第3話

「はい、どうも」

『一躍未来予知で有名になれたな』

大御所芸人のあの方である。

私はついにこんなところまで辿り着いた。

まさかの電話、

つい最近までは夢にも思ってもいなかった。

『でもな、それはひとときの合間や』

その言葉に釘を刺された。

確かにそうだ。

私の武器は今や未来予知だけではないか。

『本当に未来を見えているのか?』

私はその問いにひたすら悩む。

どう返すべきか。どう返したらいいのか。

「いえ、」

その言葉を発端に、私はまたも追いやられた。










『え、彼は嘘をついていたんですか』

そうである。翌々日の生放送で、

大御所芸人の彼がそのことを

打ち明けたのである。

私の元にいくつもの苦言や叱責が撒かれた。

どうして、そんなことをしたんですか?

そう聞く暇もなく、

私は芸能界の隅に追いやられた。

『どうして、そんなことをしたんですか?』

とインタビュアーに同じように聞かれた。

私は嘘をついていません、

そんなことも言えるはずがなかった。

ようやく出た言葉は。

「ある大御所芸人が亡くなります』











彼はその日のうちに息を引き取った。

心疾患のためである。

私はその力を悪魔と称し、

もうここまできたら

その力をそうしたことに

使わざるを得ないと思ったのだ。

それから私は一部のコミュニティで

教祖などと呼ばれることになった。

ある意味で新興宗教のような。

気に入らないものは、殺める。

そうしたことで私は世界を牛耳ろうとした。




















そう、私は今、板が抜ける台の上にいる。














「思い残したことは」

そう問われると割とないものだ。

最後の晩餐と呼ばれるものは

大好きなレトルトカレーを食べた。

やっぱり自分で決められるんだな。

こんな質素なもの皆頼まないだろう。

美味かった。こんなに美味しかったなんて。

売れていない頃を思い更けながら、

質素な食事を摂った。

これが最後。最後である。

私は売れた、売れたが死刑だ。

準備は整った。

ロープって、こんな太いんだっけ?

手汗がすごい。今生きてんだな。

しばらくするとこの心臓は止まる。

床を見ちゃダメだ。

それにしても不思議な人生だった。

まさか教祖になるなんて。

やり残したことはたくさんある。

何よりも色んな芸能人の仕事できてよかった。

俺は人を笑かすために

芸能界に入ったんじゃないのか?

思えば人を殺すために芸能界に入っちまった。

笑かしたい、笑かしたい。

あの頃を思い出させたい。

みんなが笑ってくれた景色を。

その目に添えて私は目を閉じた。

「ありがとうございました、

来世こそは芸人になります」

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未来予知漫談 雛形 絢尊 @kensonhina

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