厨二病に耳を傾けるとこうなる

@miri-li

プロローグ 『虚妄の中の真実』

 皆さんは〝厨二病〟をご存知だろうか。


 厨二病とは――中学2年生頃の思春期に見られる、背伸びしがちな言動を自虐する語。転じて、思春期にありがちな自己愛に満ちた空想や嗜好などを揶揄したネットスラングである。


 そして厨二病の代名詞と言えるのが、不可解な言動だ。


「妾は大瀑布にて生まれし漆黒の龍の巫女!訳あって下界に降り立っているが、以前は戦士と共に前線に出ていた。この右眼がその証。刺激すると、暗黒龍が飛び出す故、注意してほしい」


 例えばこんなのとかね。

 初めてこれを聞いた時、俺はこいつはおかしい厨二病だと割り切った。俺じゃなくてもそうするに決まっている。


 大抵の者は厨二病の言う事なんぞ、気にも留めない。嘘でしかないからだ。クラスメイトに厨二病がいても、そいつに一々注力しないだろう?疲れてしまうからな。


 事実、俺も厨二病を腫れ物のように扱ってきた。それのは厨二病を否定する世間の声も少なからず影響している。厨二病と検索すると、予測変換に『痛い』、『気持ち悪い』といったネガティブな言葉が陳列されるのだ。本当に予測変換は世間帯を分かりやすく表していると思う。俺も厨二病は痛いと思っている。だって彼らの吐く言葉は妄想の範疇でしかないのだから。そんなのを信じているようじゃ、いつまでも厨二病が忌み嫌われている現実と向き合うことは出来ない。



 しかし考えてしまうのだ。

 ―――もしも、厨二病の言うことが虚妄ではなく真実だとしたら?


 その時は自分が、世界が、どうなるんだろう?



 ◇◇◇


 今、俺の目の前には異形がいる。


 紅白の体毛に四肢と顔のバーツを埋め込み、アメーバのように行進している毛玉。何十もある赤い目玉が各々対象を認識しようと蠢く。


『エターナルドラグーンヲカクニン。ハイジョシマス』


 お決まりの文句を言われると、俺は思い切り踏み込み迫りくる異形に刀を合わせた。力に対抗するのではなく、利用して刀身を扱う。力はあまりかけなくて良い。剣技の基本だ。


 しっかりと刀身は異形の身体にめり込んだ。

 コシの強い体毛が崩れ落ち、肌まで達した刀が、異形の核へと迫る―――が異形は待ってましたと言わんばかりに俺の体を、体毛で絡め上げた。

 右脚が圧迫され、軋轢音と共に激痛が走る。


 しかし焦る必要はない。俺は暗転する視界で少女に合図を送った。


 少女は持ち前の眼帯を引きちぎった。

 瞬間顕になった眼球から白い閃光が発射され、俺と異形を繋いでいた体毛が焼けきれる。


 俺は身を翻し、赤い目玉に剣を突き刺した。破裂した眼球から、ビンク色の体液が溢れ出して降りかかる。


 尚も異形は機能している五感で俺を感知し、掴みにかかった。俺は左脚異形の額を蹴り、異形の上を取る。


 異形は自衛しようと硬質化するが、間に合わない。


 刀が異形を串刺しにした。


「暗黒龍!」


 突如俺の右腕が裂け、激しい痛みと共に患部から青黒い血が吹き出して、ボコボコと動く。その中から、暗黒龍の頭部が登場した。


 今俺に出来る、精一杯の開放――暗黒龍は顕になっていた異形の核を飲み込んだ。


「―――ッ!」


 異形は爆ぜてビンク色の液体へと還った。



 ◇◇◇


 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。


 そこでもう一度言おう。


〝もしも、厨二病の言うことが虚妄ではなく真実だとしたら?〟


 厨二病の戯言に耳を傾けてしまった俺だからこそ分かる。


 ―――その時は自分が、世界が、厨二病に飲まれていくんだ。





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