帝国と王国



悠たちはラディに導かれ、街の中心へと進んでいった。その道中、徐々に周囲の空気が重くなり、街の景色も不穏な雰囲気に包まれていることに気づく。建物の壁には戦闘の痕跡があり、道路には砕けた瓦礫や破れた旗が散らばっていた。


「どうしてこんな状況になってるんだ?」悠が思わず口にした。


「それは…」ラディが少し顔をしかめながら言った。「この街は、かつて大きな王国の一部だったんだ。でも、今は違う。北の帝国と南の王国が争っていて、ここがその戦争の最前線になってる。」


「帝国と王国…?」リリアが疑問を投げかける。


「そうだ。北の帝国は圧倒的な軍事力を誇る国で、南の王国はその隣国。かつては友好関係にあったんだけど、最近、領土を巡って争いが激化して、今では毎日のように小競り合いが続いているんだ。」ラディが続けた。


「それで、この街はどうなる?」セリナが冷静に尋ねた。


「街は、どちらの陣営にも重要な拠点とされている。でも、どちらも完全に支配しているわけじゃなく、戦闘が続く中で、民間人も巻き込まれている状況だ。自警団の仕事は、できるだけ市民を守りながら、戦火を避けることだが…」ラディは言葉を濁した。


悠は少し眉をひそめた。「つまり、この街も戦争に巻き込まれてるってことか。どちらかが勝ったら、また状況が変わるってわけだな。」


「その通りだ。」ラディは小さくため息をつきながら言った。「だけど、実は最近、帝国と王国の戦争が一段と激しくなったんだ。特に、あのモンスターたちが出現したのが原因で…」


「モンスター?」悠が目を見開く。


「うん、どうやらどちらかの陣営が、魔法や禁呪を使って、モンスターを召喚して戦わせているらしい。その影響で、街の周辺にも異常なモンスターが増えた。普通の戦争なら兵士たちだけで済むところが、魔物が現れることで、一般市民や自警団まで手に負えなくなっている。」


悠たちはその話を聞き、やはりこの街に潜む問題が単なる内戦以上のものであることに気づいた。


「じゃあ、俺たちが来たことで、少しでも戦力になるってことか?」悠がラディに尋ねた。


「その通り!君たちのような強い冒険者が来てくれるなら、戦局も少しは変わるかもしれない。君たちがモンスターを倒してくれるだけで、俺たちの自警団も戦いやすくなる。」ラディはうれしそうに言った。


「わかった。」悠はうなずいた。「なら、まずはモンスターを倒しに行こう。街を守るためにできることはしないと。」


その言葉を受けて、リリアやセリナも気持ちを新たにし、次々と街の中に進んでいく。


やがて、街の中心にある広場に到着すると、そこには数名の自警団員が集まり、帝国と王国の軍勢が交戦している様子が見て取れた。広場の周囲には、どちらかの軍勢が占拠したと思われる装備や旗が乱雑に置かれ、戦闘の真っただ中だ。


「見ろよ…」リリアが目を見張りながら言った。「あれ、帝国の軍の使ってる魔法だ。」


「いや、王国の魔法だろ。」セリナが反論し、二人は言い合いながらも戦局を見守った。


そのとき、ラディが二人の間に割って入るように言った。「今、君たちがやるべきことは、この戦争のどちらかに参加することじゃない。モンスターを倒して、街を守ることだ。そうしないと、戦争の前に全てが崩壊してしまう。」


悠はその言葉を聞き、戦場を見渡した後、決意を新たにした。「わかった、まずはモンスターを倒すために動く。それができれば、次の手が見えてくる。」


そして、悠たちは自警団とともに、街を守るために動き始めた。モンスターたちが出現する場所を特定し、戦場に足を踏み入れていく。


その先に待っているのは、敵兵との戦闘だけではなく、モンスターの群れ、そして彼らを召喚した黒幕の存在が明らかになる瞬間だろう。しかし、悠たちの心には、少しずつ確かな希望の光が差し込んでいた。

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