第6話
「ん~っと、今日は突然どうしたの?」
対面の椅子に座る保科君に俺は尋ねた。
◆ ◆ ◆
マネージャーから連絡が入り、事務所に呼び出された。
事情を知らされずに事務所に来ると、そこには保科君がいた。
何やら、どうしても俺に頼みたい事があるらしくマネージャーに嘆願していたらしい。
いったい何事だ?
彼と会ったのは半年くらい前のライブの時だけの筈。
その後、連絡をとったという事も無い。
何の関係も無い一般人ならばマネージャーも断固として断っただろうが、一応は前座の経験があり、同じコンピレーションアルバムに参加したりという事もあったので特別に許可したらしい。
俺個人としても、保科君が変な事を企むような人物だとは思っていない。
事務所で顔を合わせた後、話をする為近くの喫茶店に場所を移した。
◆ ◆ ◆
「実は、三谷さんにお願いがありまして……僕等『コム』の解散ライブに出ていただけませんか?」
保科君はテーブルに頭が付きそうなほど頭を下げてそういった。
「えっ!?解散しちゃうの?なんで?」
俺は”お願い”の方よりも”解散”の方に食いついた。
その後、保科君は解散の経緯を語った――
「はぁぁ……まぁ、仕方ないのかなぁ。そういう話だと……」
「ええ、まあ……」
保科君はバツが悪そうに俯く。
おそらく彼も本意では無いのだろう。
だが、抗えない。
そういう状況だという事は理解できた。
「保科君はそれでいいのかい?」
俺は分かり切った質問をした。
少し意地が悪いかな?
ただ、彼の想いをはっきりと聞いておきたかったのだ。
「僕にはどうにもできない事なんで……」
「そうじゃなくて、君はどうしたかったんだい?」
「それは……」
保科君は言葉に詰まる。
俺は彼の言葉を待った。
「……僕個人としてはバンドを続けたかったです。ただ、どうしようもなくて……」
辛そうに語る保科君。
やはり酷な事をさせてしまったかな?という罪悪感は残った。
そして、その罪悪感こそが彼を手伝う理由となる。
「そっか。……で?俺は何をすれば良いんだい?……出来る事なら協力するよ」
俺は保科君にそう言った。
自分の意思で動くだけなのに、色々と理由探しをしてしまう。
嫌な大人になったもんだ――
完(『アドバンッ!!』45話へ続く)
アドバンッ!!~Climbed stage~【圧縮版】 麻田 雄 @mada000
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