おそらく行方不明者のポスター

春海水亭

誰を探しているのかわかりました


 ◆


 行方不明者を探すポスターってありますよね、認知症のおじいさんやおばあさんだったり、昔誘拐された子どもだったり、一番馴染み深いもので言うと、逃げ出したペットの猫や鳥を探すポスターでしょうか。頻繁に……ってほどでもないですけど、でも最近は割とスーパーとかコンビニで貼られているのを見ますよね。あと町内掲示板とか、時々家の前の壁とかにも。


 ああいうのを見るとすごい悲しい気持ちなるっていうか……恐ろしい気持ちになるっていうか、なんか、早く見つかってほしいなって思うし、それと同時に私がそんな行方不明の人を見つけられるわけがないんだから、そんな人の家庭の悲劇なんか見せつけないでくださいよ……って目を閉じたくなるような気持ちになっちゃうんですよね。


 まあ、そういうわけであんまり行方不明者のポスターって好きじゃないので、まあ、嫌なもの見ちゃったなぁ……って感じでスルーしちゃうんですよね、普通は。


『このひとをさがしています』


 スーパーの壁に貼られたポスターには子どもが書いたみたいな手書きのひらがなでそう書かれていました。普通に考えたら、行方不明者のポスターを真似した子どものイタズラですよね。


『こういうかおをしていました』


 ただ、どうも目が離せなくてついつい見てしまったんです。

 文字の下にあったのは写真――じゃありませんでした、やっぱり子どもがクレヨンで描いたみたいな似顔絵です。やたら顔が大きくて、胴体が小さくて、髪なんか黒色でぐちゃぐちゃってした感じの。


 それだけでした。


 普通なら書かれているはずの連絡先とかも無いし、やっぱり子どものイタズラですよね。でも……まあ、そのスーパー毎日行くわけじゃないんですけど、三日後とか一週間後とか、別の日に行ってもやっぱり貼られてるんですよね。管理が雑で気づかなかったってわけじゃないと思うんです。そのポスターの近くにある今日のチラシのコーナーは行ったその日のものに差し替わっていたので。


 まあ、あんまり見たくないものなんですけど、ついつい気になってしまって毎回見てしまうんですけど……最初に気づいたのは、似顔絵の髪が黄色のクレヨンで描かれていたことですね。もしかしたら金髪って意味だったのかもしれません。髪もちょっと長めに描かれていて。

 それでどうも……今貼られているこのポスター、もしかしたら前の人とは別の人を探していないか?って思ったんです。


 一週間後ぐらいに行ってみたら、また黒いぐちゃぐちゃの髪の似顔絵だったんですけど、今度は最初に見た時と違って、メガネをかけている。二日後に行ったら、同じポスターだったんですけど、四日後に行ったら、今度は髪の毛が無くなっている。どのタイミングで入れ替わっているのか、とかはわかりませんでしたし、まあ知ったところで……って感じだったんですけど、まあ不気味だなあって思って、それだけでした。


 確かに子どものイタズラじゃなくて、この裏に何か恐ろしいことがあるんじゃないか……?みたいなことは思ったんですけど、でも別に私って普通のOLですから、別に物語の主人公っていうわけでもないですし、まあ、それ以上気にしないほうが良いかな……って、まあ、あのスーパーを使うのはやめましたけど。


 でも……アレですね。

 あのポスターが貼られているのって、あのスーパーだけじゃなかったんですね。ちょっと十分ぐらい余計に自転車を漕がないといけないスーパーに行ったんですけど、その窓ガラスに貼られていたんです。例のポスター。

 やっぱり、私が最後に見たポスターとは別の似顔絵が描かれていました。黒い長い髪をして、目の下に点が三つ……多分ほくろが横並びに三つ並んでいるっていう意味なんですかね。それで、思わず、あっ!って叫んじゃいました。


 それで気づいてしまって……私、もう急いでここに来ないとって思って……それで、私……これから、どうなるんでしょうか。


 ◆


 某県のスーパーの壁に、また新しく行方不明者のポスターが貼られた。

 ポスターには『この人を探しています』の下に、目の下には小さなほくろが横並びに三つ並んだ女性の写真があった。


 その横に子どもがイタズラで描いたような人探しのポスターが並んでいる。


【終わり】

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おそらく行方不明者のポスター 春海水亭 @teasugar3g

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