのだ。


「その光景を見てあなたは助けに行かなかったの?」


「いや、行こうとしたんだ。でも、靴を履くために一瞬目を離した次の瞬間には二人の姿はなかった。その後、その場所に行っても何もなかったんだ」


この町に呼ばれた時に宮田が同行を断ったのは、そんな気味が悪い光景を見たからという話だった。だが、その後事件のことが気になり、今に至るというわけだ。


梓は助手の告白した幽霊発言に頭を悩ませながら、霧の中の診療所に向かう。隠し部屋に会った資料をもう一度確認しようと扉を開けると、そこには柏木医師と彼に瓜二つの人物の死体があった。


「やはり、そういうことでしたか。あなたは双子の兄弟を使ってアリバイ工作を行い、その間に美奈子夫人を殺害したんですね?」


「ち、違う!こ、これは、その・・・確かに、兄を殺したのは俺だ。俺は兄が裏で行っていた人を化け物に変えてしまう秘密の儀式が許せなかったんだ。だが、美奈子さんを殺したのは俺じゃない!本当だ!」


彼、柏木医師の弟である克也は必死でそう弁明した。

だが証拠は揃い過ぎている。梓はそんな彼に自首を勧めるべくと口を開き――


「彼の言う通りよ!犯人はあなたでしょ?、桜」


そう言って、その場にスゥっと姿を現したのは梓そっくりの女性だった。


「お、お姉ちゃん。どうしてここに・・・ううん、それより急に何を言ってるの?彼は自分の兄も殺しているのよ?どう考えても――」


急に現れた姉に驚きつつも桜はその発言を否定したが、梓は容赦なく追い詰めた。


「私の隠し部屋にある物質転移装置が誰かに動かされた痕跡があったわ。それに私の調合した試薬も一本無くなっていた。そこでピンときたのよ。あなたは私の試薬を物質転移装置を使って美奈子さんの体内に転移させて殺したのよ。そしてそれを隠すために私のふりをして事件を解決しようとした。そうでしょ?」


「ち、違うわ。それに私がやった証拠なんてどこにもないじゃない!」


「残念ね。確かに痕跡の消し方は完璧だったわ。けれど、私は物質転移装置の履歴を復元できるの。あなたが使った証拠はそこにきっちり残っていたわ」


梓が決定的な証拠を突き付けると、桜はがっくりと膝をついた。


「あの人が、あの人が悪いのよ。私の好きな人を横取りしようとしたから!」


そう言って西園寺桜はその場に泣き崩れた。


梓は真実を暴き、桜と克也は逮捕された。

しかし、助手の宮田は梓の推理を信じず、未だに「幽霊説」を語り続けていた。

そして、事件の特殊性から真実は町の住人には伝えられず、事件は霧とともに隠されることとなった。


--------------------------------


以下、余談です。


◆紹介文に記載のあることについて


今回は【ノックスの十戒】(たぶん有名な、推理小説を書く際のルール)を全部破ったもの書いてみたくなって、こんなお話になりました。

ミステリー初心者なので、破り方が大雑把だと思いますがご容赦をm_ _m

最後までお読みくださりありがとうございました!


以下、ウィキペディアより引用


 1.犯人は、物語の当初に登場していなければならない。

   ただしその心の動きが読者に読みとれている人物であってはならない。

 2.探偵方法に、超自然能力を用いてはならない。

 3.犯行現場に、秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない。

 4.未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない。

 5.主要人物として超人的な身体能力を持つ人間を登場させてはならない。

 6.探偵は、偶然や第六感によって事件を解決してはならない。

 7.変装して登場人物を騙す場合を除き、探偵自身が犯人であってはならない。

 8.探偵は、読者に提示していない手がかりによって解決してはならない。

 9.探偵助手は、自分の判断を全て読者に知らせねばならない。

   また、その知能は、一般読者よりもごくわずかに低くなければならない。

10.双子・一人二役は、予め読者に知らされなければならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

推理小説っぽい何か 黒蓬 @akagami11

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