戦争の裏に潜む謎
悠たちはラディに案内され、モンスターの出現地点に向かっていた。空気は張り詰め、周囲の住民たちは不安げに家の中から様子をうかがっている。瓦礫の間を縫うように歩きながら、悠はふと、ラディに尋ねた。
「モンスターを召喚してる黒幕って、何か手がかりはあるのか?」
ラディは振り返りながら答えた。「今のところ、正確な情報はない。ただ、噂では帝国側が禁術を使ったと言われているが、それも証拠はないんだ。」
「じゃあ、どっちが原因かはまだ分からないんだな…。」悠は苦い顔をした。
リリアが口を挟む。「それって、わざと情報を混乱させてる可能性もあるわね。モンスターが出れば、両軍とも市民の信頼を失うし、戦争そのものが泥沼化する。」
「誰かが裏で操ってる…?」セリナが静かに推測を漏らす。
ラディはため息をついた。「その可能性はある。だが、俺たち自警団にはそれを探る余裕はない。目の前のモンスターから街を守るのが精一杯だよ。」
その言葉に、悠たちはさらに緊張感を強めた。モンスター討伐は目の前の問題を解決するための一歩にすぎず、戦争そのものの背景にはもっと大きな陰謀が隠れているのではないかという予感が頭をよぎる。
目的地に到着すると、そこはかつての交易所だった広場だった。だが、今は荒廃し、周囲には帝国兵と王国兵の死体が散乱している。その中央で、大型の魔物が荒れ狂っていた。見た目は獣のようだが、体中に黒い霧がまとわりつき、異様な雰囲気を放っている。
「あれが…!」ラディが声を上げた。
「確かに普通のモンスターじゃないな。」悠は剣を構えながらモンスターに視線を向けた。そのとき、リリアが急に叫ぶ。
「待って!あれ、召喚の紋章が見えるわ!あの霧の奥に…!」
セリナもそれを確認し、「あの紋章を破壊すれば、モンスターが消える可能性があります。でも、誰がここで召喚したのか…?」と疑念を抱く。
悠は剣を握り直し、力強く頷いた。「疑問は後回しだ。まずは、あの紋章をどうにかしよう。」
悠たちは三人で連携を取りながらモンスターに立ち向かった。ラディも弓で援護しつつ、自警団の仲間たちを引き連れて周囲を固める。
「悠、あの霧を切り裂けるか?」リリアが声を張り上げる。
「やってみる!」悠は力を込めて地面を蹴り、モンスターに突進した。剣に光が宿り、一気に黒い霧を切り裂く。
すると、霧の向こうに隠れていた召喚の紋章が露わになった。それは赤と黒の複雑な文様で構成され、禍々しい光を放っている。
「これだ…!」悠が剣を振り上げた瞬間、上空から声が響いた。
「そこまでだ!」
悠たちは驚いて見上げると、一人の人物が降り立ってきた。真っ白なマントを纏い、威厳を漂わせたその人物の胸には、帝国軍の紋章が輝いている。
「君たちが何者であろうと、この召喚を邪魔することは許されない。」低く冷たい声が響いた。
「帝国の将軍か…?」ラディが驚愕の表情を浮かべた。
「違う!」リリアが鋭く指摘する。「この人、魔力の質が普通じゃない。まるで…」
その言葉を遮るように、白マントの人物が口を開いた。「我が名はリオン。この召喚を止めるわけにはいかない。なぜなら、これは戦争を終わらせるための手段だからだ。」
「戦争を終わらせる?」悠が疑問を投げかけた。
「そうだ。だが、それはお前たちには理解できないだろう。今はただ、この場から消え去れ。さもなくば、容赦はしない。」
悠は剣を構えたまま睨み返す。「悪いが、ここで引くわけにはいかない。俺たちは街を守るために戦ってるんだ。」
その言葉に、リオンは冷笑を浮かべる。「ならば、力で語るしかあるまい。」
リオンが手を上げると、再び黒い霧が広がり、紋章がさらに強い光を放ち始めた。そして、周囲に新たな魔物が次々と現れ始めた。
「悠!」リリアが叫ぶ。「一気に決めるしかないわ!」
悠は全力で駆け出し、リオンの背後にある紋章に向かって剣を振り下ろした。その瞬間、激しい光と爆音が辺りを包み込む。
光が収まったとき、悠たちが見たのは、崩れかけた紋章と倒れ込む魔物たち、そしてその中央で立ち尽くすリオンだった。
「ふん、少しはやるようだ。」リオンは静かに言い残し、黒い霧とともにその場から姿を消した。
「消えた…?」リリアが驚きの声を上げる。
「一体何者だったんだ…?」悠は剣を下ろしながら、戦争の裏に隠された謎への疑念を深めていった。
だが、悠たちにはまだ休む暇はなかった。この戦いはただの序章にすぎず、戦争の真の黒幕に迫る旅が今始まろうとしていた。
世界最強タンクは隠居したい〜シャイすぎるタンクの冒険譚〜 @ikkyu33
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