マジカル☆シャイニースターのアリアと黒猫ノアの不思議な魔法の夜

野々宮ののの

マジカル☆シャイニースターのアリアと黒猫ノアの不思議な魔法の夜


黒猫を飼い始めた。


黒猫じゃなきゃダメだった。

だって、「魔法使いの相棒は黒猫」って昔から相場が決まっている。


そう、私は魔法使いだ。

小さな頃からずっとずっと魔法使いになりたかった。

小さな頃から「いつか魔法が使えるようになる」と信じ続けてきた。


6歳、幼稚園を卒園するときに将来の夢を聞かれた。

魔法使いになりたいと言ったらみんなに応援してもらえた。

10歳、ハーフ成人式のときに将来の夢を聞かれた。

魔法使いになりたいと言ったらみんなになんだか苦笑された。

12歳、小学校を卒業するときに将来の夢を聞かれた。

魔法使いになりたいと言ったらみんなに苦い顔をされた。


「もう中学生になるんだからそういうの言わないほうがいいよ」

友達はそう言った。

「そろそろ現実的な進路を考えてくれない?」

親はそう言った。


でも私はあきらめなかった。

そして18歳になった今、私はちゃんと夢を叶えて魔法使いとして働いている。


「魔法使いになるから大学には進学しない」

そう宣言したら家を追い出された。

でもいいんだ。これで念願の一人暮らしができる。願ったり叶ったりだ。


というわけで、私はさっそく相棒の黒猫をお迎えしたのだ。


「さっそく名前をつけなきゃね。そうね……」

少し考える。

「あなたはノアよ。私の相棒。よろしくね」

黒い子猫はにゃあんと鳴いた。


せっかく魔法使いの相棒としてノアをお迎えしたのだから職場、もとい私のギルドにも連れていきたいな。

ノアを肩に乗せて仕事をしてみたいな。

その方がずっと魔法使いっぽいから。


でも、そんなことしたら怒られちゃうから仕方ない。

ノアには悪いけど、私が魔法使いのお仕事をしている間は、お留守番をお願いしよう。



「旅人さま、お帰りなさいませ!」

これが魔法使いのフィールドでの定番ごあいさつ。

「アリアちゃん!今日もかわいい!!」

「あー!タカシさんまた来てくれたの?嬉しい!」

旅人さんの名前を覚えるのは魔法使いの基本の基本。

「あいこめ、いきま~す!萌え萌え、きゅん!」

そして、これが魔法使いの呪文。


私のフィールドはA駅近くにある魔法使い系コンセプトカフェ「マジカル☆シャイニースター」。


運良く魔法使いになれた私の主な仕事は、ギルドで旅人さんをお出迎えすること。


本当は、広いフィールドに冒険に出かけて悪いヤツを討伐したい。

魔法を使って思いっきり戦って、輝く愛と正義の心を示したい。


でも、この国でそういう風に活躍するのは難しい。

そもそも、この国には魔法使いの求人が少なすぎる。


だから私はこのギルド「マジカル☆シャイニースター」で頑張ることにした。

理想とはかけ離れているかもしれない。

それでも私のギルドには、私が憧れ続けたキラキラしたものがあふれている。


特に、魔法使いのコスチュームがかわいい。

フリルとレースたっぷりのミニスカワンピに、魔法使い定番のローブ。

そして頭にはブラックのとんがり帽子。


カフェの店内だって思いっきりかわいい。

ゴシック風のテーブルや椅子を並べたクラシカルな空間は、色とりどりの明かりで照らされている。

そして地面には大きな魔法陣。


私はこのギルドで旅人さんたちにお給仕をする。

ギルドでは、魔法がかけられた紅茶やコーヒー、そして魔法陣を描いたオムライスが人気。


このギルドでは、魔法使いも旅人さんも魔力を回復させながら癒しの時間を過ごせるんだ。



「マジカル☆シャイニースター」を訪れる旅人さんはみんな、愛と正義の心を持っている。

……と言いたいところだけど、実はそうでもない。

いい人ばかりとは限らないのが世の常だ。


魔法使いの女の子たちに触るのは禁止なのに、手を握ってくる旅人さんがいる。

「どこに住んでるの?彼氏いるの?」なんて聞いてくる旅人さんもいる。

こんな夢のような世界で過ごしているのに、どうしてそんなことをするんだろう。


それに、お仕事が終わって帰ろうとするときに、ギルドの周りで待ち伏せする旅人さんもいる。

ギルドでは「ジークハルト」と名乗る旅人さん。

だけど、魔法使いたちからは陰で「ストーカー」って呼ばれてる。

背が低くて、やけにお腹が出ている男の人だ。


ストーカーのジークハルトは週に2回ぐらいギルドにやってくる。

そして、その日の夕方や夜には、必ず魔法使いを待ち伏せしてる。


私はオンもオフもなく、いつだって魔法使いとして生きている。

それでも、お仕事が終わったあとに気を張るようなことはしたくない。

ストーカーさん、見つからないようにあとをつけてるつもりなんだろうけど、バレバレなんだよね。

それで私はいつも、路地の角を曲がったら全力ダッシュでその人をまいてしまう。


