第3話 二人の初恋

 いままで秘めてきた片思いを、今そっとつぶやいた。

「先輩、ずっとずっと好きでした」


 ―――◇◆◇―――


 よし。

 校正は終わり……かな……。

 右上にある『保存』をクリックする。

 そのあと、少し迷ってから作品を公開した。


 締め切りの1週間も前に提出でき、かなり気は楽だ。

 

 ……と言っても、実は少し前に書き終わっていたけれど。


「お、公開した? お疲れ様~」

「ありがとうございます、今回はいろいろお世話になったというか……」

「いえいえー。まぁ俺も先輩だしね」


「これくらいのことは当然」と言ってニコニコ笑う藍野先輩に、なぜか悔しさがこみ上げる。

 私に優しく教えてくれたのは、仮の恋人になろうとか提案したのは、全部先輩として?


「誰に対しても、私にしてくれたのと同じようにしますか……?」


 私がそう言ったのと同時に、藍野先輩の目が大きく見開かれて瞳孔が小さくなった。

 やっちゃった……。


「い、今のはっ……」


 どうしよう、笑てごまかそうか、冗談だと言ってごまかすか。

 いや、もう無理だ。そんなことで騙せる先輩じゃない。


 ぎゅっとこぶしを握って、下を向いていたら、数秒後、シーンとした部室に声が響いた。


「胡桃ちゃんだけだよ」

「っえ」


 先輩の言葉に、驚いてふりかえる。

 すると口元を覆って、ほんのりと頬が染まった藍野先輩がそこにいた。

「これ、言うつもりなかったんだけど」と前置きしてから、先輩がちらりと私の方を見ていった。


「おれが書いた小説、胡桃ちゃんに向けて書いたんだよね」

「!?!?」


 藍野先輩、と言おうとして声がかすれた。

 いつもの冗談だと疑おうとして、先輩の目が本気だったから何も言えなかった。


 先輩が書いたあの小説。

 先輩はずっと後輩のことが好きだったけど、先輩と後輩の壁があってなかなか告白できずにいた。

 1年後は自分は卒業して、君は3年生になる。

 そうしたら君は僕のことを忘れちゃうのかなって――そういう切ない話だった。


 あの小説は、先輩の本音?

 う、そ……。


「だって、それって……先輩が……?」

「え、ちょ、待って、もしかして胡桃ちゃん、おれの小説もう読んでる?」


 急に慌てたように頭を抱えた藍野先輩に、「もちろんです」と胸を張って答える。

 読んじゃいけないとは言われてない。先輩は「おれの前では読まないで」といったんだから。

「じゃあ、もう取り繕ってもしょうがないか」とふっと息を吐いた先輩に、私も自然と先輩の目を見た。


「胡桃ちゃん、ずっと好きだったよ」


 先輩がそう言うと同時に、ここまでの1週間が思い返される。

 私も先輩と同じだ。ずっとずっと好きだった。

 この1週間よりもずっと前から好きだった。


「えーと、返事は……」


眉の端を下げてこっちを見た先輩に、私はさらに真っ赤になりながらうろたえる。

ここで素直に好きだというのには、なんかこっちが負けたみたいで悔しい。

まぁきっと、素直に言うとしたところで、きっと私は言うことができないと思うけど。


「……私の先輩への想いは、最後の1文に込めたので」


 まだ若干顔が赤い藍野先輩に、私も真っ赤な顔を隠しながら、『公開済み』と大きく映った画面を指差す。


 こんなこと言えば、もう100%で両想い確定だ。


「それって……胡桃ちゃんが書いた小説の最後の1文ってこと?」


 小さくうなずく。

 そしてしっかりと付け足した。


「私の目の前では読まないでくださいねっ」

「はいはい、じゃあまた読んでおくね~」


先輩は、私の小説を見て、最後の一文を目にして、どんな顔をするのだろう。

私が先輩に応えた『返事』はほぼ両想い確定のセリフだ。

そのせいか、心なしか先輩のテンションがいつもより高い気がする。


ニコニコの笑顔を向けられて、もう我慢できなかった。


「1ついいですか」

「うん?」


 ——先輩、この前のネタバレのお返しです。


「『先輩、ずっとずっと好きでした』」


 ちらりと先輩を見ると、めったに見られない、本気で驚いてる表情かおが目に入る。

 やがてその目が私に向いて、そしてすべてを理解したらしい。


 「ネタバレ禁止~っ!」というやけにうれしそうな先輩の声が響いたのだった。

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初恋のネタバレ ほしレモン@カクヨム低浮上 @hoshi_lemon

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