正直、イヤだなあって思う。


でも、魔法使いってのは楽しいばかりの仕事じゃない。

一流の魔法使いになるためには、たくさんの困難を乗り越えなきゃならない。

毎日いろんなことがある。魔法使いってそういうものだ。


それが魔法使いの現実。

私は現実世界で、強い魔法使いになるために今日も頑張っている。



仕事を終えて帰宅する頃には疲労困憊こんぱい

「ノア、ただいま」

ひとりぼっちにさせていたから不安だったけど、黒い子猫は今日も大人しく過ごしていたみたいだ。

なんていい子なんだろう!


「あー、すぐにでも寝ちゃいたい」

一旦はベッドに転がったものの、ノアが寄ってきてにゃあんと鳴いたから思い直した。


「せめてお散歩にでも、行こうか」

猫にお散歩は不要。そんなことは分かってる。

でもノアは魔法使いの相棒だから、一緒にお出かけするのもアリだと思う。


「おいで」

立ち上がってそう声を掛けたら、ノアは肩にするすると上がってきた。


ギルドのあたりは駅に近いから、近くは夜になってもキラキラと明るい。

けれど、うちの近所は街灯が少なくてとっぷり暗い。

でもノアと一緒なら怖いことなんて何もないからね。

ノアは私の肩の上にいてくれる。

柔らかい毛が頬に当たって少しくすぐったい。


見上げれば大きな大きな三日月。

そして無数の流れ星!

魔法使いとその相棒は、星降るキラキラの夜を渡る。


ああ、なんてステキな夜だろう!



るんるん気分で歩いていたから、その気配に気付くのが遅れてしまった。


暗がりに立っている電信柱の陰にそれはいた。

(あれって……)

真っ暗闇のはずなのに、私にはその姿がはっきり見えた。

出っ張ったお腹。間違いない。

(ストーカーのジークハルト……)


私はとっさに逃げようとした。

でも、どこに逃げたらいいの?


家に帰ろうと思った。

でも、家がバレてしまったら困る。

だからといって、家に帰れなくなるのはもっと困る。


「どうしよう……」


私の小さな声は、肩に乗っているノアに届いたらしい。

「あれは悪いヤツだよ。魔法で倒しちゃえばいいんだ」

ノアがそう言った。


魔法。

そうだ、私は魔法使いなんだ。

悪いヤツがいるなら、戦えばいいんだ!


「マジカルチェンジ!」

さっそく私は戦闘用のコスチュームに着替える。

私の周りにプリズムの光が発生して、あっという間にコスチュームチェンジが終わった。

フリルトレースたっぷりのミニスカートに魔女っ子ローブ、そしてとんがり帽子のスタイル。

そして手には太陽と月をかたどったキュートなステッキ!


そのときだった。

ジークハルトが周囲の暗闇をまとうようにして、一瞬で悪魔のような姿になった。

ああ、ホントにあれは悪者だったんだ!


「アリア、いくよ!」

「うん!」

私はノアの呼びかけに応える。


ジークハルトが黒いモヤのようなものを放ってくる。

「マジカル・シールド!」

私はステッキを振って魔法を唱えた。

目の前にキラキラ光る盾が出現して、攻撃を阻む。


さあ反撃だ!

「マジカル・シャイニースター・レインボーアタック!」

私が魔法を唱えると、ステッキからは七色のキラキラとした魔法が飛び出す。

魔法の光はまっすぐに放たれて、一気に悪者を包み込んだ。


「グワァアアアアアアア」


真っ暗な闇を七色の光が浄化していく。

そして、魔法の光がおさまったあとには、悪者はきれいさっぱり消滅していた。


「やったね!ノア」

私はノアを抱きしめて大喜びした。


月がキラキラしている。星がキラキラしている。

ああ、なんてステキな夜だろう!



「あれ……?」

いつの間にかベッドで寝てしまっていた。

「……もう朝?」

なんだか、不思議な夢を見ていたような気がする。


「ねえ、ノア」

眠そうにしている黒猫に呼びかける。

「今のって、夢?」

ノアはにゃあんと鳴いた。



私はあのとき魔法で悪者を倒したはず。

だけど、やっぱりあれは夢だったのかもしれない。


あれ以来、魔法を唱えてみても太陽と月をかたどったステッキは出現しない。

魔法の光を放つこともできない。


でも、不思議なことがある。


あの夜以来、ストーカーのジークハルトが私のギルドに来ることがなくなったのだ。


「ねえ、ノア。あれってやっぱり、ホントの出来事だったんだよね?」

私が問いかけると、黒猫はとびきり可愛い声でにゃあんと鳴いた。




《終》


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マジカル☆シャイニースターのアリアと黒猫ノアの不思議な魔法の夜 野々宮ののの @paramiy

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